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10話
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「おお…」
屋敷の外に出たのは事実上初めてだった。能力で場所異動かと思いきや、シックに馬車移動。
「能力は使わないの?」
「基本この世界では力による移動はそんなにないよ。大概は舟と馬車」
「へぇ…」
「電車と車もそろそろ出始めそうだよ」
「そう…」
能力の云々を除けば前の世界でいう近世…?それか近代あたりになるのだろうか。
そもそもバラける能力を元にして、察知する感覚だったり、それこそテレパシーに近いものも実際可能だ。瞬間移動なんてのも出来る。それならわざわざ別で移動手段を作る必要があるのだろうか。
実質的な時代は現代だけど、能力の影響で進みが悪い近世とかそういった捉え方をすればいいだろうか。
今まで屋敷生活だったから、情報だけ仕入れるだけで、実際の状態を目の当たりにしてなかったから、どことなく居心地が悪い…というか違和感を抱く。
屋敷も敷地が広大過ぎて、自然が溢れすぎてたから、隣近所がどうなってるなんてわからなかったし、やっぱり早くに外に出るべきだったのかもしれない。知ることを進めるなら彼が行く外の場所も一緒に回った方がよかったんじゃないだろうか。
…考えても今更か。今は馬車での移動時間を楽しもう。
個室の馬車の中は気兼なく話せていいし、乗り心地もなかなかいい。
「ドレスはどう?」
「大丈夫」
他の世界でも社交のある時があった。そのおかげか割とドレスで行動することに支障はなさそうだ。
馬車の小窓から見える世界はとても平和。
のどかな田園をぬけ、市街地に入ると、そこは賑わいを見せるヨーロッパの街並み。
屋敷は離れにあったから、他の住人に会うことがなかった。
市街地にはこの時代この世界の人々がたくさんいた。この地域では治安が非常なよく経済もいいらしい。きっと彼がしてるとこもあるだろう。改めて考えると、彼はすごい人だ。
思えば彼はどの世界でも有能だった。それ故に割と鼻につくことが多かった。
猫をかぶらない限り初対面の印象がよかった試しはない。猫をかぶってたときもあったけど、大概違和感を感じてすぐ彼の本質にたどり着いていた。
今回が1番長いかもしれない。
私は未だ彼の本質を見ていない。
今回の社交界も彼の猫かぶりがいかんなく発揮されるだろうから、あまり期待はできないだろう。
「……」
「大丈夫?」
「…たぶん」
社交界とは華やかなイメージだったけど、その通りだった。
そこにいる人々も格式高いのが伺える。
さすがに面食らった。
いくつかの世界でこうした社交界に出てた時はあったけど、やっぱり直近は普通の社会人、社交界と縁のなかった生活をしてた私だからか、なかなか目の当たりにすることが慣れない。
(覚悟を決めろ)
自分に言う。
私はここにくることを選んだ。
決めたんだ、動いて足掻いて足りない記憶を見つけるって。
背筋を伸ばす。お腹に力を入れる。静かに息を吐いて、見上げて彼に笑った。
彼はそんな私を見て微笑んだ。そしてすぐに営業用の顔になる。
それを見て懐かしく思うのは私の記憶からきてるのだろうか。
「公爵」
すぐに彼に声がかかる。
海外貿易に先駆けてルート確立をした商業家の権威だ。その次は王族の分家で福祉活動とりわけ児童教育に精通してる女性、次は鉄道開拓に伴う動力の発見と仕組みについて立案された科学者…うん、まるでノーベル賞受賞会場にいるよう。
幸い、詰め込んだ彼の人脈はほぼ完璧だったようで、会う人会う人のプロフィールはすぐに出てきた。
会話も所作も問題なさそうだし、なによりあの公爵が結婚したその相手ということで珍し気に見られる以外は皆社交辞令だ。
というか、彼は本当に伴侶を得なさそうなイメージでこの世界に定着したのは…うーん…いいことなのだろうか。
むやみに詮索されないという点では、操作した記憶が瓦解する危険性は薄くなるけど。
その記憶操作もあるのか、会って話す人々は、私については大方深くも問われず、専ら話は公爵。
よかった。彼の言った通り。
隣で笑顔でいること、社交辞令に対する返答、簡単な仕事だ。
「フィル!」
馴染みのある声が彼を呼ぶ。ティムだ。
この会場で正装して厳かな雰囲気ある中にいつもの軽い調子…けれど場に浮くことはなかった。それが彼の力か…前の世界ではコミュ力高いとか言われそう。
彼は猫かぶりの笑顔のまま、だけど雰囲気は猫かぶりを捨ててティムの元へ歩く。
「失礼」
ティムのもとへ向かう彼に着いていこうと後を追うその時に声をかけられた。
ふりむけばシャープな目つきの凛とした妙齢の女性が立っていた。
わかる。知識として詰めたとか関係ない。
彼女は間違いなく。
「お初にお目にかかります、カーリス候爵」
「えぇ、初めまして。コールウォーン公爵婦人」
異邦者である私にすぐに気づいて存在を亡き者にしようとした人物。軍事における最高権力者。
マレリー・ローレンス・カーリス候爵。
間違いない。
屋敷の外に出たのは事実上初めてだった。能力で場所異動かと思いきや、シックに馬車移動。
「能力は使わないの?」
「基本この世界では力による移動はそんなにないよ。大概は舟と馬車」
「へぇ…」
「電車と車もそろそろ出始めそうだよ」
「そう…」
能力の云々を除けば前の世界でいう近世…?それか近代あたりになるのだろうか。
そもそもバラける能力を元にして、察知する感覚だったり、それこそテレパシーに近いものも実際可能だ。瞬間移動なんてのも出来る。それならわざわざ別で移動手段を作る必要があるのだろうか。
実質的な時代は現代だけど、能力の影響で進みが悪い近世とかそういった捉え方をすればいいだろうか。
今まで屋敷生活だったから、情報だけ仕入れるだけで、実際の状態を目の当たりにしてなかったから、どことなく居心地が悪い…というか違和感を抱く。
屋敷も敷地が広大過ぎて、自然が溢れすぎてたから、隣近所がどうなってるなんてわからなかったし、やっぱり早くに外に出るべきだったのかもしれない。知ることを進めるなら彼が行く外の場所も一緒に回った方がよかったんじゃないだろうか。
…考えても今更か。今は馬車での移動時間を楽しもう。
個室の馬車の中は気兼なく話せていいし、乗り心地もなかなかいい。
「ドレスはどう?」
「大丈夫」
他の世界でも社交のある時があった。そのおかげか割とドレスで行動することに支障はなさそうだ。
馬車の小窓から見える世界はとても平和。
のどかな田園をぬけ、市街地に入ると、そこは賑わいを見せるヨーロッパの街並み。
屋敷は離れにあったから、他の住人に会うことがなかった。
市街地にはこの時代この世界の人々がたくさんいた。この地域では治安が非常なよく経済もいいらしい。きっと彼がしてるとこもあるだろう。改めて考えると、彼はすごい人だ。
思えば彼はどの世界でも有能だった。それ故に割と鼻につくことが多かった。
猫をかぶらない限り初対面の印象がよかった試しはない。猫をかぶってたときもあったけど、大概違和感を感じてすぐ彼の本質にたどり着いていた。
今回が1番長いかもしれない。
私は未だ彼の本質を見ていない。
今回の社交界も彼の猫かぶりがいかんなく発揮されるだろうから、あまり期待はできないだろう。
「……」
「大丈夫?」
「…たぶん」
社交界とは華やかなイメージだったけど、その通りだった。
そこにいる人々も格式高いのが伺える。
さすがに面食らった。
いくつかの世界でこうした社交界に出てた時はあったけど、やっぱり直近は普通の社会人、社交界と縁のなかった生活をしてた私だからか、なかなか目の当たりにすることが慣れない。
(覚悟を決めろ)
自分に言う。
私はここにくることを選んだ。
決めたんだ、動いて足掻いて足りない記憶を見つけるって。
背筋を伸ばす。お腹に力を入れる。静かに息を吐いて、見上げて彼に笑った。
彼はそんな私を見て微笑んだ。そしてすぐに営業用の顔になる。
それを見て懐かしく思うのは私の記憶からきてるのだろうか。
「公爵」
すぐに彼に声がかかる。
海外貿易に先駆けてルート確立をした商業家の権威だ。その次は王族の分家で福祉活動とりわけ児童教育に精通してる女性、次は鉄道開拓に伴う動力の発見と仕組みについて立案された科学者…うん、まるでノーベル賞受賞会場にいるよう。
幸い、詰め込んだ彼の人脈はほぼ完璧だったようで、会う人会う人のプロフィールはすぐに出てきた。
会話も所作も問題なさそうだし、なによりあの公爵が結婚したその相手ということで珍し気に見られる以外は皆社交辞令だ。
というか、彼は本当に伴侶を得なさそうなイメージでこの世界に定着したのは…うーん…いいことなのだろうか。
むやみに詮索されないという点では、操作した記憶が瓦解する危険性は薄くなるけど。
その記憶操作もあるのか、会って話す人々は、私については大方深くも問われず、専ら話は公爵。
よかった。彼の言った通り。
隣で笑顔でいること、社交辞令に対する返答、簡単な仕事だ。
「フィル!」
馴染みのある声が彼を呼ぶ。ティムだ。
この会場で正装して厳かな雰囲気ある中にいつもの軽い調子…けれど場に浮くことはなかった。それが彼の力か…前の世界ではコミュ力高いとか言われそう。
彼は猫かぶりの笑顔のまま、だけど雰囲気は猫かぶりを捨ててティムの元へ歩く。
「失礼」
ティムのもとへ向かう彼に着いていこうと後を追うその時に声をかけられた。
ふりむけばシャープな目つきの凛とした妙齢の女性が立っていた。
わかる。知識として詰めたとか関係ない。
彼女は間違いなく。
「お初にお目にかかります、カーリス候爵」
「えぇ、初めまして。コールウォーン公爵婦人」
異邦者である私にすぐに気づいて存在を亡き者にしようとした人物。軍事における最高権力者。
マレリー・ローレンス・カーリス候爵。
間違いない。
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