23 / 75
ただいま、帰還いたしました!
しおりを挟む
やがて切り返しが終わった蔵人たちが戻ってきた。
「お疲れ様です」
おおと香取が声を上げた。
「帰ってきたか、徳明」
「ちっ、全く忙しい時期に一カ月も遊び惚けやがって」
苦々しく山古志が言った。
和っと稲里が嬉しそうに駆け寄ってきた。主人を出迎える犬のようだと俺は思った。
「向こうはどうだった? こっちは大吟醸の搾りはあるし大変だったよ」
「そっか、これ潤に。手ぬぐいだけど」
途中寄ったSAでやっていた和風小物のコーナーで見つけた品だった。紺色の絞り染めが綺麗で車やカッパのお礼に買ってきたのだ。
「へぇ、きれいだな。うん、室で使わせてもらうよ。ありがとな、和」
「俺らにはないのかよ、ゴン」
山古志が不満げに口を尖らせた。
「ありますよ、これ。うちの地元の地酒です」
紫野ゆきと書かれた一升瓶をどんと食卓に置いた。
「何だ、少しは気が利くようになったじゃねぇか」
「特別純米酒かどれ一つ利いてみるか」
香取がそう言ったので、俺は人数分のコップを用意した。そこに潤稲里自分のコップを一つ持って食卓に座った。
「あれ、潤も飲んでいくの?」
「今日麹当番だから泊っていく予定だったんだ。ついでついで」
そこに杜氏が戻ってきて夕食が始まった。
「なんかうちのより甘口ですね」
うちのとかゴンのじゃねぇよと山古志が茶化したが、
「確かに甘い。でも酸度があるからな。でも俺の好みじゃない」
と断じた。
「濃醇甘口か、キレがあったら良かったな」
と口々に論評していく。食事向きの酒では無かったなと思いながらも、家とはまた違うにぎやかな食事を楽しんだ。
「徳明君、明日から亀の井君と釜屋やってくれ」
食事も終盤に差し掛かった頃、杜氏が言った。わかりましたと答えると、山古志が
「明日から五時起きだな」
にやりといつもの意地悪気な顔で笑った。
起きるのが三十分早くなるだけで気持ちが重くなるのはなぜだろう。何はともあれ新しい仕事を任されたのだ。俺は残った白米を掻きこんだ。
「お疲れ様です」
おおと香取が声を上げた。
「帰ってきたか、徳明」
「ちっ、全く忙しい時期に一カ月も遊び惚けやがって」
苦々しく山古志が言った。
和っと稲里が嬉しそうに駆け寄ってきた。主人を出迎える犬のようだと俺は思った。
「向こうはどうだった? こっちは大吟醸の搾りはあるし大変だったよ」
「そっか、これ潤に。手ぬぐいだけど」
途中寄ったSAでやっていた和風小物のコーナーで見つけた品だった。紺色の絞り染めが綺麗で車やカッパのお礼に買ってきたのだ。
「へぇ、きれいだな。うん、室で使わせてもらうよ。ありがとな、和」
「俺らにはないのかよ、ゴン」
山古志が不満げに口を尖らせた。
「ありますよ、これ。うちの地元の地酒です」
紫野ゆきと書かれた一升瓶をどんと食卓に置いた。
「何だ、少しは気が利くようになったじゃねぇか」
「特別純米酒かどれ一つ利いてみるか」
香取がそう言ったので、俺は人数分のコップを用意した。そこに潤稲里自分のコップを一つ持って食卓に座った。
「あれ、潤も飲んでいくの?」
「今日麹当番だから泊っていく予定だったんだ。ついでついで」
そこに杜氏が戻ってきて夕食が始まった。
「なんかうちのより甘口ですね」
うちのとかゴンのじゃねぇよと山古志が茶化したが、
「確かに甘い。でも酸度があるからな。でも俺の好みじゃない」
と断じた。
「濃醇甘口か、キレがあったら良かったな」
と口々に論評していく。食事向きの酒では無かったなと思いながらも、家とはまた違うにぎやかな食事を楽しんだ。
「徳明君、明日から亀の井君と釜屋やってくれ」
食事も終盤に差し掛かった頃、杜氏が言った。わかりましたと答えると、山古志が
「明日から五時起きだな」
にやりといつもの意地悪気な顔で笑った。
起きるのが三十分早くなるだけで気持ちが重くなるのはなぜだろう。何はともあれ新しい仕事を任されたのだ。俺は残った白米を掻きこんだ。
0
お気に入りに追加
48
あなたにおすすめの小説
元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~
冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。
俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。
そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・
「俺、死んでるじゃん・・・」
目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。
新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。
元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。
幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?
ルイス
恋愛
「アーチェ、君は明るいのは良いんだけれど、お淑やかさが足りないと思うんだ。貴族令嬢であれば、もっと気品を持ってだね。例えば、ニーナのような……」
「はあ……なるほどね」
伯爵令嬢のアーチェと伯爵令息のウォーレスは幼馴染であり婚約関係でもあった。
彼らにはもう一人、ニーナという幼馴染が居た。
アーチェはウォーレスが性格面でニーナと比べ過ぎることに辟易し、婚約解消を申し出る。
ウォーレスも納得し、婚約解消は無事に成立したはずだったが……。
ウォーレスはニーナのことを大切にしながらも、アーチェのことも忘れられないと言って来る始末だった……。
婚約者の浮気現場に踏み込んでみたら、大変なことになった。
和泉鷹央
恋愛
アイリスは国母候補として長年にわたる教育を受けてきた、王太子アズライルの許嫁。
自分を正室として考えてくれるなら、十歳年上の殿下の浮気にも目を瞑ろう。
だって、殿下にはすでに非公式ながら側妃ダイアナがいるのだし。
しかし、素知らぬふりをして見逃せるのも、結婚式前夜までだった。
結婚式前夜には互いに床を共にするという習慣があるのに――彼は深夜になっても戻ってこない。
炎の女神の司祭という側面を持つアイリスの怒りが、静かに爆発する‥‥‥
2021年9月2日。
完結しました。
応援、ありがとうございます。
他の投稿サイトにも掲載しています。
猜疑心の塊の俺が、異世界転生して無双するとかマジあり得ない
エルマー・ボストン
ファンタジー
何のやる気も無い高校2年生、
稲葉 裕仁(いなば ゆうじ)は、
ある日、空から降ってきた謎の物体の直撃に遭い、死んだ。
そして訪れた、唐突な異世界転生。
神々の気まぐれに巻き込まれ、上手いこと乗せられつつも、嫌々ながら勇者だの大賢者だのハイパーナイトマスターだのの称号を手に入れ、転生した世界
「ムウ」の平和、そして自身の未来のため、奮闘していくこととなる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる