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大陸放浪編
世界樹~桜が咲く時~
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何日も話しかけ続けていたある日、それは唐突に起こった。
世界樹から吐き出されるように人間が出てきた。
真っ白な髪だがそれはマヤに違いなかった。
しかし、何度呼びかけても起きる気配は無かった。
「オーベロン!マヤはどうしたんだ?!」
「こんな状況見たことがない……軸としてのマヤも中に存在している。そしてここにいるのもマヤだ。だけど、魔力も召喚能力も我の加護も失っている。これは一体……?」
「ルーク殿、オーベロンは何と言ってるのですか?」
オーベロンの言葉をライアンに伝えるとライアンがマヤの首元を探った。
「賢者の石が無い」
「なるほど、そういうことか。世界樹の中でマヤはホムンクルスを作り出した。そして全ての能力と引き換えに戻って来た」
「それで、どうやったら起きるんだ?」
「わからぬ。あれほど甚大な魔力を持っていた人間がその器ごと失くしたとしたら、眠り病以上に厄介だ。魔力を供給しようにも受け止める器がない。マヤがいつ目覚めるか我にもわからん……だが」
オーベロンは世界樹の枝を一本切ると、マヤの胸に当てた。
「この枝にサクラの花が咲く時に目覚めるだろう。何年かかるかわからないぞ」
「それでも構わない、そうだろう、王子様?」
「ああ、何を言ってるか分からないが、この枝が重要なんだな?」
「そうだ。この枝の花が咲く時が、マヤが目覚める時だ」
「フローレンス王国に帰ろう……いつまでも待ちます」
おれとライアン、そしてマヤはフローレンス王国に帰って来た。
二度と戻らないと思っていたのに人生ってわからないものだ。
道中マヤは全く目を覚まさなかった。
大魔法を使ったおれですら何日も寝込んだんだ。
全ての能力を根こそぎ奪われた人間はどうやって回復するのだろうか?
おれはしばらくフローレンス王国に留まることにした。
近衛兵たちと手合わせをしたり、町を散歩したり、それなりに楽しく過ごしていた。
ライアンは毎朝必ずマヤの元を訪れ、ヴァイオリンで一曲弾いていく。
いつも同じ曲だ。
ぶらぶらしていたおれの元にペネロペ都市国家から戻ったリアンがやってきた。
「君たちの旅の話を本にしたくてね。口述筆記になるが、どうか協力してくれないか?世界樹の軸について後世に残すことは有意義なことだと思う」
「正直めんどくせぇが、それが旅をして来た者の義務なんだろうな。いいぜ、暇だから協力してやる」
あっという間に二年が経った。
エヴァンも王都に帰還したし、デヴィンも下働き修行を終えてきたらしい。
マヤの世話は屋敷の使用人だというエミリーが一手に引き受けている。
「マヤ様の面倒はあたくしが見ます!おいたわしや、マヤ様。早く意識が戻りますように」
エミリーだけじゃない。
おれもリアンもエヴァンもデヴィンも神様に祈り続けていた。
おれは初めて神様を信じようと気になった。
自分が無力な時、逆境にある時、奇跡を待ち望む時、人は神に祈るのかもしれない。
そして三年目の春、ベッドサイドに飾られた枝に蕾が付いた。
マヤの回復を待っていた者たちが毎日こぞってマヤの見舞いに訪れた。
そして、待望の瞬間はやってきた。
世界樹から吐き出されるように人間が出てきた。
真っ白な髪だがそれはマヤに違いなかった。
しかし、何度呼びかけても起きる気配は無かった。
「オーベロン!マヤはどうしたんだ?!」
「こんな状況見たことがない……軸としてのマヤも中に存在している。そしてここにいるのもマヤだ。だけど、魔力も召喚能力も我の加護も失っている。これは一体……?」
「ルーク殿、オーベロンは何と言ってるのですか?」
オーベロンの言葉をライアンに伝えるとライアンがマヤの首元を探った。
「賢者の石が無い」
「なるほど、そういうことか。世界樹の中でマヤはホムンクルスを作り出した。そして全ての能力と引き換えに戻って来た」
「それで、どうやったら起きるんだ?」
「わからぬ。あれほど甚大な魔力を持っていた人間がその器ごと失くしたとしたら、眠り病以上に厄介だ。魔力を供給しようにも受け止める器がない。マヤがいつ目覚めるか我にもわからん……だが」
オーベロンは世界樹の枝を一本切ると、マヤの胸に当てた。
「この枝にサクラの花が咲く時に目覚めるだろう。何年かかるかわからないぞ」
「それでも構わない、そうだろう、王子様?」
「ああ、何を言ってるか分からないが、この枝が重要なんだな?」
「そうだ。この枝の花が咲く時が、マヤが目覚める時だ」
「フローレンス王国に帰ろう……いつまでも待ちます」
おれとライアン、そしてマヤはフローレンス王国に帰って来た。
二度と戻らないと思っていたのに人生ってわからないものだ。
道中マヤは全く目を覚まさなかった。
大魔法を使ったおれですら何日も寝込んだんだ。
全ての能力を根こそぎ奪われた人間はどうやって回復するのだろうか?
おれはしばらくフローレンス王国に留まることにした。
近衛兵たちと手合わせをしたり、町を散歩したり、それなりに楽しく過ごしていた。
ライアンは毎朝必ずマヤの元を訪れ、ヴァイオリンで一曲弾いていく。
いつも同じ曲だ。
ぶらぶらしていたおれの元にペネロペ都市国家から戻ったリアンがやってきた。
「君たちの旅の話を本にしたくてね。口述筆記になるが、どうか協力してくれないか?世界樹の軸について後世に残すことは有意義なことだと思う」
「正直めんどくせぇが、それが旅をして来た者の義務なんだろうな。いいぜ、暇だから協力してやる」
あっという間に二年が経った。
エヴァンも王都に帰還したし、デヴィンも下働き修行を終えてきたらしい。
マヤの世話は屋敷の使用人だというエミリーが一手に引き受けている。
「マヤ様の面倒はあたくしが見ます!おいたわしや、マヤ様。早く意識が戻りますように」
エミリーだけじゃない。
おれもリアンもエヴァンもデヴィンも神様に祈り続けていた。
おれは初めて神様を信じようと気になった。
自分が無力な時、逆境にある時、奇跡を待ち望む時、人は神に祈るのかもしれない。
そして三年目の春、ベッドサイドに飾られた枝に蕾が付いた。
マヤの回復を待っていた者たちが毎日こぞってマヤの見舞いに訪れた。
そして、待望の瞬間はやってきた。
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