最強の聖女は恋を知らない

三ツ矢

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大陸放浪編

船旅~イルカ~

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 それから更に二日の時が経った。操舵をしているルークは終始ご機嫌で、アルマト海を駆け抜けていった。食事が味気ないこと以外は快適な旅だと言えるだろう。



「この世界には缶詰はないんですか?」

「カンヅメ? ああ、あの金属でできた保存食だな。軍人が時々持ってる。あんな重くて開けづらいもの、携帯食に向かんだろう」

「そうなんですか? 私の世界では一般的な保存食なのですが」



私は乾パンをルークからもらった真水で飲み込みながら、首を傾げた。



「そういやぁ、あんた異世界の人間だったよな。あっちでは何してたんだ?」

「検察という行政機関の職員でしたよ。一番下っ端の仕事をしていました」

「はぁ。王国でも顧問魔術師やってるし、よっぽどお役所仕事が好きなんだな」



ルークが呆れたように呟き、干し肉を噛みちぎった。



「王国には恩がありますから。ルークさんはどこかの機関や国に所属してるわけではないんですよね?」

「ん?そうだな。おれくらいのレベルになっちまうといるだけで各国のパワーバランスを崩しかねないからな。根無し草の方が、気が楽でいい……」



ルークが途中で言葉を切り、海の方へ視線を向けた。私もそちらに目を向けると、水面からイルカが一頭飛び出してきた。水飛沫を上げ、その滑らかな流線形の身体が陽光を反射する。次々とイルカたちは宙を舞いだした。



「おお、気持ちよさそうだな。おれ、ちょっと泳いでくるわ」



ルークはいきなり服を脱ぎだした。私はぎょっとしてその場で固まってしまった。ルークはブーツと服をを脱ぎ捨て、最後は短パンだけになった。その鍛え上げられた強健な身体には無数の傷跡があり、彼が歴戦の勇者だということを表していた。ルークは私の視線をものともせず、躊躇いも無く海に飛び込んだ。ルークが泳ぎ出すとイルカたちが群がった。久しぶりに会った友人のようにイルカとルークは青い海を駆け巡る。羨ましくなった私は、ワンピースに手をかけた。



 イルカたちの交流を楽しんでいたルークはドボンという水音で船に目をやった。すると真っ白なシュミーズとドロワーズ姿になった私が船を飛び降りた音だった。



「おい、あんた、何やってるんだ?」



焦ったルークがこちらに泳いでくる。



「だって、見てるだけじゃつまらないんですから。私、元の世界にいた頃から一度イルカと泳いでみたかったんです。海って気持ちいいんですね」

「いや、年頃の女性としての嗜みとか慎みとか羞恥とかいろいろあるだろ!」

「どうせ色気のないゴリラの様な女ですから、放っておいて下さい」



 私はルークを無視して悠々と泳いで、水面に仰向けになって浮かんだ。初夏の日差しが照りつけて、私は思わず手を翳した。

私がぷかぷかと海を漂っていると、興味を持ったらしいイルカが私の方にも寄って来た。

イルカは一緒に泳ごうと誘うように横をすり抜けていく。

私はアルマト海の青い海の中へと潜った。海底は思ったよりも浅く、

十メートルほど下には鮮やかなサンゴ礁が見える。その中をイルカたちが私に合わせてゆっくりと泳いでいく。

それは迷子になった子供の手を引くような優しさだった。それにルークも加わった。



 二人とイルカたちはどこまでも続く広い海の世界を堪能し、やがてイルカたちは満足した様に去っていった。海面に浮かび、二人でイルカを見送るとルークが呆れたようにぼやいた。



「あんたってやっぱり変な女だな」

「ルークさんほどではないと自負していますけど」

「あ? それってどういうことだよ?」



不本意な顔をしているルークの顔を見て、ふふふと私は笑った。そしてその顔に手で作った水鉄砲で水をかける。ルークはそれをまともに顔で受けた。



「あんた、何を子供っぽい真似を……」

「この海の色、ルークさんの眼と同じ色ですね」

「あのなぁ……おれだって一応男だからな。そんな格好して襲われても文句は言えねぇぞ」

「大丈夫です。その時はオーベロン呼びますから。それじゃあキャビンで着替えてきますから、入ってこないで下さいね」



私はヨットに戻ると温かな日差しを身体いっぱいに浴びた。少し冷えた身体に心地よかった。

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