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4話
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「…っ!」
ベッドから飛び起きる。
頭が痛い。代わりにと言ってはのごとく、熱に浮される感覚や体の痛みはなかった。そしてはたと思う。
天蓋着きのキングサイズのベッド……戻ってきた?いや、どれが本来の私の世界?
夢で見たのは間違いなく、実在する世界だ。けど、ここにくる前の世界ではない?
3つめの世界。
彼との接点が出てきた。
3つめの世界で私は彼との接触している。しかも一方的に彼が私を知っている。
この世界以外は私は日本にいた。私自身は日本人だ。
今の私は?
鏡を見る。
金色の髪に群青色の瞳。
もう2つの世界の私はうり二つだが、こちらの世界では顔立ちがちがう。欧米よりの綺麗な顔立ちになっている。
彼は顔立ちもこちらの世界では若干違う。日本という世界にいたとき、元より彼は外国人だったからそこまで違和感はないけれど。
「目、覚めた?」
扉が開き、件の彼が入ってくる。
間違いなく彼だ。心地のいい低い声。
困ったような笑顔。
私の顔を見て何かを察したらしい彼は、そのままドアを背にして言った。
「思い出した?」
「!」
その言葉で確信した。
「あなた、私の記憶をいじったの?」
「あの世界の時だけだよ」
彼は私が見た世界をわかっているようだった。
それとも記憶をいじったのは、あの誘拐された世界の私だけなのか。
「私とあなたは…本当はお互いを知って?」
「あぁ」
「…あの世界で私たちは恋人だった?」
「…そうだよ。けど、僕はあの世界にはいられなかった」
「だから、いなくなってしまったの?」
私から、あの世界から。
「この力は君を殺すものだった。あの世界で僕は力を制御できてなかったんだよ。だから、そういう力の存在がある世界に行くことを決めたんだ」
君を巻き込むつもりはなかったと、弱く言う彼。
違う。私の知る彼はこんなじゃない。
なんで?
「ちがう」
「……」
「違うのよ、私の知ってるあなたは…」
彼が苦しそうに顔を歪ませる。
「まだ全て思い出してないんだよ」
これ以上が?頭はいたいし、いろいろ追いつかないのに。
「ここにきた私は、ただの会社員で、あなたに会った記憶なんてない…」
「…全部君だよ」
「え?」
「この平行世界、すべてが君で全てが存在する世界」
「…何言って」
「………後にしよう」
変わらぬ困り顔で彼は扉をあけた。
「侍女を呼ぶ。着替えたらおりてきて。朝食にしよう」
私を見ずに扉は再び閉じられた。
程なく侍女がやってくる。
ここにくる前に僅かばかり過ごしていたあの家でこの世界のいい家の生活は知っていたので抵抗はなかったが、着替えは自分でもできるなとふと思う。
淑女の衣装と言うべきか、さいわいコルセットをしめられるとか、大きく広がるスカートとか、そういうのはなく、わりかしシックで動きやすいものだったので助かった。
侍女と話をする気力はなかった。
思い出してないことがたくさんある。
彼は全て知ってるの?
にしてもなんであんな意味深に言うのか。
「早かったね」
一つ降りて、広すぎる食堂へ案内された。
私と彼だけが食事をとるらしい。
椅子に座り、食事が運ばれると彼は執事に何かを伝え、すぐに部屋の中の執事や侍女が部屋を出た。
「話したいだろう?」
「…えぇ」
食事をしながら会話って、この世界のいいとこの身分だとマナー違反になるのかしら?
でもそんなこと関係ない。気がねなく話せるよう彼ははかってくれたんだから。
「いじった記憶、戻してもらえないの?」
「できない」
「なぜ?」
「思い出しかけてる状態に無理に戻そうとすると君の脳が壊れる可能性がある」
よくあるSFものだと、力同士が反発しあって大事故とかいう話があったが、そういうことだろうか。
少し押せばやってくれるんじゃという希望を抱かせないくらい彼ははっきり言うものだから、私は一人納得する形で諦める。思い出せそうな気もしてるからかもしれない。
「ここにあなたの家族は?」
「僕一人だよ」
「執事さんたちにはなんて…」
「記憶操作してる。公爵家の若い当主。幼少期に親をなくし親族もなく後ろ盾無しにここまでのし上がった、といった認識になってる」
「随分他人事ね…」
「僕は僕の存在がこの世界にあることに違和感を抱かないという操作をしてるんだ。他の記憶は公的な書類等の書き換えをしてるからそこから知ることもできるけど、八割型は人伝えだよ」
人の噂ってこと?
「あなた、自分の力の制御できてるの?」
「……この世界にも僕がいたから教えてもらった」
「じゃぁ、あなたが2人いるってこと?」
「この世界の僕は300年ぐらい前に亡くなってるよ。もちろん君も」
「私も?」
「同じ世界に同じ人間はいられない。それは君でも僕でも同じことだよ」
ドッペルゲンガー見ると死ぬとかそんなオカルト話があったな。あれはどちらかというとホラーだったかしら。
あれ、そしたら、彼の言うこの世界の自分に教わったって…。
「過去現在未来、すべての世界の自分とはつながってるんだよ。だからいろんなことを教えてもらえるし導いてももらえる」
私の言いたいことを察したのか彼は答えてくれた。にしたって難しい話だ。それは彼の力がある故に出来うることなんじゃないだろうか。
「前の世界でうまくいく方法教えてもらえなかったの?」
過去現在未来、すべて世界の私と会話なんてよかわからないけどいいこと教えてもらえるなら、制御方法教えてもらってればよかったんじゃない。
彼は困った顔をする。その顔は好きじゃない。
「あの世界の僕は何も見えなかったし聞こえなかった」
格好悪いことにね、と付け加える。
ベッドから飛び起きる。
頭が痛い。代わりにと言ってはのごとく、熱に浮される感覚や体の痛みはなかった。そしてはたと思う。
天蓋着きのキングサイズのベッド……戻ってきた?いや、どれが本来の私の世界?
夢で見たのは間違いなく、実在する世界だ。けど、ここにくる前の世界ではない?
3つめの世界。
彼との接点が出てきた。
3つめの世界で私は彼との接触している。しかも一方的に彼が私を知っている。
この世界以外は私は日本にいた。私自身は日本人だ。
今の私は?
鏡を見る。
金色の髪に群青色の瞳。
もう2つの世界の私はうり二つだが、こちらの世界では顔立ちがちがう。欧米よりの綺麗な顔立ちになっている。
彼は顔立ちもこちらの世界では若干違う。日本という世界にいたとき、元より彼は外国人だったからそこまで違和感はないけれど。
「目、覚めた?」
扉が開き、件の彼が入ってくる。
間違いなく彼だ。心地のいい低い声。
困ったような笑顔。
私の顔を見て何かを察したらしい彼は、そのままドアを背にして言った。
「思い出した?」
「!」
その言葉で確信した。
「あなた、私の記憶をいじったの?」
「あの世界の時だけだよ」
彼は私が見た世界をわかっているようだった。
それとも記憶をいじったのは、あの誘拐された世界の私だけなのか。
「私とあなたは…本当はお互いを知って?」
「あぁ」
「…あの世界で私たちは恋人だった?」
「…そうだよ。けど、僕はあの世界にはいられなかった」
「だから、いなくなってしまったの?」
私から、あの世界から。
「この力は君を殺すものだった。あの世界で僕は力を制御できてなかったんだよ。だから、そういう力の存在がある世界に行くことを決めたんだ」
君を巻き込むつもりはなかったと、弱く言う彼。
違う。私の知る彼はこんなじゃない。
なんで?
「ちがう」
「……」
「違うのよ、私の知ってるあなたは…」
彼が苦しそうに顔を歪ませる。
「まだ全て思い出してないんだよ」
これ以上が?頭はいたいし、いろいろ追いつかないのに。
「ここにきた私は、ただの会社員で、あなたに会った記憶なんてない…」
「…全部君だよ」
「え?」
「この平行世界、すべてが君で全てが存在する世界」
「…何言って」
「………後にしよう」
変わらぬ困り顔で彼は扉をあけた。
「侍女を呼ぶ。着替えたらおりてきて。朝食にしよう」
私を見ずに扉は再び閉じられた。
程なく侍女がやってくる。
ここにくる前に僅かばかり過ごしていたあの家でこの世界のいい家の生活は知っていたので抵抗はなかったが、着替えは自分でもできるなとふと思う。
淑女の衣装と言うべきか、さいわいコルセットをしめられるとか、大きく広がるスカートとか、そういうのはなく、わりかしシックで動きやすいものだったので助かった。
侍女と話をする気力はなかった。
思い出してないことがたくさんある。
彼は全て知ってるの?
にしてもなんであんな意味深に言うのか。
「早かったね」
一つ降りて、広すぎる食堂へ案内された。
私と彼だけが食事をとるらしい。
椅子に座り、食事が運ばれると彼は執事に何かを伝え、すぐに部屋の中の執事や侍女が部屋を出た。
「話したいだろう?」
「…えぇ」
食事をしながら会話って、この世界のいいとこの身分だとマナー違反になるのかしら?
でもそんなこと関係ない。気がねなく話せるよう彼ははかってくれたんだから。
「いじった記憶、戻してもらえないの?」
「できない」
「なぜ?」
「思い出しかけてる状態に無理に戻そうとすると君の脳が壊れる可能性がある」
よくあるSFものだと、力同士が反発しあって大事故とかいう話があったが、そういうことだろうか。
少し押せばやってくれるんじゃという希望を抱かせないくらい彼ははっきり言うものだから、私は一人納得する形で諦める。思い出せそうな気もしてるからかもしれない。
「ここにあなたの家族は?」
「僕一人だよ」
「執事さんたちにはなんて…」
「記憶操作してる。公爵家の若い当主。幼少期に親をなくし親族もなく後ろ盾無しにここまでのし上がった、といった認識になってる」
「随分他人事ね…」
「僕は僕の存在がこの世界にあることに違和感を抱かないという操作をしてるんだ。他の記憶は公的な書類等の書き換えをしてるからそこから知ることもできるけど、八割型は人伝えだよ」
人の噂ってこと?
「あなた、自分の力の制御できてるの?」
「……この世界にも僕がいたから教えてもらった」
「じゃぁ、あなたが2人いるってこと?」
「この世界の僕は300年ぐらい前に亡くなってるよ。もちろん君も」
「私も?」
「同じ世界に同じ人間はいられない。それは君でも僕でも同じことだよ」
ドッペルゲンガー見ると死ぬとかそんなオカルト話があったな。あれはどちらかというとホラーだったかしら。
あれ、そしたら、彼の言うこの世界の自分に教わったって…。
「過去現在未来、すべての世界の自分とはつながってるんだよ。だからいろんなことを教えてもらえるし導いてももらえる」
私の言いたいことを察したのか彼は答えてくれた。にしたって難しい話だ。それは彼の力がある故に出来うることなんじゃないだろうか。
「前の世界でうまくいく方法教えてもらえなかったの?」
過去現在未来、すべて世界の私と会話なんてよかわからないけどいいこと教えてもらえるなら、制御方法教えてもらってればよかったんじゃない。
彼は困った顔をする。その顔は好きじゃない。
「あの世界の僕は何も見えなかったし聞こえなかった」
格好悪いことにね、と付け加える。
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