上 下
4 / 16

4話

しおりを挟む
「…っ!」 
ベッドから飛び起きる。
頭が痛い。代わりにと言ってはのごとく、熱に浮される感覚や体の痛みはなかった。そしてはたと思う。 
天蓋着きのキングサイズのベッド……戻ってきた?いや、どれが本来の私の世界? 
夢で見たのは間違いなく、実在する世界だ。けど、ここにくる前の世界ではない?
3つめの世界。 
彼との接点が出てきた。
3つめの世界で私は彼との接触している。しかも一方的に彼が私を知っている。 
この世界以外は私は日本にいた。私自身は日本人だ。 
今の私は? 
鏡を見る。 
金色の髪に群青色の瞳。 
もう2つの世界の私はうり二つだが、こちらの世界では顔立ちがちがう。欧米よりの綺麗な顔立ちになっている。 
彼は顔立ちもこちらの世界では若干違う。日本という世界にいたとき、元より彼は外国人だったからそこまで違和感はないけれど。 

「目、覚めた?」 
扉が開き、件の彼が入ってくる。 
間違いなく彼だ。心地のいい低い声。 
困ったような笑顔。 
私の顔を見て何かを察したらしい彼は、そのままドアを背にして言った。 
「思い出した?」 
「!」 
その言葉で確信した。 
「あなた、私の記憶をいじったの?」 
「あの世界の時だけだよ」 
彼は私が見た世界をわかっているようだった。 
それとも記憶をいじったのは、あの誘拐された世界の私だけなのか。 
「私とあなたは…本当はお互いを知って?」 
「あぁ」 
「…あの世界で私たちは恋人だった?」 
「…そうだよ。けど、僕はあの世界にはいられなかった」 
「だから、いなくなってしまったの?」 
私から、あの世界から。 
「この力は君を殺すものだった。あの世界で僕は力を制御できてなかったんだよ。だから、そういう力の存在がある世界に行くことを決めたんだ」 
君を巻き込むつもりはなかったと、弱く言う彼。 
違う。私の知る彼はこんなじゃない。 
なんで? 
「ちがう」 
「……」 
「違うのよ、私の知ってるあなたは…」 
彼が苦しそうに顔を歪ませる。 
「まだ全て思い出してないんだよ」 
これ以上が?頭はいたいし、いろいろ追いつかないのに。 
「ここにきた私は、ただの会社員で、あなたに会った記憶なんてない…」 
「…全部君だよ」 
「え?」 
「この平行世界、すべてが君で全てが存在する世界」 
「…何言って」 
「………後にしよう」 
変わらぬ困り顔で彼は扉をあけた。 
「侍女を呼ぶ。着替えたらおりてきて。朝食にしよう」 

私を見ずに扉は再び閉じられた。 
程なく侍女がやってくる。 
ここにくる前に僅かばかり過ごしていたあの家でこの世界のいい家の生活は知っていたので抵抗はなかったが、着替えは自分でもできるなとふと思う。 
淑女の衣装と言うべきか、さいわいコルセットをしめられるとか、大きく広がるスカートとか、そういうのはなく、わりかしシックで動きやすいものだったので助かった。 
侍女と話をする気力はなかった。 
思い出してないことがたくさんある。 
彼は全て知ってるの?
にしてもなんであんな意味深に言うのか。 

「早かったね」 
一つ降りて、広すぎる食堂へ案内された。 
私と彼だけが食事をとるらしい。 
椅子に座り、食事が運ばれると彼は執事に何かを伝え、すぐに部屋の中の執事や侍女が部屋を出た。 
「話したいだろう?」 
「…えぇ」 
食事をしながら会話って、この世界のいいとこの身分だとマナー違反になるのかしら? 
でもそんなこと関係ない。気がねなく話せるよう彼ははかってくれたんだから。 
「いじった記憶、戻してもらえないの?」 
「できない」 
「なぜ?」 
「思い出しかけてる状態に無理に戻そうとすると君の脳が壊れる可能性がある」 
よくあるSFものだと、力同士が反発しあって大事故とかいう話があったが、そういうことだろうか。 
少し押せばやってくれるんじゃという希望を抱かせないくらい彼ははっきり言うものだから、私は一人納得する形で諦める。思い出せそうな気もしてるからかもしれない。 
「ここにあなたの家族は?」 
「僕一人だよ」 
「執事さんたちにはなんて…」 
「記憶操作してる。公爵家の若い当主。幼少期に親をなくし親族もなく後ろ盾無しにここまでのし上がった、といった認識になってる」 
「随分他人事ね…」 
「僕は僕の存在がこの世界にあることに違和感を抱かないという操作をしてるんだ。他の記憶は公的な書類等の書き換えをしてるからそこから知ることもできるけど、八割型は人伝えだよ」 
人の噂ってこと? 

「あなた、自分の力の制御できてるの?」 
「……この世界にも僕がいたから教えてもらった」 
「じゃぁ、あなたが2人いるってこと?」 
「この世界の僕は300年ぐらい前に亡くなってるよ。もちろん君も」 
「私も?」 
「同じ世界に同じ人間はいられない。それは君でも僕でも同じことだよ」 
ドッペルゲンガー見ると死ぬとかそんなオカルト話があったな。あれはどちらかというとホラーだったかしら。 
あれ、そしたら、彼の言うこの世界の自分に教わったって…。 
「過去現在未来、すべての世界の自分とはつながってるんだよ。だからいろんなことを教えてもらえるし導いてももらえる」 
私の言いたいことを察したのか彼は答えてくれた。にしたって難しい話だ。それは彼の力がある故に出来うることなんじゃないだろうか。
「前の世界でうまくいく方法教えてもらえなかったの?」 
過去現在未来、すべて世界の私と会話なんてよかわからないけどいいこと教えてもらえるなら、制御方法教えてもらってればよかったんじゃない。 
彼は困った顔をする。その顔は好きじゃない。 
「あの世界の僕は何も見えなかったし聞こえなかった」 
格好悪いことにね、と付け加える。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

帰らなければ良かった

jun
恋愛
ファルコン騎士団のシシリー・フォードが帰宅すると、婚約者で同じファルコン騎士団の副隊長のブライアン・ハワードが、ベッドで寝ていた…女と裸で。 傷付いたシシリーと傷付けたブライアン… 何故ブライアンは溺愛していたシシリーを裏切ったのか。 *性被害、レイプなどの言葉が出てきます。 気になる方はお避け下さい。 ・8/1 長編に変更しました。 ・8/16 本編完結しました。

死に戻った逆行皇女は中継ぎ皇帝を目指します!~四度目の人生、今度こそ生き延びてみせます~

Na20
恋愛
(国のために役に立ちたかった…) 国のため敵国に嫁ぐことを決めたアンゼリーヌは敵国に向かう道中で襲われ剣で胸を貫かれてしまう。そして薄れゆく意識の中で思い出すのは父と母、それに大切な従者のこと。 (もしもあの時違う道を選んでいたら…) そう強く想いながら息を引き取ったはずだったが、目を覚ませば十歳の誕生日に戻っていたのだった。 ※恋愛要素薄目です ※設定はゆるくご都合主義ですのでご了承ください ※小説になろう様にも掲載してます

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

偽の暴君,漆黒騎士の許嫁です

yu-kie
恋愛
『病んでる』?王子と異国から来た許嫁の物語。

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。

なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。 本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!

クールキャラなんて演じられない!

恋愛
プレイしていた乙女ゲームのヒロイン・ステッラベッラとヒーロー・サルヴァトーレとパソコン越しに話せるようになってしまった社会人歴そこそこのオタクの知輝(チアキ)。 そんなファンタジーを受け入れて楽しんでいたある日、彼女は交通事故で死亡し、見目麗しい令嬢に転生…というよりも転移された。そこはパソコン越しに話していたステッラベッラ達がいる乙女ゲームの世界。転生(転移)の大元の原因で身体の主である令嬢オリアーナ・テゾーロ・ガラッシアは自ら命を絶つためにチアキに身体を譲った、はずだった。チアキはオリアーナを見過ごす事が出来ず、力づくでオリアーナを彼女の世界に留めた。 そしてチアキはオリアーナとして過ごす事で彼女が抱える問題を目の当たりにし、それを持ち前の力技で解決していく。 1章はオリアーナの周囲の状況を解決していくヒューマンドラマ風、2章はオリアーナ(中身チアキ)の恋愛ものでお送りします。 ※小説家になろう、ノベルアップ+にも投稿しています。※R15は保険です。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

【完結】優しくて大好きな夫が私に隠していたこと

恋愛
陽も沈み始めた森の中。 獲物を追っていた寡黙な猟師ローランドは、奥地で偶然見つけた泉で“とんでもない者”と遭遇してしまう。 それは、裸で水浴びをする綺麗な女性だった。 何とかしてその女性を“お嫁さんにしたい”と思い立った彼は、ある行動に出るのだが――。 ※ ・当方気を付けておりますが、誤字脱字を発見されましたらご遠慮なくご指摘願います。 ・★が付く話には性的表現がございます。ご了承下さい。

処理中です...