楽園異能力者

那月いくら

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4章 黒の王女様

23話

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 私は、生まれた時からステラが強かった。それも、最初からステラを2個持って生まれたのだ。
 身長や体重、体力、握力のようにステラも個人差がある。人によっては、生まれた後から、ステラが発現する、後天性のステラを持って生まれる子や、ステラを持って生まれる先天性の子、彼方のように、ステラを2個持って生まれる子がいる。彼方ようなのケースはごく稀にしか見られない。

 だから、妊娠中の母上には、結構迷惑をかけてしまった。私が持って生まれた2つのステラは、"呪縛カース"と"破壊デストロイ"。どちらも人を苦しめるようなステラで、妊娠時の赤ん坊はまだ未熟、そんな赤ん坊が母親に操作不能なステラを使えば、致死率が生存率を上回る。
 だが、奇跡的に母上は、私のステラに苦しみながらも、出産までに至った。
 こういう事は、ステラの使えない人間達の中で言う、難産ってやつだろう。だが、ステラの社会では、こんなの日常茶飯事だ。
 誰が、どんなステラを持って産まれてくるか分からないから。
 
 ステラが使える社会では、ステラが強ければ強いほど認められる社会。だから、母上がお腹を痛めて産んだ時私のステラで苦しんで産んだ時は、四之宮家全員が喜んだ。
 母上も誇らしげに
 「強い子が生まれてくれて幸せだわ」
と言って、微笑んだ。
 それからというもの、ステラ貴族の子でもあるし、ステラを持ってる子であるためか、3歳になった年には、リムジンに乗った黒いスーツの男が四之宮家にやってきた。そう楽園関係者だ。両親は、寂しげに瞳を揺らしながらも、私を楽園に行かせた。私はまだ小さかったから、何が何だかわからずに、ただ、泣くことしか出来なかった。
 子供特有の親離れする時の悲しみとは、この事を指すだろう。

 楽園に入ってから1、2年は、両親に会いたいという気持ちがあって、時々、寮の自分の部屋で泣くこともあった。
 そして、6回目の誕生日の日、贈り物かのように、玲ちゃんが寮にやってきたのだ。
 玲ちゃんは、私がここに来た時と同じ顔をしていた。少し泣き疲れて、目が腫れぼったくなっている顔。どこか寂しそうで今にも泣きそうになっている顔。
 ステラ貴族は、3歳になると、楽園が探さずとも、家に迎えが来るのだ。代々ステラが受け継がれることがわかっているから。
 だから、玲ちゃんの気持ちが痛いほど伝わる。親が恋しくて、家が恋しくて、今にも泣きそうな気持ち。
 




 時は、中等部進級式になる。
 私は、初等部卒業時点でステラ操作をマスターしていた。おかげで、彼方は、初等部首席卒業を果たせたのだ。
 だが、あんな形であんなレッテルがはられるとは思いもしなかった。

 彼方は、進級式途中、御手洗をしに、会場近くのトイレに向かった。
 用を済ませた彼方は、何やら、外が騒がしいのに気づき、そこら辺の物陰に隠れた。
 そこには、言い争ってる中等部生の集団がいた。
 私が見る限りでは、1人を3人で囲んで詰め寄っているように見える。

 「おい!なんとか言ったらどうなんだ!」
 「お前のステラ、女になれるステラなんだろ!?俺たちの前で見せてみろよ」
 「そうだ!なぁ、俺、ステラ発生薬持ってるんだけど、使ってみるってのはどう?」
 「マジかよww!使ってみようぜww」
 男達は、2人が、いじめてる男の子の両腕を押さえつけ、リーダー格らしきやつがステラ発生薬の蓋を開け、男の子に近寄る。
 「や、やめてよ…うっ…ひっく……」
 男の子は、嫌がって泣いているにも関わらず、男達は、躊躇なく男の子への嫌がらせを行使していた。
 私は、拳を握りしめ、唇を深く噛み締める。彼方は、そうやって怒りを抑えて、その場を立ち去ろうとした。
 でも、私の足は、一向にその場から動かなかった。いや、動けなかったの間違いだ。
 ステラをバカにしてた上に…………嫌がってる子のステラを薬で無理やり発生させようとするなんて…………。彼方は、さっきよりも強く、唇を噛み締めていた。
 確か、ステラ発生薬は、使い方と使う量を間違えると、使われた本人が死に至る恐れがあると言われているよね………?
 彼方は、余計に、苛立ちを抑えきれず、今いる場所から男の子の元へと足を向かせた。
 「な、何やってるのよ…………!」
 「あぁ?なんだテメェ……おい!お前ら、あいつ抑えとけ!こいつは俺一人でも何とかできるからさ」
 こいつ…どこまで腐った性格してんのよ……私が現れて逃げるかと思えば、私の前でも躊躇なくやるとか……
 

 プツン─────。


 私の中で何かが切れる音がした途端

 周りがぐらついて見えた。

 彼方は、その場に座り込み、肩の力が抜ける。

 瞬間。


 彼方は、目が白目になっているにもかかわらず、なにかに操られてるような立ち方をし、男達に自分の手のひらを向ける。
 手のひらからは、彼方の第1ステラと見られる、紫のオーラを出したカースが発動する。

 男達は、紫のオーラにまとわりつかれ、呪いに苦しみ、必死にもがいている。
 「あ………………っあ………………く…………るし…………い…………………だ……れか………。」

 フフ

 彼方は、狂った顔と笑い声を出し、男達を見下ろしていた。それも、目は白目のまま不気味に笑う。
 いじめられてた子はと言うと、彼方のステラと不気味な表情に怯えてその場を去っていたのだ。

 後から、事に気づいた先生達が慌ててこの場に駆けつけ、その場の惨状に驚く先生がほとんどだった。
 
 狂っていた私は、先生たちの手によってステラごと抑えつけられたのだ。それも、ステラ制御グッズを用いて抑えつけられたためか、ステラが発現できない。

 ステラ制御グッズとは、使う相手のステラを完全に発現させないようにできるものである。形は色々とあり、ネックレスに、イヤーカフ、ピアス、イヤリング、指輪などなど。

 話は戻って、彼方はと言うと、ステラ制御グッズをつけられたことにより、その場で気を失い、倒れ込んだ。



 そのあとの事は、彼方の記憶にはあんまり残っていなかったのだ。
 今回の事で病院からの診断では、
精神爆発型異能力暴走障害せいしんばくはつがたステラぼうそうしょうがい
と断定された。
 精神爆発型異能力暴走障害とは、興奮状態に陥ったら、今まで募っていた怒りがその場で爆発し、その精神状態がステラにも影響を及ぼす。そして、反映されたステラは使い手のステラ放出力最大限まで引き出し、暴走する。
 使い手は、興奮状態に陥った時に白目を向き、無意識にステラ暴走へと至るのだ。
 そして、これに1度かかったものは、一生この障害と付き合っていかなければならないのだ。

 そう、ここからだ。この出来事から、「化け物」「黒の王女様プリンセス」と言ったレッテルをはられ、学園生活を送ることになったのだ。
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