上 下
13 / 16

13話

しおりを挟む
一番知りたいところがやっと見れた。 
単純な話、世界の要人である彼と関わりのある私は何かに狙われ、その時は命を狙われた。 
いつもならSPで固めて警備が厳重だけど、その時だけわずかな時間ぽっかりと私たち2人だけ。 
間に合わないと思ったのだろう彼は力を使い私を銃弾から救おうとしてくれた。 
ただ加減が出来ず、力はその場で爆ぜた。相手は死んで、私も入院。重傷だったのだろう、朦朧とする中で彼の謝罪の声しか聞こえなかった。 
違う。 
なんて言えばいいかわからないけど、違うのよ。 
起きていわなきゃ、このままの貴方は見たくない。 
起きろ。私。お願いだから起きて。 

「リズ?」 
「フィル?」 
窓から日が差している。見たところ早い朝だ。 
私は夜着に着替えていて、彼も室内用の衣装になっていた。 
あぁ、そうだ。 
馬車に乗りすぐ、私は急な眩暈に意識を飛ばしたんだ。
力の使いすぎ、記憶の奮起、頭部への攻撃は受け入れたから影響ないだろうけど、総合的にギリギリだったのか。 
「…よかった」 
彼が心底安心したように囁く。声はかすれて、目に少しクマが出来てる。以前を思い出してたのだろうか。 
「…私は大丈夫よ」 
「うん」 
「貴方は何も悪くない」 
「…」 
「あの時だって昨日だってそうよ」 
その言葉に彼は僅かに喉を動かす。本当なら彼は思い出してほしくなかったことだろうから。
けど、私が欲しかった思い出したい記憶はここだ。彼が彼らしくいられない要因になったこと。
「…思い出した?」 
「えぇ」 
「僕が、君を傷つけたことも」 
「違うわ」 
起きてしまっただけ。 
「私も貴方も、あの時のことに捕らわれすぎてるのね…」 
どうしようか。 
いや、まずはもう少し寝たいかな。 

「フィル」 
「リズ?」 
あいてる方で手招きをする。 
私が起きるまで手を握っていたのか、絡めていた手を外し、こちらに近づいてくる。 
その首根っこに腕を回してこちらへ引きずり込んでやった。 
「リズ?!」 
「……もうちょっと寝たい」 
「え?」 
「貴方寝てないでしょう?」 
「……」 
肯定だ。これはわかりやすい。 
「少し寝ましょう。話はそれからよ」 
「え…僕は」 
「聞かない。私は貴方と一緒に、ここで寝たいの」 
しばらく黙った後、彼はベッドに入り込んできた。 
そして抱きしめる。縋りつくに近いだろうか。久しぶりに彼ときちんと向き合った気がする。 
それはもう久しぶりに。 
「リズ」 
「うん」 
「……ありがとう」 
「どういたしまして」 
掠れた声で囁く彼に応える。これで謝ってきたら蹴り飛ばしてた。 
彼に少しは届いたようだ。まずは寝よう。 

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

前の世界の私はそれはもうはねっ返りの強い社会人だったわね。 
そんなだから、何度もぶつかった。彼だって若くして国を背負う要人で、鼻持ちならない人間だったもの。 
傍から見れば相性悪そうな私たちが、あの世界あの時によくもまぁくっついたわ。とてもじゃないけど笑える。不思議なものね。
 
……あぁ、そうか。 
眠りについて、前の世界を見る。 
頭をぶつけたのが原因だと彼は思ってるけど、あの時のはそれが原因じゃない。
爆ぜた彼の力を大量に浴びたからだ。 
力が強すぎて酔ってしまったような、受けた彼の力が私の体に馴染むまで時間がかかった。 
加えて彼には記憶をいじられてる。記憶にないものを受け入れるには時間がかかった。私の今ある力は彼によるものだけど、その力のおかげであの時のことがよくわかる。 
受けとるまで時間がかかってしまった。遠回りも随分したわね。 
そもそも、あの世界で異質だった彼の能力を私は知っていた。受け入れていた。 
それは限りなく私が彼の世界に近いとこにいたからか。 

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

「……」 
起きたときには太陽は真上、陽気のいい昼下がりだ。 
彼を起こす。 
もう少し寝かしてあげてもよかったけど、こうして起こしてあげることで彼は気づくだろう。朝起きてもこれからは一人じゃないことに。 強気で自由に生きてる割に孤独は苦手、そういう人だ。覚えているし知っている。
「フィル」 
「……リズ」 
「昼よ。着替えて食事にしましょう」 
「……リズ」 
半分起き上がって、私を寝ぼけた眼で眺めたあとに、ゆっくりとした動作で抱きしめてくる。確かめてるのか。寝ぼけているのか。どちらでもかまわないのだけど。 
「…ほら」 
腕を緩めてもらって立ち上がる。 
まだぼんやりしてたようだけど、なんとか着替えに自室へ入っていった。 
これなら大丈夫でしょうね。 
「…まったく」 
溜息一つ、私は階下へ向かった。 

先に席について紅茶を頂いていると、さっきとは打って変わった屋敷の主が入ってくる。 
切り替え凄いわ。実に爽やか、背筋が伸びて自信が垣間見える。 
この人は一つ超えたのね。 
席につき食事をともにしてもわかる。
私が昨日受け入れたからか。
まだすこしばかりの遠慮が見られるけど見違えるよう。 

対して私は。 
すっきりしたものの、気持ちが踏み切れてなかった。 
思い出したいことは思い出した。いろいろつながったし、そこはいい。 
けど、私は本来の私に戻れたのだろうか。 
どうしても、私が私である確証がもてない。 
姿は違うけど中身は一つ前の世界の日本という国にいた社会人だ。 
死んで生まれ変わったわけじゃない。そのままの形を保ってこの世界に来た。それでもたとえ姿を日本人に戻しても私は前の世界の私だと思えない。 
ここにいる私は記憶を抹消し幼女から始まった新しい人格。 
同一視できない。 
本質は同じで同一人物、けど私は私、あっちはあっちといった具合に他人事になってる、 
彼に対してもそう。
好感は抱いてても、そこに愛があるかと問われるとはっきり答えられない。
今まで見てきた世界の私たちのような感覚はない。 
さて、どうしよう。 
思い出せば進めると思ってた。 
受け入れることができればゴールだと思ってた。 
それは違うと、目の当たりにする。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

とある令嬢が男装し第二王子がいる全寮制魔法学院へ転入する

春夏秋冬/光逆榮
恋愛
クリバンス王国内のフォークロス領主の娘アリス・フォークロスは、母親からとある理由で憧れである月の魔女が通っていた王都メルト魔法学院の転入を言い渡される。 しかし、その転入時には名前を偽り、さらには男装することが条件であった。 その理由は同じ学院に通う、第二王子ルーク・クリバンスの鼻を折り、将来王国を担う王としての自覚を持たせるためだった。 だがルーク王子の鼻を折る前に、無駄にイケメン揃いな個性的な寮生やクラスメイト達に囲まれた学院生活を送るはめになり、ハプニングの連続で正体がバレていないかドキドキの日々を過ごす。 そして目的であるルーク王子には、目向きもなれない最大のピンチが待っていた。 さて、アリスの運命はどうなるのか。

【完結】ヒロインはラスボスがお好き

As-me.com
恋愛
完結しました。 5歳の時、誘拐されて死にかけた。 でもその時前世を思いだし、ここが乙女ゲームの世界で自分がそのヒロインに生まれ変わっていたことに気づく。 攻略対象者は双子の王子(ドSとドM)に隣国の王子(脳筋)、さらには妖精王(脳内お花畑)! 王子たちを攻略して将来は王妃様?嫌です。 それとも妖精王と恋をして世界をおさめちゃう?とんでもない。恋愛イベント?回避します!好感度?絶対上げません!むしろマイナス希望! ライバルの悪役令嬢?親友です!断罪なんかさせるもんかぁ! 私の推しはラスボスの吸血鬼様なんだからーーーーっ!!! 大好きな親友(ライバル)と愛する吸血鬼(ラスボス)を救うため、 あらゆるフラグをへし折ろうと奮闘する、はちゃめちゃヒロインの物語。 ちょっぴり笑えるラブコメ……になったらいいな。(笑) ※第1部完結。続編始めました。 ※他サイトにも掲載しております。

偽の暴君,漆黒騎士の許嫁です

yu-kie
恋愛
『病んでる』?王子と異国から来た許嫁の物語。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

幸せの鐘が鳴る

mahiro
恋愛
「お願いします。貴方にしか頼めないのです」 アレット・ベイヤーは私ーーーロラン・バニーの手を強く握り締め、そう言った。 「君は………」 残酷だ、という言葉は飲み込んだ。 私が貴女に恋をしていると知りながら、私に剣を握らせ、その剣先をアレットの喉元に突き立たせ、全てを終わらせろと言っているのを残酷と言わず何と言うのか教えて欲しいものだ。 私でなくともアレットが恋しているソロモン・サンに頼めば良いのに、と思うが、アレットは愛おしい彼の手を汚したくないからだろう。 「………来世こそ、ソロモンと結ばれる未来を描けるといいな」 そう口にしながら、己の心を置き去りにしたままアレットの願いを叶えた。 それから数百年という月日が経過し、私、ロラン・バニーはローズ・ヴィーという女性に生まれ変わった。 アレットはアンドレ・ベレッタという男性へ転生したらしく、ソロモン・サンの生まれ変わりであるセレクト・サンと共に世界を救った英雄として活躍していた。 それを陰ながら見守っていた所、とある青年と出会い………?

処理中です...