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王国陰謀編
魔女の呪い~全てを失って~
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次に目を覚ますと知らない屋敷の中にいた。屋敷は古く、何年も人が住んでいないような荒れ方だった。
「ここは……?」
「ようやくお目覚めね、眠り姫」
「レイラ!? 一体、何のつもり?」
私は魔法杖を胸ポケットから探したが、見つからなかった。
「探し物はこちらかしら? こんな棒切れが無くては魔法が使えないなんて不便ですわね」
レイラは薄い黄色のドレスに薔薇が刺繍されたドレスを着て、私の周りをふわりふわりと歩き回る。
「あなたのおかげで国王陛下を害し損ねてしまったし、その罪をライアン様に被ってもらうのも失敗してしまったわ。本当に邪魔ばかりして下さるのね」
「やっぱり、あなたの目的はライアン様の失脚だったのね」
「そう。あなたにわたくしのことを告発されると面倒ですから、とりあえず次の策に移らせてもらうことにしましたの。御者を操ってこの屋敷まで送ってきてもらいました。お疲れだったみたいで、眠っていてくれて手間が省けて良かったです。何せ私の魔法は回数制限があるものだから」
「回数制限?」
私はここから逃げ出す策は何かないかと思案しながら、レイラの口上を聞いていた。杖がない今、やはり素手で戦うしかないが、レイラに触れれば魔法をかけられてしまう。
「あなたもご存知でしょう。紫色の蝶。あれは五匹しかいないのです。あなたを元の世界に返す呪いに一匹、ライアン様の心を虜にする魔法に一匹、そしてここに三匹の蝶がいます。どうすると思いますか?」
「どうする……って?」
「わたくし、できる限り人殺しは好みませんの。あなたは邪魔なだけ、元の世界に戻って頂ければそれで良いのです」
レイラは音もたてずにゆっくりと私に歩み寄ってくる。私はじりじりと後ろにさがりながら、武器になりそうなものを探す。朽ちかけた椅子に手をかけると後ろから羽交い締めにされた。
「おいたはよくないよ、マヤ殿」
「アッシャー様!」
私は必死にもがいた。しかし、アッシャーの拘束は外れなかった。
「わたくしの魔法は人と接触すること、それか花を媒介することで魔法を行使することができます」
レイラが三本の薔薇を手に近づいてくる。
「始めにこの白薔薇を……あなたの魔力を封印します」
白薔薇を私の胸に刺すと薔薇が一気に開花し、散っていった。
「次にこの黄薔薇を……あなたの若さを封印します」
黄薔薇を私に胸に刺すと薔薇はまた咲き誇り、花弁を散らしていった。
「最後にこの赤薔薇を……あなたの記憶を封印します」
赤薔薇を私の胸に刺すと薔薇は美しく花開き、枯れていった。
私はそのまま崩れ落ちた。
目が覚めると目の前に薔薇色の髪をした美しい女が立っていた。
「お気づきになりました? あなたはカヤというこの村に住む老婆です。私は王都に帰る道中、偶然倒れたあなたを見つけました。あなたの暮らしていたおうちにお連れしましょう」
私は愛らしい薔薇のドレスの令嬢に手を引かれて歩くと、一気に五十も歳をとった様に身体が重く足腰が軋んだ。そして馬車に乗せられ、村の小さな一軒家に連れて行かれた。
「ここがあなたの住居です。どうか残りの時間をここでゆっくりお過ごしください」
私は訳も分からず、馬車を降ろされると見知らぬ四十代ほどの女が私に声をかけた。
「さあ、お疲れでしょう。こちらでお休みください、カヤ様」
私はこじんまりとした寝室に案内され、そこにある鏡台で自分の姿を見た。何故か乗馬服を着ている七十を越えた老婆がそこには映っていた。
「私ってこんな顔だったかしら……?」
不思議に思いながらも、私は女に服を脱がしてもらい、寝間着に着替えて私は眠りについた。
それから私は過去のことを何度も思い出そうと試みた。その度に激しい頭痛に襲われた。
気分転換に外に出ようとすると女が出てきて私を引き留めた。
そして、私が何者か尋ねるといつも女はこう言った。
「カヤ様はご病気なのです。頭痛がするでしょう?部屋でお休みになって下さい」
私は女の言う通りに寝室のベッドに横になった。私にはたった一週間ほどの記憶も思い出せない。
分かっているのは自分がカヤという名前だというだけ。私は急に心細くなって涙が流れた。
自分が何者なのかわからないということがこんなにも不安だなんて思いもしなかった。
女以外誰にも会わない日常の中で私は一人ぼんやりと過ごすことが多くなった。
何も考えず、ただ季節が過ぎ去っていくのを見ているだけの日々。
それは痛みを感じずに済んだが、生きているとは言えない状況だった。
私は静かにけれど確かに絶望していた。
「ここは……?」
「ようやくお目覚めね、眠り姫」
「レイラ!? 一体、何のつもり?」
私は魔法杖を胸ポケットから探したが、見つからなかった。
「探し物はこちらかしら? こんな棒切れが無くては魔法が使えないなんて不便ですわね」
レイラは薄い黄色のドレスに薔薇が刺繍されたドレスを着て、私の周りをふわりふわりと歩き回る。
「あなたのおかげで国王陛下を害し損ねてしまったし、その罪をライアン様に被ってもらうのも失敗してしまったわ。本当に邪魔ばかりして下さるのね」
「やっぱり、あなたの目的はライアン様の失脚だったのね」
「そう。あなたにわたくしのことを告発されると面倒ですから、とりあえず次の策に移らせてもらうことにしましたの。御者を操ってこの屋敷まで送ってきてもらいました。お疲れだったみたいで、眠っていてくれて手間が省けて良かったです。何せ私の魔法は回数制限があるものだから」
「回数制限?」
私はここから逃げ出す策は何かないかと思案しながら、レイラの口上を聞いていた。杖がない今、やはり素手で戦うしかないが、レイラに触れれば魔法をかけられてしまう。
「あなたもご存知でしょう。紫色の蝶。あれは五匹しかいないのです。あなたを元の世界に返す呪いに一匹、ライアン様の心を虜にする魔法に一匹、そしてここに三匹の蝶がいます。どうすると思いますか?」
「どうする……って?」
「わたくし、できる限り人殺しは好みませんの。あなたは邪魔なだけ、元の世界に戻って頂ければそれで良いのです」
レイラは音もたてずにゆっくりと私に歩み寄ってくる。私はじりじりと後ろにさがりながら、武器になりそうなものを探す。朽ちかけた椅子に手をかけると後ろから羽交い締めにされた。
「おいたはよくないよ、マヤ殿」
「アッシャー様!」
私は必死にもがいた。しかし、アッシャーの拘束は外れなかった。
「わたくしの魔法は人と接触すること、それか花を媒介することで魔法を行使することができます」
レイラが三本の薔薇を手に近づいてくる。
「始めにこの白薔薇を……あなたの魔力を封印します」
白薔薇を私の胸に刺すと薔薇が一気に開花し、散っていった。
「次にこの黄薔薇を……あなたの若さを封印します」
黄薔薇を私に胸に刺すと薔薇はまた咲き誇り、花弁を散らしていった。
「最後にこの赤薔薇を……あなたの記憶を封印します」
赤薔薇を私の胸に刺すと薔薇は美しく花開き、枯れていった。
私はそのまま崩れ落ちた。
目が覚めると目の前に薔薇色の髪をした美しい女が立っていた。
「お気づきになりました? あなたはカヤというこの村に住む老婆です。私は王都に帰る道中、偶然倒れたあなたを見つけました。あなたの暮らしていたおうちにお連れしましょう」
私は愛らしい薔薇のドレスの令嬢に手を引かれて歩くと、一気に五十も歳をとった様に身体が重く足腰が軋んだ。そして馬車に乗せられ、村の小さな一軒家に連れて行かれた。
「ここがあなたの住居です。どうか残りの時間をここでゆっくりお過ごしください」
私は訳も分からず、馬車を降ろされると見知らぬ四十代ほどの女が私に声をかけた。
「さあ、お疲れでしょう。こちらでお休みください、カヤ様」
私はこじんまりとした寝室に案内され、そこにある鏡台で自分の姿を見た。何故か乗馬服を着ている七十を越えた老婆がそこには映っていた。
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不思議に思いながらも、私は女に服を脱がしてもらい、寝間着に着替えて私は眠りについた。
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気分転換に外に出ようとすると女が出てきて私を引き留めた。
そして、私が何者か尋ねるといつも女はこう言った。
「カヤ様はご病気なのです。頭痛がするでしょう?部屋でお休みになって下さい」
私は女の言う通りに寝室のベッドに横になった。私にはたった一週間ほどの記憶も思い出せない。
分かっているのは自分がカヤという名前だというだけ。私は急に心細くなって涙が流れた。
自分が何者なのかわからないということがこんなにも不安だなんて思いもしなかった。
女以外誰にも会わない日常の中で私は一人ぼんやりと過ごすことが多くなった。
何も考えず、ただ季節が過ぎ去っていくのを見ているだけの日々。
それは痛みを感じずに済んだが、生きているとは言えない状況だった。
私は静かにけれど確かに絶望していた。
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