最強の聖女は恋を知らない

三ツ矢

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大陸放浪編

旅の道程~馬鹿騒ぎ~

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 それから更に二か月陸路での旅は続いた。

宿を取れるときは宿に泊まり、無いときは適当なところで野宿をした。

ルークはあれ以来、軸に関して何も言わなかったし、私も聞かなかった。

そんなほんの少し含みを持たせた関係のまま、三か国目となる国に入国した。

馬を引きながら入ると、国はお祭り騒ぎだった。



「あー。そうだ、ハーベスト祭の季節じゃねぇか。この時期にこの国に寄るんじゃなかった」

「そういえば、ハーベスト祭の時期ですね。でも、なんでこの国はだめなんですか?」



それはなぁとルークが言おうとした時、目の前をパレードがやって来た。



「わぁ、すごいです。この国の民族衣装ですかね? レースのエプロンに、あのボンボンの付いた帽子可愛いですね!楽器持って演奏してる!」

「これだよ……本当に能天気だよな、あんた」



ルークがため息をついていると、横から恰幅の良い男性が出てきた。



「いよぅ! 旅人さんかい?まだ、宿が決まってないならうちに泊まりな! 急がないとあっという間に満室になっちまうよ!荷物早く置いて祭りに参加しなきゃ勿体無いぜ」

「ですって、ルークさん。行きましょう」

「あいよ」



二人で宿を取ろうとすると、かなりの値段を要求された。

ルークはこれに猛然と抗議し、値段交渉が始まった。

私はフローレンス語でルークを宥めた。



「ルークさん、まだ路銀あるわけですし。お祭りの時って値段が上がるものでしょう?」

「黙っててくれ、これはおれの主義の問題なんだ!」



白熱した言い争いに飽きた私は街に出かけた。

パレードを眺めていると、ほくほく顔のルークがかつらを被って近づいて来た。



「いやー、なんとか正規価格の二割増しで手を打って来たぜ」

「最初は二倍だったのをそこまで引き下げたんですね……」

「なんだ、不満か? あんたが好きだと思ってこいつを貰ってきたのに」



ルークはポケットから二枚の板を取り出した。



「これは?」

「この国の収穫祭ではエールを飲む。飲んで飲んで飲みまくる。これはそのフリーパスだ。こうなったら仕方ねぇ、痛飲してやろうぜ」



ルークは意気揚々と私の手を取り、歩き出した。

ルークに連れられてきたのは教会前の広場だった。

だがその広場にはテントが建てられ、テーブルとイスに埋め尽くされていた。

ルークは屋台からソーセージと細長い生地を捻じった形の焼き菓子、鳥の丸焼きを調達してきた。

エールが並々と注がれたグラスを持ち、私とルークは乾杯した。



「美味しい! なにこれ!?」

「そうだよな。あんたなら喜ぶと思った」

「ありがとうございます、ルークさん。最初は無神経で金にがめついぐうたら騎士だと思ってたけど、こんな素敵なことができるんですね!」

「あんた……随分前から思ってたけど、性格明らかに変わったな。救国の聖女だなんて名前返上した方が良いんじゃないか?」

「私から救国の聖女だなんて恥ずかしい名前名乗ったことないです。青嵐の騎士だって大概だと思いますけど」

「おれだって『青嵐の騎士です』なんて言った事は一度だってない!周りの奴が良いこと思いついたぁみたいな感じでいつの間にか定着してたんだ。どこの国にも国籍がないのに、何が騎士だって言うんだ」



そう言いあうと私たちはどちらからかわからず、笑い出した。



「ルークさんはずっと旅をしてるんですよね?それはどうしてですか?」

「しがらみが出来るとめんどくさいから。誰かに命令されるのが嫌いでね。どんな偉いヤツにも指図されたくない」

「その割には人助けばっかりしてるじゃないですか」

「目の前で困ってるやつがいたらとりあえず助けるだろ。財布拾ってやるのと変わらねぇよ」

「海賊制圧したり、嵐を消すのはちょっとスケールが違うような……」

「海賊の時にはあんたも随分大暴れしてたじゃねぇか。かなりの手練れだったぜ」

「お褒めに預かり光栄です」

「褒めてない。むしろ貶してる。女としてどうなんだ?」

「女でも戦わなければならない時があるんです。ルークさんみたいに古い考えをお持ちの方にはわからないと思いますけど」

「本当にあんたみたいな女見たことねぇ。下着姿で海に飛び込んだ時は驚いた」

「どうせ女として見られてないなら、したいようにしようかと思って」

「女として見て欲しかった?」

「最初に会った紳士的な青嵐の騎士様だったら考えたかもしれませんね……でも、今のルークさんの方が落ち着きます」

「こんないい男を前にときめいたりしないのか?」

「あはは、ルークさんって本当に自己評価高いですよね。それとも笑わせようとしています?」

「おれの自信をここまで崩したのはあんたが初めてだよ」



私たちは馬鹿話をしながらそのまま夜まで飲み続けた。

ルークが崩れ落ちたところで場はお開きとなった。

私はルークを抱えて、ごった返す街の中を歩いて宿まで帰った。

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