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大陸放浪編
妖精の森~召喚~
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私たちはオーベロンに導かれて、エイブリー帝国の北端の岬へとやってきた。
その海の向こうにぼんやりと陸地があるのが見える。
「おい、妖精王。ここからどうやって、妖精の森に行くんだ?」
「急かさないでよ。今からボクの力を見せてあげるから」
オーベロンが水晶のかけらを取り出すと、それをぱらぱらと岬の先端にばらまいた。すると透き通った透明な橋が妖精の森まで一直線に届いた。
「ひゅー。こいつは壮観だな。この橋ってどうなってるんだ?」
「魔力が一定以上無い人間には見えない様になってる。一度かけたらひと月は消えないけどね。さあ、早く渡って」
私は透明なその橋に見惚れつつも、恐る恐る一歩を踏み出した。随分頑丈なようだった。私たちは歩いて海を渡り、とうとう妖精の森へと辿り着いた。
妖精の森は西大陸の更に北にあるにも関わらず、雪の一かけらも無かった。温かな空気を纏い、深い緑に満ちた文字通り森だった。
そこかしこでオーベロン以外の妖精の気配がして、私たちを遠巻きに観察していた。
「みんなお客さんが来てそわそわしてるみたい。許してあげてね」
「綺麗な場所ね、オーベロン。空気も草と木の香りがしてとっても気持ちいい」
「なんたってボクが管理してるんだからね。あそこに花畑があるから、ついてきて」
そこには色とりどりの全く違う季節の花々が咲き誇っていた。
「夢みたいな場所……」
「あんた、本当に花が好きだな」
「ええ、都で暮らしていた時はよくライアン様が贈ってくれて、家中花だらけだったの。元の世界では自分には似合わないと思って、外から眺めるだけだったから。綺麗だけど、摘んでしまうのは可哀想ね。私たちの旅はもうすぐ終わるんだから」
「……そうだな。あんたとの旅は案外楽しかったよ」
「ねえ、オーベロン。今日はここで休んでいいかしら?」
「いいよ、マヤ。まだ世界樹まで距離があるし、ゆっくり休むと良いよ」
こうして私とルークは妖精の森で残りの時間を惜しむように眠った。
その朝、私は朝焼けとともに起きて、こっそりと羊皮紙に魔法陣を描いた。
それからエヴァンからもらったナイフで手首を切り裂く。
無痛の傷口から血がたっぷりと羊皮紙に滴る。
これで果たして足りるだろうか。
私は傷口が塞がるまで出来る限り多くの血を流した。
「……何処より参ぜよ、来訪者。我が血を代償に我が呼び声に応えたまえ。我が名はマヤ・クラキ。いざ現れん」
メイスを突き立てると振動が凄まじい。
これほど高位の精霊を呼び出したことは無い。
それでも私はやらなくてはならなかった。
そして、それは叶った。
青よりなお深い色をしたその長い髪と目、その顔立ちは紛れもなくルークに面影を残していた。
美しい水と風の守護する比類なき精霊だ。
「召喚に応えていただき、誠にありがとうございます……アスターファ様」
「久方ぶりの召喚だ。しかも直々に指名されるとは。何用かな、召喚士?」
「アスターファ様にお会いして頂きたい人がいます。どうか、お時間をください」
「……それは、あそこにいる我が子のことかな?」
私が振り返るとルークが木の陰に立っていた。
「ルークさん、起きてたんですか?」
「あんな大魔法使ったら、妖精たちが大騒ぎしてうるさくて寝られねぇよ。そいつが親父なのか?」
「口が悪いな。我が息子よ。良いだろう、契約に応じる」
「それでは私は離れたところに控えておりますので、何かありましたらお呼びください……それじゃあ、ルークさん。私ができるルークさんへのお礼はこれが精一杯です。言いたいこと全部話してきてください!」
私はそういうと、花畑の中を走り抜けた。
その海の向こうにぼんやりと陸地があるのが見える。
「おい、妖精王。ここからどうやって、妖精の森に行くんだ?」
「急かさないでよ。今からボクの力を見せてあげるから」
オーベロンが水晶のかけらを取り出すと、それをぱらぱらと岬の先端にばらまいた。すると透き通った透明な橋が妖精の森まで一直線に届いた。
「ひゅー。こいつは壮観だな。この橋ってどうなってるんだ?」
「魔力が一定以上無い人間には見えない様になってる。一度かけたらひと月は消えないけどね。さあ、早く渡って」
私は透明なその橋に見惚れつつも、恐る恐る一歩を踏み出した。随分頑丈なようだった。私たちは歩いて海を渡り、とうとう妖精の森へと辿り着いた。
妖精の森は西大陸の更に北にあるにも関わらず、雪の一かけらも無かった。温かな空気を纏い、深い緑に満ちた文字通り森だった。
そこかしこでオーベロン以外の妖精の気配がして、私たちを遠巻きに観察していた。
「みんなお客さんが来てそわそわしてるみたい。許してあげてね」
「綺麗な場所ね、オーベロン。空気も草と木の香りがしてとっても気持ちいい」
「なんたってボクが管理してるんだからね。あそこに花畑があるから、ついてきて」
そこには色とりどりの全く違う季節の花々が咲き誇っていた。
「夢みたいな場所……」
「あんた、本当に花が好きだな」
「ええ、都で暮らしていた時はよくライアン様が贈ってくれて、家中花だらけだったの。元の世界では自分には似合わないと思って、外から眺めるだけだったから。綺麗だけど、摘んでしまうのは可哀想ね。私たちの旅はもうすぐ終わるんだから」
「……そうだな。あんたとの旅は案外楽しかったよ」
「ねえ、オーベロン。今日はここで休んでいいかしら?」
「いいよ、マヤ。まだ世界樹まで距離があるし、ゆっくり休むと良いよ」
こうして私とルークは妖精の森で残りの時間を惜しむように眠った。
その朝、私は朝焼けとともに起きて、こっそりと羊皮紙に魔法陣を描いた。
それからエヴァンからもらったナイフで手首を切り裂く。
無痛の傷口から血がたっぷりと羊皮紙に滴る。
これで果たして足りるだろうか。
私は傷口が塞がるまで出来る限り多くの血を流した。
「……何処より参ぜよ、来訪者。我が血を代償に我が呼び声に応えたまえ。我が名はマヤ・クラキ。いざ現れん」
メイスを突き立てると振動が凄まじい。
これほど高位の精霊を呼び出したことは無い。
それでも私はやらなくてはならなかった。
そして、それは叶った。
青よりなお深い色をしたその長い髪と目、その顔立ちは紛れもなくルークに面影を残していた。
美しい水と風の守護する比類なき精霊だ。
「召喚に応えていただき、誠にありがとうございます……アスターファ様」
「久方ぶりの召喚だ。しかも直々に指名されるとは。何用かな、召喚士?」
「アスターファ様にお会いして頂きたい人がいます。どうか、お時間をください」
「……それは、あそこにいる我が子のことかな?」
私が振り返るとルークが木の陰に立っていた。
「ルークさん、起きてたんですか?」
「あんな大魔法使ったら、妖精たちが大騒ぎしてうるさくて寝られねぇよ。そいつが親父なのか?」
「口が悪いな。我が息子よ。良いだろう、契約に応じる」
「それでは私は離れたところに控えておりますので、何かありましたらお呼びください……それじゃあ、ルークさん。私ができるルークさんへのお礼はこれが精一杯です。言いたいこと全部話してきてください!」
私はそういうと、花畑の中を走り抜けた。
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