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大陸放浪編
戦地~惨状~
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二人に反対された私は仕方なく別の質問をした。
「……負傷者のテントはどこ?」
「案内しよう」
テントにはハーパー連邦とアーライ共和国双方の負傷者が寝かされていた。
負傷者たちの間を衛生兵が忙しく立ち回る。
負傷者たちは一様に悲惨な状況だった。
手足を失った者、包帯で全身を覆われた者。
そこは血と汗と糞尿の匂いに満ちていた。
「これが戦場で現実だ。お嬢ちゃん、少しは目が覚めたか?」
私は茫然とテントに立ち尽くす。ルークの声が遠くで聞こえる。
「医者と癒者はどこに?」
「命が危うい患者に付き添っている……もう良いだろう、マヤ、行くぞ」
「私も治癒魔法が使えるわ。手伝わせて」
「馬鹿か、あんたは。さっき召喚しておいて、また魔力を消費してどうする?」
「あれくらいなら大したことは……」
「ダメだね。あんたは一人救ったら次にもう一人救いたくなって、終いには全員に力を分け与えるだろう。そんなんじゃ役立たずが一人増えるだけだ。甘ちゃんなんだよ、あんたは。いい加減自覚しろ」
ルークが厳しい言葉を浴びせかける。
エヴァンも苦い表情をしながら頷いた。
「もう遅い。今日は泊っていくといい。エレナ軍曹、彼女を女性用テントに案内を頼む」
エレナと呼ばれた犬型の獣人だった。
女性兵士はエヴァンの言葉に敬礼で答えた。
「あなたが救国の聖女、マヤ・クラキ様ですね。フローレンス王国所属エレナ・シュルツ軍曹です。エヴァン少尉の恋人だって本当ですか?」
「こ、恋人とかではないです。大切な人ではありますけど」
「そうなんですか? エヴァン少尉は女性兵士からすっごく人気があるんですけど、ストイックでクールだからみんな撃沈してて。でも、マヤ・クラキ様に対してはとても優しかったのでつい勘ぐってしまいました」
「エヴァン、人気があるのね……」
「戦闘力とあの容姿に加えて将軍のご子息ですからね。狙ってる子は多いわけです……っとこちらが女性将校用のテントになります」
テントはこじんまりしていたが簡易ベッドもあり、野宿に比べれば快適そうであった。荷物を置いた。
「エレナ軍曹、野営地と周囲の案内をお願いできるかしら?」
野営地を見て回った。物珍しさから連合軍の兵士たちから視線を浴びた。
休憩している兵士たちはリラックスした様子だったが、そこには言い知れぬ緊張感が漂っていた。
「ピリピリしてるわね」
「そうですね。今は小康状態ですけれど、いつ戦いが始まってもおかしくありませんからね。御不浄はこちらです。あと食事はあっちです。そろそろ食事の時間ですから、行きましょう」
私はエレナに連れられて配給される食事を受け取った。何もしていない私が食べることに少々罪悪感が生まれる。
そこにルークとエヴァンが現れた。
「……負傷者のテントはどこ?」
「案内しよう」
テントにはハーパー連邦とアーライ共和国双方の負傷者が寝かされていた。
負傷者たちの間を衛生兵が忙しく立ち回る。
負傷者たちは一様に悲惨な状況だった。
手足を失った者、包帯で全身を覆われた者。
そこは血と汗と糞尿の匂いに満ちていた。
「これが戦場で現実だ。お嬢ちゃん、少しは目が覚めたか?」
私は茫然とテントに立ち尽くす。ルークの声が遠くで聞こえる。
「医者と癒者はどこに?」
「命が危うい患者に付き添っている……もう良いだろう、マヤ、行くぞ」
「私も治癒魔法が使えるわ。手伝わせて」
「馬鹿か、あんたは。さっき召喚しておいて、また魔力を消費してどうする?」
「あれくらいなら大したことは……」
「ダメだね。あんたは一人救ったら次にもう一人救いたくなって、終いには全員に力を分け与えるだろう。そんなんじゃ役立たずが一人増えるだけだ。甘ちゃんなんだよ、あんたは。いい加減自覚しろ」
ルークが厳しい言葉を浴びせかける。
エヴァンも苦い表情をしながら頷いた。
「もう遅い。今日は泊っていくといい。エレナ軍曹、彼女を女性用テントに案内を頼む」
エレナと呼ばれた犬型の獣人だった。
女性兵士はエヴァンの言葉に敬礼で答えた。
「あなたが救国の聖女、マヤ・クラキ様ですね。フローレンス王国所属エレナ・シュルツ軍曹です。エヴァン少尉の恋人だって本当ですか?」
「こ、恋人とかではないです。大切な人ではありますけど」
「そうなんですか? エヴァン少尉は女性兵士からすっごく人気があるんですけど、ストイックでクールだからみんな撃沈してて。でも、マヤ・クラキ様に対してはとても優しかったのでつい勘ぐってしまいました」
「エヴァン、人気があるのね……」
「戦闘力とあの容姿に加えて将軍のご子息ですからね。狙ってる子は多いわけです……っとこちらが女性将校用のテントになります」
テントはこじんまりしていたが簡易ベッドもあり、野宿に比べれば快適そうであった。荷物を置いた。
「エレナ軍曹、野営地と周囲の案内をお願いできるかしら?」
野営地を見て回った。物珍しさから連合軍の兵士たちから視線を浴びた。
休憩している兵士たちはリラックスした様子だったが、そこには言い知れぬ緊張感が漂っていた。
「ピリピリしてるわね」
「そうですね。今は小康状態ですけれど、いつ戦いが始まってもおかしくありませんからね。御不浄はこちらです。あと食事はあっちです。そろそろ食事の時間ですから、行きましょう」
私はエレナに連れられて配給される食事を受け取った。何もしていない私が食べることに少々罪悪感が生まれる。
そこにルークとエヴァンが現れた。
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