最強の聖女は恋を知らない

三ツ矢

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大陸放浪編

北の大国~王家の呪い~

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 私たちが雪原に到着したのは次の日だった。

雪原の中を真っ白な熊とも犬とも言い難い巨大な獣が疾走していた。

その背には真っ青な複雑な刻印が刻まれている。

その周囲をライアンを中心とした魔法兵たちが取り囲んでいた。



「炎を絶やすな! 山を降りて民に危害を加えさせるわけにはいかない。包囲網を維持しろ!」

「ライアン様! ご無事ですか?!」

「マヤ殿? どうしてここに……?」

「ライアン殿、魔法が乱れています!」



ライアンの一瞬の油断をついて、魔獣がライアンの方へと突進してくる。それを私が高出力の炎で怯ませる。



「ライアン様、ルークさんを連れてきました。彼なら、フレデリック王太子様の呪いを解くことができます。しかし、呪いの解析に時間がかかるとのことです。それまで私も時間を稼ぎます。指示を下さい!」

「マヤ殿、フレデリック……いや魔獣は炎を嫌います。しかし、呼気は猛吹雪を吐き出し、斬撃は強固な氷の爪です。どうか気を付けて」

「わかりました。まずは炎と風魔法で辺りの雪を溶かし、その上で土と炎魔法で魔法陣を転写します。それでしばらく魔獣を捕縛できるかと思います。伝令を出してください」

「マヤ殿が大魔法を使用する! 包囲網を維持しつつ、巻き込まれないように注意しろ」

「参ります……焦熱の風よ、深く凍えた大地を顕在させよ。薙ぎ払え、凶暴たる熱風」



耳につけたイヤリングが発光し、メイスに宿った力を横薙ぎに振るった。

雪原に積もった雪が融解し、中心にいた魔獣がその熱に怯む。



「学生時代は召喚した精霊しか使えなかった大魔法を、いつの間に……」



ライアンが呟く言葉も私には届かない。



「灼熱の炎よ、大地に刻め、我が意志を。我は猛き炎を求めるものなり」



魔獣を取り囲むように精緻な魔法陣がジリっと音を立てて、刻み込まれた。

そして、炎が舞い上がる。



「ルークさん、今です!」

「あいよ。やっぱり、おれ一人でも魔獣に乗れるじゃねぇか……よっと」



ルークはルネスタから飛び降りて魔獣の背に着地した。



「ちょっと痛いぜ、王太子殿」



ルークは刻印の真上に剣を突き立てた。

ぎゃあと魔獣が吠える。



「親父も面倒な置き土産を残してくれたな……水魔法と風魔法の配分と出力はこれくらいで、あとはこの刻印を逆転写すりゃあいいってことか。行くぜ、王太子!」



ルークは手を広げると、浮かび上がらせた氷に刻印を剣で削って写し取った。

それを反転させる。



「苦しませて悪かったな。母さんも苦しんだんだ。許せ」



魔獣の刻印に氷を接着させ、転写した刻印を浸透させる。

魔獣は身体を痙攣させると、その姿は見る見るうちにしぼんでいった。

ルークが魔獣から飛び降りたのを見て、私は炎魔法を停止させる。

炎が消えるとそこにはルークと彼に背負われた白銀の髪を持つ華奢な青年がいた。

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