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大陸放浪編
英雄の回想~対面~
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エイブリー帝国から妖精の森までは水晶で出来た橋を渡った。
妖精の森は雪深いエイブリー帝国の更に北にあるとは思えないほど、緑が豊かな土地だった。
そこかしこに妖精の姿が見える。
マヤときたらこの期に及んで花畑ではしゃいでいた。
こんな顔も見納めかもしれないとおれは思った。
あと少し、もう少しだけでも一緒にいたくてここまで連れてきてしまった。
その日はそこで休むことにした。
その翌朝だった。
妖精たちが騒がしいと思って、導かれるまま来てみたら、
マヤが父親であるアスターファを召喚していた。
おれは初めて見る親父の顔に驚いた。
おれたちはよく似ていた。
「そいつが親父なのか?」
「口が悪いな。我が息子よ。良いだろう、契約に応じる」
「それでは私は離れたところに控えておりますので、何かありましたらお呼びください……それじゃあ、ルークさん。私ができるルークさんへのお礼はこれが精一杯です。言いたいこと全部話してきてください!」
そう言い残すとマヤは花畑の中へと戻っていった。
おれは一体何から離したらいいか見当がつかなかった。
恨み言を言えばいいのか、それとも母について話せばいいのか、今の現状について話せばいいのか。
「ルークだったな?」
「へぇ、百年前に見た赤ん坊の名前を未だに憶えているなんて意外だぜ」
「忘れるものか。リリアーヌの忘れ形見だ。余が王族に呪いをかけた後、どうなった?」
「親父殿の考えなしのお陰でおれと母さんは流浪の日々を送ったよ。旅商人の護衛について、いろんな国を旅した。そこで歳を取らない、青髪のおれは疎まれた。でも同時に母さんが助けた人や旅商人の仲間から感謝された」
「つくづく人間は勝手で脆弱で愚かだな。同じ種族でありながらどうして排斥しようとするのか、争うのか理解に苦しむ」
「親父が言うそのくだらない人間たちを母さんはその身を挺して守り続けた。やがて、母さんの足では旅が難しくなって平和な村に隠れるようにして暮らした。母さんはゆっくりやせ細って、枯れるように死んでいった。穏やかな最期だった」
「リリアーヌは幸せだったか?」
「親父の事で恨み言一つ言わなかった。自分が国を追われても、流れ者として暮らしても、いつも笑っていた」
「それなら良い。それからルーク、お前はどうしてこんな場所にいるのだ?」
「世界樹の軸になるために来た。この世界の西大陸を支える世界樹は枯れかけている。西大陸全土に魔力不足による眠り病が蔓延している。崩壊を防ぐためにおれが必要なんだ」
「何故、ルーク、お前でなければならない?先程の娘でも構わないだろう?」
「おれはマヤのいるこの世界を守りたい。そのために軸になると決めたんだ」
「……なるほどな。理解した」
「最期に親父に会えて良かったよ。言いたいこと言えて、すっきりした」
「ルークよ、余はリリアーヌを失って百年生きた。どれほど苦しんでも、それでも、消滅することは許されなかった。だが、生き続けてきた結果、こうしてお前に会えた。お前にもいつかこの時間が無駄ではなかったと理解できる日が来る」
「言いたいことはそれだけか?マヤを呼んでくる。もう話すことも無いし、今更思春期でも反抗期でもないんでね」
おれは親父を残してマヤを呼びに行った。
マヤは花畑に寝そべり、眠っているようだった。
以前もそう思ったがマヤはこうして野に咲く花の方が、華やかで豪奢な花よりも似合う。
おれはマヤに声をかけた。
「終わった」
「そうですか。ちゃんと話せましたか?」
「ああ、国を追放されてからの母の人生について話したよ……帰る前にあんたに礼が言いたいそうだ。小川のところで待ってる……ありがとな。胸のつっかえが降りた。最期に親父に会えて良かった」
「この旅でここまで来れたのもルークさんのお陰です。それじゃあ、行ってきますね」
最後の最後に胸のつっかえが下りた。そう思った。
しかし、おれはこの時、一人でマヤを行かせるべきではなかった。
おれはこのことを一生後悔することになった。
ちっとも戻ってこないマヤを迎えに行くと見覚えのない魔力を感じた。
オーベロンを呼び出し、その答えを聞き愕然とした。
妖精の森は雪深いエイブリー帝国の更に北にあるとは思えないほど、緑が豊かな土地だった。
そこかしこに妖精の姿が見える。
マヤときたらこの期に及んで花畑ではしゃいでいた。
こんな顔も見納めかもしれないとおれは思った。
あと少し、もう少しだけでも一緒にいたくてここまで連れてきてしまった。
その日はそこで休むことにした。
その翌朝だった。
妖精たちが騒がしいと思って、導かれるまま来てみたら、
マヤが父親であるアスターファを召喚していた。
おれは初めて見る親父の顔に驚いた。
おれたちはよく似ていた。
「そいつが親父なのか?」
「口が悪いな。我が息子よ。良いだろう、契約に応じる」
「それでは私は離れたところに控えておりますので、何かありましたらお呼びください……それじゃあ、ルークさん。私ができるルークさんへのお礼はこれが精一杯です。言いたいこと全部話してきてください!」
そう言い残すとマヤは花畑の中へと戻っていった。
おれは一体何から離したらいいか見当がつかなかった。
恨み言を言えばいいのか、それとも母について話せばいいのか、今の現状について話せばいいのか。
「ルークだったな?」
「へぇ、百年前に見た赤ん坊の名前を未だに憶えているなんて意外だぜ」
「忘れるものか。リリアーヌの忘れ形見だ。余が王族に呪いをかけた後、どうなった?」
「親父殿の考えなしのお陰でおれと母さんは流浪の日々を送ったよ。旅商人の護衛について、いろんな国を旅した。そこで歳を取らない、青髪のおれは疎まれた。でも同時に母さんが助けた人や旅商人の仲間から感謝された」
「つくづく人間は勝手で脆弱で愚かだな。同じ種族でありながらどうして排斥しようとするのか、争うのか理解に苦しむ」
「親父が言うそのくだらない人間たちを母さんはその身を挺して守り続けた。やがて、母さんの足では旅が難しくなって平和な村に隠れるようにして暮らした。母さんはゆっくりやせ細って、枯れるように死んでいった。穏やかな最期だった」
「リリアーヌは幸せだったか?」
「親父の事で恨み言一つ言わなかった。自分が国を追われても、流れ者として暮らしても、いつも笑っていた」
「それなら良い。それからルーク、お前はどうしてこんな場所にいるのだ?」
「世界樹の軸になるために来た。この世界の西大陸を支える世界樹は枯れかけている。西大陸全土に魔力不足による眠り病が蔓延している。崩壊を防ぐためにおれが必要なんだ」
「何故、ルーク、お前でなければならない?先程の娘でも構わないだろう?」
「おれはマヤのいるこの世界を守りたい。そのために軸になると決めたんだ」
「……なるほどな。理解した」
「最期に親父に会えて良かったよ。言いたいこと言えて、すっきりした」
「ルークよ、余はリリアーヌを失って百年生きた。どれほど苦しんでも、それでも、消滅することは許されなかった。だが、生き続けてきた結果、こうしてお前に会えた。お前にもいつかこの時間が無駄ではなかったと理解できる日が来る」
「言いたいことはそれだけか?マヤを呼んでくる。もう話すことも無いし、今更思春期でも反抗期でもないんでね」
おれは親父を残してマヤを呼びに行った。
マヤは花畑に寝そべり、眠っているようだった。
以前もそう思ったがマヤはこうして野に咲く花の方が、華やかで豪奢な花よりも似合う。
おれはマヤに声をかけた。
「終わった」
「そうですか。ちゃんと話せましたか?」
「ああ、国を追放されてからの母の人生について話したよ……帰る前にあんたに礼が言いたいそうだ。小川のところで待ってる……ありがとな。胸のつっかえが降りた。最期に親父に会えて良かった」
「この旅でここまで来れたのもルークさんのお陰です。それじゃあ、行ってきますね」
最後の最後に胸のつっかえが下りた。そう思った。
しかし、おれはこの時、一人でマヤを行かせるべきではなかった。
おれはこのことを一生後悔することになった。
ちっとも戻ってこないマヤを迎えに行くと見覚えのない魔力を感じた。
オーベロンを呼び出し、その答えを聞き愕然とした。
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