最強の聖女は恋を知らない

三ツ矢

文字の大きさ
上 下
89 / 198
王国陰謀編

国際博覧会と恋の行方~観覧車で花火を~

しおりを挟む
その日のうちに私の元にエヴァンから手紙が来た。その内容はライアンの様子について端的に記述されていた。



「オーベロン、これってどういうことかな……ライアン様は魔法がかかっていないってこと?」

「いや、確かに魔法はかけられていたよ。だけど、それがどういう性質の魔法なのかはわからなかった」

「とりあえず、会ってみるしかなさそうね……」



私の胸に嫌な予感がよぎる。窓の外は秋雨がしとしとと降り続けていた。



 それから三日後、ライアンから手紙が来た。私はいそいそと封を開け、中身を読み始めた。



「オーベロン、国際博覧会のコンサートに誘われたわ。一体どうして?私とコンサートに行った記憶があるから、今までの三人なら決して誘われないはずの場所だわ」

「今までとは違うかもしれないね……続きが書いてあるよ」

「お忍びでと書いてあるわね……あと、話したいことがあるって。何だろう?」

「とにかく、会うことができるんだ。マヤ、前向きに考えよう」

「そうね」



私はオーベロンに笑いかけたが、どうにも心が晴れなかった。もう一度手紙を読み直し、その端正な筆跡を指でなぞった。



翌週、私たちはフェアリーライトパレスの前で待ち合わせをした。ライアンはいつもの白い燕尾服でもはなく、ごくありふれたスーツ姿だった。仕立てのいい黒のジャケットにクリーム色のベストを着こみ、鮮やかな金髪を帽子で隠している。それでもその白皙の美貌は隠し切れていない。私も白のワンピースの上にモスグリーン生地で胸元が編み込まれている、一般的なドレスだった。



「こんにちは、ライアン様。本日はお忙しい中、お時間いただきありがとうございます」

「こんにちは、クラキ殿。ご無沙汰しております。今日はよろしくお願いします」



ライアンは昔の様な柔和な笑顔とそして紳士的なふるまいは変わっていなかった。私たちはフェアリーライトパレスへと入場した。コンサートが始まるまで、様々なパビリオンを見て回った。ライアンは終始にこやかな表情だった。頃合いを見て中央ホールで席に座った。オーケストラが壮大で力強い演奏を行う。私がちらりと横を窺うと、ライアンは寛いだ様子で演奏を楽しんでいる。私は安堵しつつも不安に駆られていた。



(今までの三人と明らかに様子が違う……)



確かにライアンは誰にでも人当たりが良く、紳士的な性格だった。私はそっと好感度を確認する。小さな黒いハートが漂っている。それは全く揺らぎようのない事実である。嫌悪でもなくただ無関心。それが私のライアンが私に対する態度の評価だった。



「素晴らしい演奏ですね」

「そうですね。この国の音楽はレベルが高くて驚きます。また、ライアン様の演奏も聞きたいところですけれど」

「俺の演奏など聞かせられるものではありませんよ」

「そんなご謙遜を。以前聞かせて頂いた時は感動しましたわ」

「そういえば、そんなこともありましたね。喜んでいただけたなら良かったです」



ライアンは涼しい顔をしてそう答えた。私はきゅっとバッグを強く握りしめた。オーケストラは演奏を続ける。今度は荘厳で華麗な曲だった。



「彼女も連れてきたかったな……」

「彼女って?」

「いえ、何でも。失礼しました」



ライアンは柔らかく微笑んだが、私の心はざわついた。コンサートは定刻通りに終了した。そろそろ日も落ちてきたころ、私はライアンを目的地へと誘った。



「ライアン様、帰る前にあれに乗りませんか?」

「あれ、とは?もしかして……」

「ええ、観覧車です」



観覧車はこの国際博覧会の目玉だった。フローレンス王国の王都を一望できるとして観光客はこぞって、この世界では初めての観覧車に乗りたがった。私の提案から二年で完成までこぎつけるとは、正直私自身思っていなかった。しかし、この国の技術力と魔法科学によって完成させることができた。



「しかし、あの大行列ですよ。閉館までに乗れるかどうか」

「ご心配なく。この日のために乗車券を用意してまいりました」



私たちは担当者に乗車券を見せると、担当者は別口に通してくれた。その時、担当者はライアンの顔を見てあっと叫びそうになったが、私たちは二人で口に指を立て、担当者は慌てて口を押えた。観覧車に乗り込むと、ライアンは楽し気な笑い声をあげた。



「さっきの担当者の反応は愉快でしたね。しかし、他には誰も俺のことに気付かない。たまには庶民の真似も悪くないです」

「ライアン様の姿は写真や肖像画で国民の皆さんが良く存じていらっしゃいますからね。王子という立場を忘れて、こうして過ごすことも大切ですわ」

「そうですね。身分とは重たいものです。その点、学生時代は良かった……皆とともに学び、かけがえのない友を得ることができました」



友と私は口の中で呟いた。私はまたバッグを強く握った。その時、ライアンは外の風景に目をやった。



「クラキ殿、見て下さい。王都が見えますよ」

「……本当ですね」



そこには日が暮れ、街の明かりが幾数も灯り出した雄大で幻想的な情景が広がっていた。



「あそこには王城が見えますよ。遠くからだとあんな風に見えるんですね」

「ええ、とても立派な都です。この国の豊かさがよくわかります」

「観覧車と聞いた時、一体何をするものか見当もつきませんでした。しかし、こうして乗ってみて王都を一望すると、クラキ殿が何を見せたかったのか分かりました」

「この国の美しさを多くの人に実感してもらいたかったんです。お気に召して頂けて良かったです」



そして、とうとう頂点に達しようとした時、二人の目の前で花火が上がった。日が落ちた空がぱっと明るく照らされる。



「すごいな壮観だ……」

「今日はどこかで祭りでもしているのでしょうか?」

「さあ……しかし、高いところから見る花火もまた美しいですね」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio
ファンタジー
 特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。  神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。 そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。 日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。    神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?  他サイトでも投稿しております。

なんだって? 俺を追放したSS級パーティーが落ちぶれたと思ったら、拾ってくれたパーティーが超有名になったって?

名無し
ファンタジー
「ラウル、追放だ。今すぐ出ていけ!」 「えっ? ちょっと待ってくれ。理由を教えてくれないか?」 「それは貴様が無能だからだ!」 「そ、そんな。俺が無能だなんて。こんなに頑張ってるのに」 「黙れ、とっととここから消えるがいい!」  それは突然の出来事だった。  SSパーティーから総スカンに遭い、追放されてしまった治癒使いのラウル。  そんな彼だったが、とあるパーティーに拾われ、そこで認められることになる。 「治癒魔法でモンスターの群れを殲滅だと!?」 「え、嘘!? こんなものまで回復できるの!?」 「この男を追放したパーティー、いくらなんでも見る目がなさすぎだろう!」  ラウルの神がかった治癒力に驚愕するパーティーの面々。  その凄さに気が付かないのは本人のみなのであった。 「えっ? 俺の治癒魔法が凄いって? おいおい、冗談だろ。こんなの普段から当たり前にやってることなのに……」

特殊スキル持ちの低ランク冒険者の少年は、勇者パーティーから追い出される際に散々罵しった癖に能力が惜しくなって戻れって…頭は大丈夫か?

アノマロカリス
ファンタジー
少年テイトは特殊スキルの持ち主だった。 どんなスキルかというと…? 本人でも把握出来ない程に多いスキルなのだが、パーティーでは大して役には立たなかった。 パーティーで役立つスキルといえば、【獲得経験値数○倍】という物だった。 だが、このスキルには欠点が有り…テイトに経験値がほとんど入らない代わりに、メンバーには大量に作用するという物だった。 テイトの村で育った子供達で冒険者になり、パーティーを組んで活躍し、更にはリーダーが国王陛下に認められて勇者の称号を得た。 勇者パーティーは、活躍の場を広げて有名になる一方…レベルやランクがいつまでも低いテイトを疎ましく思っていた。 そしてリーダーは、テイトをパーティーから追い出した。 ところが…勇者パーティーはのちに後悔する事になる。 テイトのスキルの【獲得経験値数○倍】の本当の効果を… 8月5日0:30… HOTランキング3位に浮上しました。 8月5日5:00… HOTランキング2位になりました! 8月5日13:00… HOTランキング1位になりました(๑╹ω╹๑ ) 皆様の応援のおかげです(つД`)ノ

欲しいのならば、全部あげましょう

杜野秋人
ファンタジー
「お姉様!わたしに頂戴!」 今日も妹はわたくしの私物を強請って持ち去ります。 「この空色のドレス素敵!ねえわたしに頂戴!」 それは今月末のわたくしの誕生日パーティーのためにお祖父様が仕立てて下さったドレスなのだけど? 「いいじゃないか、妹のお願いくらい聞いてあげなさい」 とお父様。 「誕生日のドレスくらいなんですか。また仕立てればいいでしょう?」 とお義母様。 「ワガママを言って、『妹を虐めている』と噂になって困るのはお嬢様ですよ?」 と専属侍女。 この邸にはわたくしの味方などひとりもおりません。 挙げ句の果てに。 「お姉様!貴女の素敵な婚約者さまが欲しいの!頂戴!」 妹はそう言って、わたくしの婚約者までも奪いさりました。 そうですか。 欲しいのならば、あげましょう。 ですがもう、こちらも遠慮しませんよ? ◆例によって設定ほぼ無しなので固有名詞はほとんど出ません。 「欲しがる」妹に「あげる」だけの単純な話。 恋愛要素がないのでジャンルはファンタジーで。 一発ネタですが後悔はありません。 テンプレ詰め合わせですがよろしければ。 ◆全4話+補足。この話は小説家になろうでも公開します。あちらは短編で一気読みできます。 カクヨムでも公開しました。

異世界転生は、0歳からがいいよね

八時
ファンタジー
転生小説好きの少年が神様のおっちょこちょいで異世界転生してしまった。 神様からのギフト(チート能力)で無双します。 初めてなので誤字があったらすいません。 自由気ままに投稿していきます。

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]

ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。 「さようなら、私が産まれた国。  私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」 リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる── ◇婚約破棄の“後”の話です。 ◇転生チート。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。 ◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^ ◇なので感想欄閉じます(笑)

追放された8歳児の魔王討伐

新緑あらた
ファンタジー
異世界に転生した僕――アルフィ・ホープスは、孤児院で育つことになった。 この異世界の住民の多くが持つ天与と呼ばれる神から授かる特別な力。僕には最低ランクの〈解読〉と〈複写〉しかなかった。 だけど、前世で家族を失った僕は、自分のことを本当の弟以上に可愛がってくれるルヴィアとティエラという2人の姉のような存在のおかげで幸福だった。 しかし幸福は長くは続かない。勇者の天与を持つルヴィアと聖女の天与を持つティエラは、魔王を倒すため戦争の最前線に赴かなくてはならなくなったのだ。 僕は無能者として孤児院を追放されたのを機に、ルヴィアとティエラを助けるために魔王討伐への道を歩み出す。

処理中です...