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46話 私、貴方が羨ましかった

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「ぐうっ」

 美しいバイヤージュブロンドのハイライトが目に映る。
 大きな背中が目の前に立った。

「……オレン?」

 オレンがあっという間に結婚詐欺男を地面に叩きつけて拘束していた。すぐに見回りの騎士が駆け付け男を捕縛する。

「ミナ、怪我は?」
「ないです」
「まあヴィエレラシ侯爵令息、私の心配はないのですか?」
「これは失礼、コルホネン公爵令嬢」

 え? どういうこと?
 二人の話のニュアンスというか空気が違う。
 戸惑う私にオレンが説明してくれた。

「ミナ、君が何かに巻き込まれているのはすぐに分かった。たまたまサロンを出るところだったコルホネン公爵令嬢が協力しおびき出してくれて最終的に私が捕まえたんだよ」
「あへえ」

 咄嗟にそんなこと計画できるなんてすごい二人だ。
 オレンは仕事柄こうした場面はあるかもしれない。けどコルホネン公爵令嬢は違う。
 あんなに堂々とおとり役ができるなんて格好良い。

「コルホネン公爵令嬢、すごいですね」

 言うと意外だったのか目をぱちぱちさせた。

「それは貴方でしょう?」
「え?」
「ヘイアストイン男爵令嬢が話しかけなければ、あの男を詐欺で捕らえることは出来ませんでした」
「その通りだ、ミナ」
「融資や開業の知識も貴方が普段事務員として真面目に働いているから指摘できたこと。なにより声をかける勇気があるのは胸を張れるところでしょう」

 今度は私が驚く番だった。
 つい声を出してしまったことが勇気のあることだなんて思わない。融資の話だってたまたま耳にしていただけだ。
 でもそれが全部、ライネ公爵令嬢を助けることに繋がっている。

「……私、役に立てたんですね」
「私が認めた女性なのだから当然です」
「え、コルホネン公爵令嬢、今」
「んんっ」

 少し頬を赤くしてそっぽ向いた。なにこれ可愛い。照れてるのね。

「……まあ、そうね。あの詐欺師は騎士団が連れていくの当然として、ライネ公爵令嬢は私が預かりましょう」
「よろしいのですか」

 オレンが騎士団で一時保護してもいいとコルホネン公爵令嬢に話しかける。当のライネ公爵令嬢は腰を抜かして座り込み放心状態だった。余程ショックだったのだろう。

「ええ。今は女性が側にいる方がいいでしょうし、私の家には医師もおります。ある程度の治療の後はライネ公爵家へきちんと送りますわ」
「ではお言葉に甘えます」
「公爵家筆頭として当然のことをするまでです」
「ありがとうございます」

 侍女を呼び出し、ライネ公爵令嬢を支えながら起こし声をかける。俯き気味の顔が少し上がりその虚ろな瞳が私を捉えた。

「……ヘイアストイン男爵令嬢」
「ライネ公爵令嬢」

 大丈夫ですかなんて聞けるような状態じゃない。かといって、あの人捕まってよかったですねとも言えない。彼女にとっては本気の恋だったろうから。

「私、貴方が羨ましかった」
「え?」
「身分が違っても堂々と立てる貴方が」

 八つ当たりしてごめんなさいと言ってライネ公爵令嬢の馬車に乗り込んで去っていく。
 するりと隣に立ったオレンが静かに囁いた。

「詐欺とはいえ、好きになった男と身分差で結婚に悩んでいたんだ。周囲に、私とミナのようにうまくいっている男女がいて羨ましかったんだろう」
「あ、そういうことだったんですね」
「おそらくだが」

 爵位が高い人も気にするんだ。
 だから結婚詐欺師の庶子から正式な子として認められればという言葉に乗せられたのだろう。
 身分差がなくなれば何も障害なく結婚できると信じて。
 祝賀会での絡みと繋がった。あれは彼女の叫びだったのかもしれない。爵位差の障害があって光が当たらないライネ公爵令嬢にとって、爵位差があるのに公の場で並んで立てる私とオレンは羨望の対象で許せなかった。

「元気になってくれるといいんですけど」
「大丈夫、コルホネン公爵令嬢がついている」

 そして次に「ミナお手柄だった」と褒められる。

「私?」
「最近王都で結婚詐欺の被害が頻発していた。その詐欺師を捕まえられたのは大きい」

 資料を読んだ程度しか把握していない。
 というか、結婚詐欺で言うなら何人もの令嬢とデートしてるヴィルタネン騎士の方がそれらしいぐらいだった。
 ま、結果はどうあれ解決してよかったのよね。
 オレンとコルホネン公爵令嬢から褒められたのもあってなんだか自信がついたかもしれない。

「それでミナ、まだ有効だろうか」
「なにがです?」
「画材を買いに行くことだ」

 今度は私が目を瞬かせる番だった。

「当然です!」
「そうか……ライネ公爵令嬢のこともあるから遠慮するのかと」
「心配ですけど、コルホネン公爵令嬢がついています。大丈夫かなと思います」

 それに私、結構神経図太いみたいですと加えた。画材屋に行きたいと自分の気持ちを素直に届ける。
 オレンは私の言葉にふっと微笑んだ。

「気を遣わせた」
「そんな」

 敢えて明るく振舞って、いつもの日常に戻ろうとしたのは事実だ。
 私に嘘は向かない。
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