最強の聖女は恋を知らない

三ツ矢

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大陸放浪編

美しい島国~出立~

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私とデヴィンはおつかいを果たすと、官邸へと戻った。するとルークがどっかりと玄関で座って待っていた。



「遅かったな」

「ルークさん。体調は大丈夫なんですか?」

「ああ、なんとかな。太鼓がタンバリンになるくらいには良くなった。それで?おつかいにしちゃ遅かっただろう」

「ええ、ちょっと、眠り病の患者さんに会いに行ってきたんです」



はぁとルークがうんざりした顔を見せた。



「あんた、本当に馬鹿なのか? 日ごと眠り病の患者は増えてるんだぞ。いちいちこれから治していくつもりか?そんなために魔力を消費したりして無駄だと思わないのか?根本的な問題である世界樹を救わなければこの西大陸に未来は無いんだぞ」

「……一度、どんな病気か知っておきたかったんです。治療法も知っておいて損はないでしょう」



ふんとルークは私の意見を無視した。



「さて、そろそろお坊ちゃまの加護を解除してもらおうか」

「そうですね、マヤさん、お願いします」



デヴィンが答えると、私はオーベロンに尋ねた。



「デヴィンから加護を解除したら、もしかしてデヴィンも眠り病にかかってしまう?」

「そうだね」

「そんな……」



躊躇する私にルークが冷徹に声をかけた。



「おい、そこの甘ちゃん。そいつから加護を解除しなければ世界は終わるんだぞ。それでもいいのか?」

「マヤさん、僕なら大丈夫です」

「わかった。オーベロンお願い」



オーベロンがすっとデヴィンの回りを周った。すると金色の淡い光が浮かび上がった。それは金色のクルミになり、オーベロンが吸収した。



「終わったみたいだな。それじゃあ、行くか」

「行くってどこにですか?」



いつもながらマイペースなルークの行動は読めない。私はメイドに私の部屋の荷物を持ってくるよう伝えた。



「アルマト海を横切ってペネロペ都市国家に行く」

「ペネロペ都市国家には船が出てないみたいですけど、どうやって直接行くんですか?」

「ああ、さっきヨット買って来た」



デヴィンの質問にルークは事もなげに答えた。



「ペネロペ都市国家までどれくらい距離があると思っているんですか?!」

「大丈夫だ、こいつの方が圧倒的に速い。おれがいるからな」

「理由になっていませんよ」



私はいつもながらルークの言葉に頭を抱えたくなった。そこに私の荷物をメイドが持って来た。



「荷物も用意できたなら行くか」

「待ってください!僕も行きます!」



デヴィンが手を挙げて主張した。



「絶対邪魔になりません。どうか連れて行ってください」

「デヴィン……」

「ダメだ」



ルークにはにべも無かった。



「お前、そこそこ戦えるが、そんなレベルじゃおれたちの旅には足手纏いになる。はっきり言って邪魔だ。それじゃあ」



デヴィンは口を開いたが、昨日のルークの戦いぶりを見たこともあり、言葉を飲み込んだ。



「デヴィン、ありがとう。でもこれが私の運命なの。デヴィンはこの国を守ってね」



私がその言葉を発するとルークが一瞬身を固めた。私たちは首相に挨拶をして官邸を辞した。馬車の中で三人は無言だった。そして、船着き場にあったのは、全長十メートルはありそうな立派なヨットだった。



「これどうしたんですか?」

「馬売った金で買った」



ルークは喜々としてヨットに飛び乗った。



「なに心配すんなって。すぐ着くから」



ルークが出港準備をしている時、私はデヴィンに振り返った。



「行ってくるね、デヴィン。どうか元気で」

「僕の事より、どうかマヤさんこそご無事で。あとこれを……」

「これは……コンパス?」



金で出来たコンパスは竜を模しており、針が示す方角にはそれぞれ青、赤、白、黒の石がはめ込まれていた。



「東大陸で作られた方位磁石です。使われている石はあちらの特産である魔法石で魔除けと感知能力が備わっています。保持者の求める方向へこのコンパスが導いてくれるはずです」

「すごい魔力。こんな貴重な物を良いの?」

「ええ、僕よりも今はマヤさんの方が必要だと思いますから」



デヴィンが抱きしめてきた。その肩に顔をうずめると陽だまりの香りがした。



「マヤさんのご無事を毎日祈ります」

「ありがとう、デヴィン」



そこでルークが大声で怒鳴った。



「さっさとしろよ、日が暮れちまうだろうが!」

「それじゃあ、またね。デヴィン!」



こうして私たちはイスラ共和国を旅立ったのだった。

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