上 下
45 / 56

45話 王都で流行りの結婚詐欺

しおりを挟む
 もっともらしい理由をつけて熱弁する麗しい貴族の言いたいことはつまり、彼女の持つパライバトルマリンも欲しいということだけだ。
 さすがにここまできたら私でも分かる。王都で流行っていると聞いていた令嬢を狙う詐欺だ。

「そうなの……」
「ああ、すまない。君には格好悪いところばかり見せて」
「そんなことありませんわ!」

 するりとネックレスを外す。いやいやいやまって?

「……私にとっても思い入れのあるものですが、貴方との未来のためなら!」
「ありがとうオリヴィア! 今すぐ」
「待ったあああ!」

 私の声に二人が揃ってこちらを見た。
 すぐに私に気づいたライネ公爵令嬢が目を瞬かせながら「なんで貴方がここに」と囁く。

「ライネ公爵令嬢、これは詐欺です!」
「え?」
「……」

 驚き戸惑うライネ公爵令嬢とは対照的に麗しい男性貴族の方は笑顔でだんまりだ。ネックレスはまだ彼女の首にかかっているから、男は寄り添う彼女から離れようとしない。

「令嬢を狙った詐欺が王都で横行しています」

 結婚をちらつかせた末に金銭を搾取する詐欺だ。
 ティアッカさんのまとめた資料には、高爵位もしくは資産を多く持つ中流階級の未婚女性をターゲットにしていると明記されていた。
 令嬢に近づく手段は様々だけど、恋愛結婚を目指すも障害があり結婚するために資金援助をターゲット女性にお願いするという流れがセオリーだ。

「ライネ公爵令嬢、聞いてください」

 融資の在り方から事業登録まですべて話した。通常詐欺師である男性が言う方法は使わない。余程この男性に瑕疵があり融資を受けられないなら話は別だけど、我が国にそこまでの事例はなかったはずだ。
 となると、男の話は全部嘘というのがしっくりくる。
 私の話にライネ公爵令嬢は驚きの表情を見せ震えていた。隣の男性は目つき鋭く私を睨む。

「そ、そんな」
「オリヴィア、騙されてはいけない。彼女は嘘をついている」
「嘘はそちらでしょう」
「ああオリヴィア、聞いてくれ。僕はそこの彼女に一方的に好かれ付き纏われているんだ。僕が君と婚姻しようとするのを妬んで嘘を並べている」
「はああ?」

 僕の本命は君だけだ。だから僕を信じて。
 そんな言葉にときめくライネ公爵令嬢もどうなの?
 目をきらきらさせて完全に恋する女性だ。隣の詐欺師はとびきり甘い微笑みを向ける。
 と、そこに聞き覚えのある声が響いた。

「あら、ヘイアストイン男爵令嬢。こちらにいらしたの」
「え、コルホネン公爵令嬢?」
「どこに向かって話をしているかと思ったら路地裏に何かありまして? ……ライネ公爵令嬢?」
「コルホネン公爵令嬢!」
「何故そのような暗い場所にいらっしゃるの? こちらに」

 自分より身分の上の令嬢が現れ促されてしまったライネ公爵令嬢は、私たちのいる明るい通りに出てくる。
 コルホネン公爵令嬢が私に視線を寄越すので「結婚詐欺です」と強く訴えた。

「詐欺、ねえ」
「コルホネン公爵令嬢、こちらの方はケットゥ侯爵家の令息なのです。庶子なのでお名前はご存知ないと思いますが、今実の父であるケットゥ侯爵に認めてもらう為に尽力なさっていて」
「ケットゥ侯爵?」

 コルホネン公爵令嬢の表情が険しいものに変わった。

「私は先程、このサロンでケットゥ侯爵閣下にお会いしましたが、庶子の話はありませんでしたわ」
「当然でしょう。内密なものなのです」

 と、結婚詐欺男が嘯く。
 隣のコルホネン公爵令嬢の機嫌が急降下した。

「……貴方、口を慎みなさい」
「え?」

 ふうと溜息を吐くコルホネン公爵令嬢は美しい。

「ケットゥ侯爵家は庶子を認めない家です」
「ぼ、僕は特別で」
「いいえ、例外はないのです。あの家は庶子と名乗る者に対し平等に命を奪います」

 ちょ、その家、物騒すぎやしない?
 話を聞くに、今までそう言って名乗り出る嘘つきが多く、また奥様一筋の現当主からしたら怒りしかわいてこないとかどうとか。

「貴方が庶子と名乗り出た時点で血が繋がっていようとなかろうと命を奪われているはずです。たとえそれで血が途絶え侯爵家が途絶えようとも、この部分に関しては厳しくご自身を律し遂行されている」

 爵位の高い家わかんない。全然わかんないし物騒! 怖いよ!

「それで? あなたがまだケットゥ侯爵家の庶子だと主張するなら当主をこちらに呼び立てますが?」

 それはもう死亡フラグだよ。死が目の前に迫ってくる。
 怖いもの見たさはあるけど、目の前で人が死ぬのは見たくないかな。

「チッ」

 そこで初めて結婚詐欺男の正体が現れた。
 麗しい顔はひどく歪んでライネ公爵令嬢を突き飛ばす。
 そのままこちらに手を伸ばしてくる、ところで視界が覆われた。

「グッ」

 美しいバイヤージュブロンドのハイライトが目に映る。
 大きな背中が目の前に立った。

「……オレン?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

身体強化魔法で拳交える外交令嬢の拗らせ恋愛 ~隣国の悪役令嬢を妻にと連れてきた王子に本来の婚約者がいないとでも?~

恋愛
公爵令嬢ディーナは王太子の婚約者であり外交を任されていた。ある日、王太子は隣国の悪役令嬢シャーリーを連れ帰り、彼女と婚約しディーナとは婚約破棄をすると言う。以前からこうなる予定であったので快くディーナは婚約破棄し、仕事の引継ぎを開始した。そこに王太子の婚約者になってから六年間護衛を務めていたヴォルムがディーナに婚姻の申し出をしてくる。ディーナは外交官を辞めた後、領地を得て一人領地経営をしながらスローライフを送るつもりだった。結婚なんて考えてもなかった。護衛を続けつつもぐいぐいくるヴォルムに困る中、王太子の相手であるシャーリーの義妹と元婚約者が乗り込んでくる。加えてディーナを悩ませていた海賊と原因不明の体調不良の問題も絡み始め、彼女は全てを解決するために最後の外交へと乗り出した。その中で自身が気づかない内に敬遠してきた恋愛に向き合い、"好き"を自覚していくことになる。 身体強化で殴り合う外交を主としたディーナが変わらないスタイルで問題を切り抜けつつ、避け続けていた恋愛を克服していく話。 恋愛が苦手な女性シリーズで四作品程同じ世界線で書く予定の1作品目です(続きものではなく、単品で読めます)。 ヒロインによる一人称視点。余談ですが時間軸が「訳あり女装夫は契約結婚した副業男装妻の推し」と同じです。全52話、一話あたり概ね1500~2000字程度で公開。 ※小説家になろう、ノベルアップ+にも投稿しています。※R15は保険です。

記憶喪失になったら、義兄に溺愛されました。

せいめ
恋愛
 婚約者の不貞現場を見た私は、ショックを受けて前世の記憶を思い出す。  そうだ!私は日本のアラサー社畜だった。  前世の記憶が戻って思うのは、こんな婚約者要らないよね!浮気症は治らないだろうし、家族ともそこまで仲良くないから、こんな家にいる必要もないよね。  そうだ!家を出よう。  しかし、二階から逃げようとした私は失敗し、バルコニーから落ちてしまう。  目覚めた私は、今世の記憶がない!あれ?何を悩んでいたんだっけ?何かしようとしていた?  豪華な部屋に沢山のメイド達。そして、カッコいいお兄様。    金持ちの家に生まれて、美少女だなんてラッキー!ふふっ!今世では楽しい人生を送るぞー!  しかし。…婚約者がいたの?しかも、全く愛されてなくて、相手にもされてなかったの?  えっ?私が記憶喪失になった理由?お兄様教えてー!  ご都合主義です。内容も緩いです。  誤字脱字お許しください。  義兄の話が多いです。  閑話も多いです。

異世界で狼に捕まりました。〜シングルマザーになったけど、子供たちが可愛いので幸せです〜

雪成
恋愛
そういえば、昔から男運が悪かった。 モラハラ彼氏から精神的に痛めつけられて、ちょっとだけ現実逃避したかっただけなんだ。現実逃避……のはずなのに、気付けばそこは獣人ありのファンタジーな異世界。 よくわからないけどモラハラ男からの解放万歳!むしろ戻るもんかと新たな世界で生き直すことを決めた私は、美形の狼獣人と恋に落ちた。 ーーなのに、信じていた相手の男が消えた‼︎ 身元も仕事も全部嘘⁉︎ しかもちょっと待って、私、彼の子を妊娠したかもしれない……。 まさか異世界転移した先で、また男で痛い目を見るとは思わなかった。 ※不快に思う描写があるかもしれませんので、閲覧は自己責任でお願いします。 ※『小説家になろう』にも掲載しています。

急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。

石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。 雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。 一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。 ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。 その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。 愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。

「完結」公爵令嬢は奴隷になりました。でも騎士様に溺愛されているので大丈夫です!

りんりん
恋愛
私、ビアンカアレクセイ公爵令嬢とハイリア王太子は結婚を間近に控えていた。  なのに、ここのところ2人の仲に微妙なすきま風ふいている。 「きっとお二人とも、マリッジブルーなんですよ」  悩んでいる私に侍女のイエラはそう言った。 そして、イエラが私たちの為に独身最後の特別なデートを用意してくれることになる。  デート当日。  イエラに連れられてあるお店へ向かった。  店でハイリア王太子と落ち合ったものの、すぐに私は怪しげな獣人たちにさらわれる。  助けをもとめる私に王太子はこう言った。「ごめん。ビビ。   イエラは僕の最愛なんだ。  最愛の言うことには、従わなくちゃいけないでしょ」 と。  いつのにかハイリアとイエラはできていて、このデートは私を追い払う為に、イエラが仕組んだものだったのだ。  私はエラという女の元へさしだされた。  うさぎ獣人のエラは娼館を経営している。  私が娼婦になるのをこばむと、エラは私を奴隷商人に売り飛ばしたのだ。  奴隷市場で私は、王宮のビルダー騎士団長にセリおとされる。  ビルダーは笑わない男で知られていた。  市場では、私は男として売られていたのだ。 こうして私の奴隷としての生活が、ビルダーの邸で始まる。  そこでビルダーの以外な過去を知り、私は本当の愛に出会う事になる。

お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。

ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの? ……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。 彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ? 婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。 お幸せに、婚約者様。 私も私で、幸せになりますので。

愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す

おのまとぺ
恋愛
「君を愛することはない!」 鳴り響く鐘の音の中で、三年の婚約期間の末に結ばれるはずだったマルクス様は高らかに宣言しました。隣には彼の義理の妹シシーがピッタリとくっついています。私は笑顔で「承知いたしました」と答え、ガラスの靴を脱ぎ捨てて、一目散に式場の扉へと走り出しました。 え?悲しくないのかですって? そんなこと思うわけないじゃないですか。だって、私はこの三年間、一度たりとも彼を愛したことなどなかったのですから。私が本当に愛していたのはーーー ◇よくある婚約破棄 ◇元サヤはないです ◇タグは増えたりします ◇薬物などの危険物が少し登場します

処理中です...