最強の聖女は恋を知らない

三ツ矢

文字の大きさ
上 下
112 / 198
大陸放浪編

旅立ち~野盗~

しおりを挟む
 ルークの言葉に従い、道中を急ぐことになった。

しかし、ウェイトレスの言う通り道がだんだんと狭くなり、坂が増えてきた。

道も石畳から舗装されていない土道へと変わった。

ガタゴトと音を立てながら馬車は山道を進んでいく。

頂きに到達すると目の前が開けた。新芽が出始めたばかりの山の斜面が薄く緑に染まり、草原を鹿や兎が待ちに待った春を満喫していた。柔らかな風がふわりと頬を撫ぜた。

やがて遠くに見える山の向こうにゆっくりと日が沈んでいく。

空は次第に鮮やかな茜色に染まっていった。同時に山に徐々に影を落としていった。



下り坂に入り、いよいよ暗くなってきた道を魔法で火をともしたカンテラで照らす。

道は少しずつなだらかになり、森の中へと入った。木々が空を覆い隠し、闇が一段と増した。

馬の蹄と車輪の音の中から気配を感じ取った私はぴたりと馬を止めた。



一瞬の間の後、指笛の甲高い音が森の静寂を切り裂き、怒号の中で数人の男たちが獲物に飛び掛かって来た。



「おりゃぁぁぁ、全員かかれ!」



私は取り出しておいたメイスを一振りした。荷馬車を中心に半径十メートル以内にいる者全てに光属性の魔法である雷魔法を発動させた。

昼間、話を聞いた後用心のために荷物の中に魔法陣を仕込んでおいたのであった。

男たちはその場に崩れ落ち、魔法が発動している馬車は明るく照らされている。

私はその光と音を頼りに遠くで様子を見ていた残党を的確に気絶させていく。

周囲が静まると、私は馬車に声をかけた。



「終わりましたよ、ルークさん」

「ああ?なんだ、もう終わったのか」



幌を跳ね上げて、ルークが降りてきた。



「やっぱり起きてたんですね」

「あんな殺気だらけのところで寝てられるかよ。で、こいつらどうするんだ?」



私はふうと一つ息をつくと、気絶している男の脈をとった。



「次の町で憲兵に引き渡します。捕縛するので手伝って下さい」

「ええー、面倒だな。それ、本気で言ってんの?」

「当然です。また被害が出たら困りますし。さっさと縛って積み込みますよ」

「おれの寝るところは?」

「重たいんで降りて馬車押してください」



嘘だろとルークがぼやいた。それから渋々、男たちを私が捕縛し、ルークが馬車に乗せた。

そして私は馬たちの負担を減らす様にささやかな風魔法をかけた。



「はっ、へぼい魔法」

「へぼくてすみません。行きますよ、ルークさん」

「へいへい」



私は馬たちの背をぽんぽんと叩くと、ゆっくりと町へと下りていった。



 町までの道のりは思ったよりも短かった。私たちは通りすがりの人に駐在所の場所を尋ね、連行していった。駐在所には五人の憲兵がのんびりと夕食を摂っていた。



「すみません。途中の山で野盗を捕まえたのですが」

「何ですって?! また出たんですか? お怪我はありませんか?」



憲兵たちが慌てて立ち上がった。あたふたと外に出てくる。



「あれ? それより、お嬢さん今なんて言いました?」

「野盗を捕まえたんです」

「そーだ。さっさとこいつらをなんとか預かってくれ」



馬車を押していたルークがひょっこり顔を出した。



「はい! ご協力ありがとうございます! あれ、その髪の色、もしかしてあなた……青嵐の騎士、ルーク様じゃありませんか?!」



ルークは慌てて頭に手を当てた。

かつらを被るのをすっかり忘れていたルークは、その手を誤魔化す様に髪をかき上げて、ふっと笑った。



「知られたら仕方ないですね。私こそがルークです」

「わぁ! ルーク様がこの者たちを捕えて下さったんですね。流石です」

「えー。あー。まぁ、そうですね」



曖昧に斜め上を見ながら、ルークは虚ろな目で肯定した。私はちらりとその様子を見る。



「ありがとうございます! 握手してもらっても良いですか? あ、こちらの女性はルーク様の恋人の方ですか?」

「「違います」」



私とルークの答えが見事に重なった。



「そうでしたか! おい、お前ら町長呼んで来い!」



はいと威勢よく若い憲兵が走り出していった。



「すみません。あまり大事にされると旅に差し支えますので、内々で済ませて頂けると助かるのですが」

「そうでしたか。配慮が足りず申し訳ありません。ひとまず、そちらの野盗たちはこちらで預からせて頂きます」



残った三人の憲兵がまだ気絶している野盗を荷物のように運んでいった。野盗たちを降ろし終わると丁度、町長がやってきた。白髪交じりの髪を後ろ手に撫でつけた壮年の紳士だった。ゆっくりと馬車を降りるとルークに話しかけた。



「こんばんは、青嵐の騎士、ルーク様。私はこの町を統括しているものです。この度は野盗の捕縛誠にありがとうございました」



町長は物静かに丁寧な物腰で礼を述べた。



「いいえ、礼などには及びません。私は何もしていませんから」



これは真実だなと私は思った。

口には出さなかったが私の冷ややかな視線をルークは感じているらしく居心地悪そうに頬をかいた。



「そちらの女性は……?」

「マヤ・クラキです。ルークさんと共に旅をしています」

「マヤ・クラキというとこの聖フローレンス王国の救国の聖女様ではないですか! 何故、お二人が旅を?」

「それは大変な機密情報であり、王の勅命です。申し訳ありませんがお答えできません」



ルークがさらりと答えを拒否した。



「そうでしたか。詮索してしまい、申し訳ありません。もう夜も更けております。手狭ではありますが、今晩は我が屋敷に逗留していただけませんでしょうか?」

「それでは、お言葉に甘えさせて頂きます。しかしどうか私たちのことは内密に……」

「無論です。それでは参りましょう」

「あ、馬車を……」



私が乗って来た馬車に乗ろうとすると憲兵がそれを制した。



「自分が町長の屋敷まで送っていきますよ。クラキ様はどうぞ馬車にお乗りください」

私は促されるままルークと共に町長の馬車に乗り込んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

キャンピングカーで往く異世界徒然紀行

タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》 【書籍化!】 コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。 早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。 そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。 道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが… ※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜 ※カクヨム様でも投稿をしております

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...