最強の聖女は恋を知らない

三ツ矢

文字の大きさ
上 下
164 / 198
大陸放浪編

妖精の森~召喚~

しおりを挟む
 私たちはオーベロンに導かれて、エイブリー帝国の北端の岬へとやってきた。

その海の向こうにぼんやりと陸地があるのが見える。



「おい、妖精王。ここからどうやって、妖精の森に行くんだ?」

「急かさないでよ。今からボクの力を見せてあげるから」



オーベロンが水晶のかけらを取り出すと、それをぱらぱらと岬の先端にばらまいた。すると透き通った透明な橋が妖精の森まで一直線に届いた。



「ひゅー。こいつは壮観だな。この橋ってどうなってるんだ?」

「魔力が一定以上無い人間には見えない様になってる。一度かけたらひと月は消えないけどね。さあ、早く渡って」



私は透明なその橋に見惚れつつも、恐る恐る一歩を踏み出した。随分頑丈なようだった。私たちは歩いて海を渡り、とうとう妖精の森へと辿り着いた。



 妖精の森は西大陸の更に北にあるにも関わらず、雪の一かけらも無かった。温かな空気を纏い、深い緑に満ちた文字通り森だった。

そこかしこでオーベロン以外の妖精の気配がして、私たちを遠巻きに観察していた。



「みんなお客さんが来てそわそわしてるみたい。許してあげてね」

「綺麗な場所ね、オーベロン。空気も草と木の香りがしてとっても気持ちいい」

「なんたってボクが管理してるんだからね。あそこに花畑があるから、ついてきて」



そこには色とりどりの全く違う季節の花々が咲き誇っていた。



「夢みたいな場所……」

「あんた、本当に花が好きだな」

「ええ、都で暮らしていた時はよくライアン様が贈ってくれて、家中花だらけだったの。元の世界では自分には似合わないと思って、外から眺めるだけだったから。綺麗だけど、摘んでしまうのは可哀想ね。私たちの旅はもうすぐ終わるんだから」

「……そうだな。あんたとの旅は案外楽しかったよ」

「ねえ、オーベロン。今日はここで休んでいいかしら?」

「いいよ、マヤ。まだ世界樹まで距離があるし、ゆっくり休むと良いよ」



こうして私とルークは妖精の森で残りの時間を惜しむように眠った。



 その朝、私は朝焼けとともに起きて、こっそりと羊皮紙に魔法陣を描いた。

それからエヴァンからもらったナイフで手首を切り裂く。

無痛の傷口から血がたっぷりと羊皮紙に滴る。

これで果たして足りるだろうか。

私は傷口が塞がるまで出来る限り多くの血を流した。



「……何処より参ぜよ、来訪者。我が血を代償に我が呼び声に応えたまえ。我が名はマヤ・クラキ。いざ現れん」



メイスを突き立てると振動が凄まじい。

これほど高位の精霊を呼び出したことは無い。

それでも私はやらなくてはならなかった。



そして、それは叶った。

青よりなお深い色をしたその長い髪と目、その顔立ちは紛れもなくルークに面影を残していた。

美しい水と風の守護する比類なき精霊だ。



「召喚に応えていただき、誠にありがとうございます……アスターファ様」

「久方ぶりの召喚だ。しかも直々に指名されるとは。何用かな、召喚士?」

「アスターファ様にお会いして頂きたい人がいます。どうか、お時間をください」

「……それは、あそこにいる我が子のことかな?」



私が振り返るとルークが木の陰に立っていた。



「ルークさん、起きてたんですか?」

「あんな大魔法使ったら、妖精たちが大騒ぎしてうるさくて寝られねぇよ。そいつが親父なのか?」

「口が悪いな。我が息子よ。良いだろう、契約に応じる」

「それでは私は離れたところに控えておりますので、何かありましたらお呼びください……それじゃあ、ルークさん。私ができるルークさんへのお礼はこれが精一杯です。言いたいこと全部話してきてください!」



私はそういうと、花畑の中を走り抜けた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃

紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。 【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!

猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」 無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。 色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。 注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします! 2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。 2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました! ☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。 ☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!) ☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。 ★小説家になろう様でも公開しています。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

対人恐怖症は異世界でも下を向きがち

こう7
ファンタジー
円堂 康太(えんどう こうた)は、小学生時代のトラウマから対人恐怖症に陥っていた。学校にほとんど行かず、最大移動距離は200m先のコンビニ。 そんな彼は、とある事故をきっかけに神様と出会う。 そして、過保護な神様は異世界フィルロードで生きてもらうために多くの力を与える。 人と極力関わりたくない彼を、老若男女のフラグさん達がじわじわと近づいてくる。 容赦なく迫ってくるフラグさん。 康太は回避するのか、それとも受け入れて前へと進むのか。 なるべく間隔を空けず更新しようと思います! よかったら、読んでください

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

処理中です...