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大陸放浪編
北の大国~王家の秘密と英雄の過去~
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エイブリー帝国へとついにやってきた。
季節は冬へと移り変わり、大陸の北にあるこの国は雪で覆われていた。
市街は重厚な石造りの建物が立ち並ぶと同時に、そこかしこに工場があり工業が発展していた。
入国してからルークの機嫌はますます悪くなったようだ。
かつらの上にローブをしっかり被り、顔を隠している。
私たちはライアンが滞在しているブーケモール城へと向かった。
ブーケモール城は湖の向こう側に位置した美しい城だった。
「いない? それはどういうことですか?」
私は近衛兵に詰め寄った。
「ですから、機密によりお話しできません」
「西大陸全土の人間の命がかかっているんですよ?!」
私が押し問答を繰り返していると、背後から声をかけられた。
「あの……貴女はマヤ・クラキ様でしょうか?」
「アンジェリカ王太子妃! どうかお下がりください」
「いいえ、この方がマヤ・クラキ様ならわたしは全てをお話ししなければなりません。どうぞ、こちらへ」
アンジェリカ王太子妃は二十歳ほどの薄い金色の髪をした儚げな女性だった。
私とルークは彼女に従い、応接間の一つに通された。
絢爛な応接間にメイドが何も言わずとも紅茶を淹れた。
そばにスグリのジャムが添えられている。
「自己紹介が遅れました。エイブリー帝国フレデリック十二世王太子の妻、アンジェリカ・ベルナールです。どうぞお見知りおきを」
「こちらこそ、失礼いたしました。私はフローレンス王国の顧問魔術師の任に就いておりますマヤ・クラキと申します。アンジェリカ妃殿下、何故私のことをご存知だったのでしょうか?」
「我が夫であるフレデリックはライアン様と学友でした。わたしにもよく母国のお話を聞かせてくださいました。貴女のお名前はしょっちゅう出てきましたよ。ライアン様は貴女のお話をされる時が一番安らいだお顔をされていました」
「そうですか。それで、今ライアン様がこちらの城にいらっしゃらないとはどういうことでしょうか?」
「お話しすると長くなりますが、どうかお聞きください。我がエイブリー帝国の王族には呪いがかけられているのです。とても強力な呪いです。それは百年前、我が国が大雪に見舞われ、国民たちが凍えた時に端を発します。当時の皇帝は……フレデリックの曽祖父に当たりますが、国の優秀な魔術師を集め、召喚士はその血によってとある精霊を召喚しました。とても力のある精霊だったと言われています。皇帝は国の守護を願い、水と風の精霊はその願いを叶えました。国に吹き荒れていた吹雪は止み、雪に埋もれていた国に光明をもたらしました。その後、精霊は召喚士リリアーヌとの間に一人の子供をもうけたそうです。それを知った皇帝は精霊をいつまでもこの国に留めておくために人質に取りました。怒った精霊は王家に呪いをかけました。この国に雪と暴風をもたらす魔獣へと変わる呪いを……皇帝は急ぎ、王家に連なる者たちの呪いを解こうとしましたが失敗しました。ただ、呪いを中和することには成功しました。炎と土の守護により呪いは相殺され、今日までエイブリー帝国は存続してきました。しかし、世界樹の弱体化によって守護の力が弱まってしまいました。我が夫は、今魔獣として雪原を駈け廻っています。ライアン様はフレデリックを救うために尽力して下さっています」
「そんな……帝国の極秘情報をどうして私に教えて下さったのですか?」
「あんたに、じゃねぇよ。わかってたんだな、お妃さんよ。おれが誰なのか」
終始、沈黙を貫いていたルークが口を開いた。
「……帝国の王家だけに伝わっている事実がもう一つあるのです。精霊と召喚士の間に生まれた子供は青髪青目だったと。帝国はずっと貴方を探し続けていました。青嵐の騎士、ルーク様」
私は驚いてルークの方を振り返った。
「え、このお話って百年前の事なんですよね?何でルークさんなんですか?」
「精霊の子供は寿命が長いらしい。って言っても、おれ以外にそんな珍しいやつ見たことないけどな。おれに顔も知らない親父の尻拭いをしろっていうのか?」
「ライアン様からマヤ・クラキ様のお手紙の内容をお聞きして、これは千載一遇の機会だと思いました。同一の力を持つ者しかこの呪いは解けません。そして、今、フレデリックの呪いが発動し、貴方がやって来た。どうか、お願いです。呪いを解除してください。貴方と貴方のお母さまに帝国がした仕打ちはお詫び申し上げます。どうかお力をお貸しください」
「ヤダね……と言いたいところだが、仕方あるめぇ。お互い遺恨を解消するには良い頃合いだ。母もそんなこと望んじゃいないと思うからな。連れて行ってくれ」
季節は冬へと移り変わり、大陸の北にあるこの国は雪で覆われていた。
市街は重厚な石造りの建物が立ち並ぶと同時に、そこかしこに工場があり工業が発展していた。
入国してからルークの機嫌はますます悪くなったようだ。
かつらの上にローブをしっかり被り、顔を隠している。
私たちはライアンが滞在しているブーケモール城へと向かった。
ブーケモール城は湖の向こう側に位置した美しい城だった。
「いない? それはどういうことですか?」
私は近衛兵に詰め寄った。
「ですから、機密によりお話しできません」
「西大陸全土の人間の命がかかっているんですよ?!」
私が押し問答を繰り返していると、背後から声をかけられた。
「あの……貴女はマヤ・クラキ様でしょうか?」
「アンジェリカ王太子妃! どうかお下がりください」
「いいえ、この方がマヤ・クラキ様ならわたしは全てをお話ししなければなりません。どうぞ、こちらへ」
アンジェリカ王太子妃は二十歳ほどの薄い金色の髪をした儚げな女性だった。
私とルークは彼女に従い、応接間の一つに通された。
絢爛な応接間にメイドが何も言わずとも紅茶を淹れた。
そばにスグリのジャムが添えられている。
「自己紹介が遅れました。エイブリー帝国フレデリック十二世王太子の妻、アンジェリカ・ベルナールです。どうぞお見知りおきを」
「こちらこそ、失礼いたしました。私はフローレンス王国の顧問魔術師の任に就いておりますマヤ・クラキと申します。アンジェリカ妃殿下、何故私のことをご存知だったのでしょうか?」
「我が夫であるフレデリックはライアン様と学友でした。わたしにもよく母国のお話を聞かせてくださいました。貴女のお名前はしょっちゅう出てきましたよ。ライアン様は貴女のお話をされる時が一番安らいだお顔をされていました」
「そうですか。それで、今ライアン様がこちらの城にいらっしゃらないとはどういうことでしょうか?」
「お話しすると長くなりますが、どうかお聞きください。我がエイブリー帝国の王族には呪いがかけられているのです。とても強力な呪いです。それは百年前、我が国が大雪に見舞われ、国民たちが凍えた時に端を発します。当時の皇帝は……フレデリックの曽祖父に当たりますが、国の優秀な魔術師を集め、召喚士はその血によってとある精霊を召喚しました。とても力のある精霊だったと言われています。皇帝は国の守護を願い、水と風の精霊はその願いを叶えました。国に吹き荒れていた吹雪は止み、雪に埋もれていた国に光明をもたらしました。その後、精霊は召喚士リリアーヌとの間に一人の子供をもうけたそうです。それを知った皇帝は精霊をいつまでもこの国に留めておくために人質に取りました。怒った精霊は王家に呪いをかけました。この国に雪と暴風をもたらす魔獣へと変わる呪いを……皇帝は急ぎ、王家に連なる者たちの呪いを解こうとしましたが失敗しました。ただ、呪いを中和することには成功しました。炎と土の守護により呪いは相殺され、今日までエイブリー帝国は存続してきました。しかし、世界樹の弱体化によって守護の力が弱まってしまいました。我が夫は、今魔獣として雪原を駈け廻っています。ライアン様はフレデリックを救うために尽力して下さっています」
「そんな……帝国の極秘情報をどうして私に教えて下さったのですか?」
「あんたに、じゃねぇよ。わかってたんだな、お妃さんよ。おれが誰なのか」
終始、沈黙を貫いていたルークが口を開いた。
「……帝国の王家だけに伝わっている事実がもう一つあるのです。精霊と召喚士の間に生まれた子供は青髪青目だったと。帝国はずっと貴方を探し続けていました。青嵐の騎士、ルーク様」
私は驚いてルークの方を振り返った。
「え、このお話って百年前の事なんですよね?何でルークさんなんですか?」
「精霊の子供は寿命が長いらしい。って言っても、おれ以外にそんな珍しいやつ見たことないけどな。おれに顔も知らない親父の尻拭いをしろっていうのか?」
「ライアン様からマヤ・クラキ様のお手紙の内容をお聞きして、これは千載一遇の機会だと思いました。同一の力を持つ者しかこの呪いは解けません。そして、今、フレデリックの呪いが発動し、貴方がやって来た。どうか、お願いです。呪いを解除してください。貴方と貴方のお母さまに帝国がした仕打ちはお詫び申し上げます。どうかお力をお貸しください」
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