【完結】あやかし蔵の酒造り

朗報は汗水たらしたところでやってくる

　それは五月にしては暑い日で俺は末廣と二人で汗だくになりながら麹室を清掃していた。室温四十度超えの中薬品を撒いて、拭き掃除をするので湿度が高く不快指数は最高値に達していた。稲里はゴールデンウイーク終わりから営業として働いており、東郷は瓶詰の応援に行っていた。末廣と俺は命からがら外に出て、魔法の水を求めた。

　そこに蔵元が興奮したように小走りにやってきた。

「末廣くん、徳明くん、金賞だよ。杜氏を探しているんだけどどこにいるか知ってる？」
「二年連続金賞ですか。おめでとうございます」

　末廣が嬉しそうに蔵元にお祝いを述べた。俺も急いでおめでとうございますと言った。うんうんと、蔵元は笑みを深めて頷き、

「蔵人や皆のお陰だよ。杜氏に教えてやらないと」

　恰幅の良い身体を揺らしながら蔵の裏に向かって行った。

「金賞って一番良かったってことですか？」

　末廣に訊ねた。

「全国新酒鑑評会ではまず予審があってそこで大体半分くらい落とされる。その次に決審があってそこで選ばれた酒だけが金賞を与えられるんだ。大体八百点の中から選ばれる。今の杜氏さんになって四年。入賞二回、去年金賞取って今年連続受賞したんだ。小さな蔵だからね、すごいことなんだよ」
「おめでたいことなんですね、後で皆にメッセージを送っておきます」

　頼むねと笑って末廣が顔を洗った。
　
　水分補給を終えて、俺は蔵の中を探し回った。薄暗い蔵はほんのり涼しく、目の端で何かが蠢うごめく気配がした。杜氏は何かを考えこむように聳え立つタンクの横に静かに佇たたずんでいた。