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1話 出稼ぎ貧乏令嬢は筋肉がお好き
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「おはようございます!」
私の朝は早い。仕事柄仕方のないことだけど、今ではすっかり慣れてしまった。
「ミナちゃん、おはよう」
「おはよう、ミナちゃん」
「ヨハンナさん、アンナさん、おはようございます!」
キルカス王国、王城ヴィルタ。
私はここで騎士団のお世話係としての雑務と、騎士団の事務仕事の二つを掛け持ちしている。それもこれも実家に仕送りするためだ。
「洗濯始めちゃいますね」
「ありがとう」
朝はヨハンナさん、アンナさんと三人で洗濯や朝食の準備をする。騎士たちは基本騎士団寮にいて生活を王城敷地内で過ごすのが大半で、一部の高爵位の騎士は王都のタウンハウスから通うのがセオリーだ。
昨日仕込みをしていたかいがあって朝食は大丈夫そう。なので溜まり始めた洗濯に手を掛ける。
「おはよう、ヘイアストインさん」
「おはようございます!」
「おはよ~さん」
「はい、おはようございます!」
騎士たちが次々と食堂に入ってきた。朝一は自主訓練なので早い人と遅い人で分かれる。ここで軽食をとり本格的な鍛練、その後軽食をとってからそれぞれの配置につくみたい。
「ミナちゃん、交代するよ」
「ありがとうございます!」
途中アンナさんも加わり洗濯を大急ぎで終わらせる。騎士たちが軽食をとる頃に私はヨハンナさんと交代して、次の出勤地へ。
「ミナ!」
「スィーリ」
王城内で働く侍女の一人で、私に優しくしてくれる人の一人、同い年の女の子スィーリだ。
「聞いて! 前に話してた流行りの香料!」
「ああ、紅茶にいれるやつね」
ここ二週間の話、隣国で流行っている飲料用の花の香料が我が国にも入ってきた。そしてお洒落が好きな令嬢の間で流行り、我々低爵位・平民の間にも浸透してきたらしい。
「二本手に入ったから一本あげる」
「え、いいの?」
「うん。ミナにはいつも助けてもらってるし」
騎士たちの仕事のために侍女の仕事の手伝いをしてたからか仲がよくなった。おかげでこうしてたまに融通してくれる。
「ありがとう。今日早速皆で飲むわ」
城の中は色々あるけど、こうして優しくしてくれる人に恵まれて仕事ができている。ありがたい。
「さて、仕事仕事」
* * *
「おはようございます」
同じ敷地内、さっきの場所近くの城内執務室で事務仕事開始だ。
「ヘイアストイン女史、来たばかりですまない。昨日の書類だが」
「はい」
騎士団長付きの秘書みたいな仕事をしている。
他にベテラン男女、最近入りたての新人男性、寡黙で仕事がすごくできる女性、名ばかりで一度も出勤したことがない令嬢、私で構成された職場だ。
「南端ラヤラ領の違法建築の報告、着工日は分かるか?」
「領民の報告では丁度三ヶ月前です」
美しいハイライトが刷毛で塗った絵画のようなバレイヤージュ・ブロンドに優しいグレーの瞳を持つのがオレン・アイナ・ヴィエレラシ騎士団長、王家に連なる侯爵家の令息だ。
私のような平凡な茶色の髪に地味な薄紅藤色の瞳を持つ外見とは大違い。
「建築許可は出てないな?」
「はい。噂が入った時点で正式な書面をラヤラ領管轄のメネテッタバ辺境伯に送りましたが返事はありません」
我が国の騎士団は王都だけではなく、国全体を管轄にしていて遠い領地にも目を配らないといけない。
直近困らされているのは、南端ラヤラ領で国に許可なく建築を始めた問題についてだ。「視察に行かないとまずいな」と団長が囁いた。
街の治安維持、犯罪取り締まり、火事等の有事の際も騎士団が取り持っている。故に、書類仕事も総じて増えるわけだ。そんな中の遠征は時間がとりづらい。
「団長、ベンヤミンを連れて総文書課へ書類を提出しにいきます」
「ああ、二人とも頼みます」
「では私はヴィルマを連れて本日お越しのケットゥ侯爵を迎えにいきましょう」
「今回王都の水路建設に貢献してくださった方ですね」
「ええ、迎えの立ち会い程度なら私にもできますしねえ」
「……」
「ではお願いします」
一日数人で書類仕事なんてのもザラだけど、こうした立ち合いといった仕事も多い。
一気に人がいなくなり、私と団長だけになった。
「お茶にしますか?」
「……ああ、そうだな」
では皆の分も、と用意を始める。帰ってきたところに出せるよう考えてだ。
「ヘイアストイン女史はよく働いてくれるな」
「ありがとうございます」
もちろんお金のためで仕事掛け持ちでもあるけど、続けられるのは私にとってここが極楽だからだ。
騎士たちに囲まれた場所。
「良質の筋肉に囲まれた楽園」
「何か言ったか?」
「いいえ! なにも!」
声に出てた。危ない。
なにを隠そう私は無類の筋肉好きだ。
この国は腕っぷしで偉くなれるぐらい筋肉主義で国民も筋肉を信じている。もれなく私もその一人。
特に目の前の騎士団長の筋肉は最高で、全体的に満遍なく鍛え上げられている。これが眺められる職場だから頑張れるし、騎士の皆が日々鍛え筋肉が成長していく様を見られるのも至福。
仕事仲間にも恵まれていて最高だ。この環境に感謝。幸せ。
「団長、今日侍女仲間から流行りの香料をもらったんです」
「隣国ソッケで流行っているものか」
「ええ、うちにもきたみたいで」
「ふむ、頂こう」
先に二人で頂く。
「香りが強いですね。団長、大丈夫ですか?」
「ああ」
男性は香りが強すぎると苦手な人が多いけど大丈夫そうだ。
甘い匂いで女性には人気が出そう。
「ではいただきます」
一口飲んで強烈な違和感を感じた。
びりっとした痛みが舌を走る。すぐに口を離した。
同時目の前がぐらりと揺れて回る。気持ち悪さも同時にやってきた。
私の朝は早い。仕事柄仕方のないことだけど、今ではすっかり慣れてしまった。
「ミナちゃん、おはよう」
「おはよう、ミナちゃん」
「ヨハンナさん、アンナさん、おはようございます!」
キルカス王国、王城ヴィルタ。
私はここで騎士団のお世話係としての雑務と、騎士団の事務仕事の二つを掛け持ちしている。それもこれも実家に仕送りするためだ。
「洗濯始めちゃいますね」
「ありがとう」
朝はヨハンナさん、アンナさんと三人で洗濯や朝食の準備をする。騎士たちは基本騎士団寮にいて生活を王城敷地内で過ごすのが大半で、一部の高爵位の騎士は王都のタウンハウスから通うのがセオリーだ。
昨日仕込みをしていたかいがあって朝食は大丈夫そう。なので溜まり始めた洗濯に手を掛ける。
「おはよう、ヘイアストインさん」
「おはようございます!」
「おはよ~さん」
「はい、おはようございます!」
騎士たちが次々と食堂に入ってきた。朝一は自主訓練なので早い人と遅い人で分かれる。ここで軽食をとり本格的な鍛練、その後軽食をとってからそれぞれの配置につくみたい。
「ミナちゃん、交代するよ」
「ありがとうございます!」
途中アンナさんも加わり洗濯を大急ぎで終わらせる。騎士たちが軽食をとる頃に私はヨハンナさんと交代して、次の出勤地へ。
「ミナ!」
「スィーリ」
王城内で働く侍女の一人で、私に優しくしてくれる人の一人、同い年の女の子スィーリだ。
「聞いて! 前に話してた流行りの香料!」
「ああ、紅茶にいれるやつね」
ここ二週間の話、隣国で流行っている飲料用の花の香料が我が国にも入ってきた。そしてお洒落が好きな令嬢の間で流行り、我々低爵位・平民の間にも浸透してきたらしい。
「二本手に入ったから一本あげる」
「え、いいの?」
「うん。ミナにはいつも助けてもらってるし」
騎士たちの仕事のために侍女の仕事の手伝いをしてたからか仲がよくなった。おかげでこうしてたまに融通してくれる。
「ありがとう。今日早速皆で飲むわ」
城の中は色々あるけど、こうして優しくしてくれる人に恵まれて仕事ができている。ありがたい。
「さて、仕事仕事」
* * *
「おはようございます」
同じ敷地内、さっきの場所近くの城内執務室で事務仕事開始だ。
「ヘイアストイン女史、来たばかりですまない。昨日の書類だが」
「はい」
騎士団長付きの秘書みたいな仕事をしている。
他にベテラン男女、最近入りたての新人男性、寡黙で仕事がすごくできる女性、名ばかりで一度も出勤したことがない令嬢、私で構成された職場だ。
「南端ラヤラ領の違法建築の報告、着工日は分かるか?」
「領民の報告では丁度三ヶ月前です」
美しいハイライトが刷毛で塗った絵画のようなバレイヤージュ・ブロンドに優しいグレーの瞳を持つのがオレン・アイナ・ヴィエレラシ騎士団長、王家に連なる侯爵家の令息だ。
私のような平凡な茶色の髪に地味な薄紅藤色の瞳を持つ外見とは大違い。
「建築許可は出てないな?」
「はい。噂が入った時点で正式な書面をラヤラ領管轄のメネテッタバ辺境伯に送りましたが返事はありません」
我が国の騎士団は王都だけではなく、国全体を管轄にしていて遠い領地にも目を配らないといけない。
直近困らされているのは、南端ラヤラ領で国に許可なく建築を始めた問題についてだ。「視察に行かないとまずいな」と団長が囁いた。
街の治安維持、犯罪取り締まり、火事等の有事の際も騎士団が取り持っている。故に、書類仕事も総じて増えるわけだ。そんな中の遠征は時間がとりづらい。
「団長、ベンヤミンを連れて総文書課へ書類を提出しにいきます」
「ああ、二人とも頼みます」
「では私はヴィルマを連れて本日お越しのケットゥ侯爵を迎えにいきましょう」
「今回王都の水路建設に貢献してくださった方ですね」
「ええ、迎えの立ち会い程度なら私にもできますしねえ」
「……」
「ではお願いします」
一日数人で書類仕事なんてのもザラだけど、こうした立ち合いといった仕事も多い。
一気に人がいなくなり、私と団長だけになった。
「お茶にしますか?」
「……ああ、そうだな」
では皆の分も、と用意を始める。帰ってきたところに出せるよう考えてだ。
「ヘイアストイン女史はよく働いてくれるな」
「ありがとうございます」
もちろんお金のためで仕事掛け持ちでもあるけど、続けられるのは私にとってここが極楽だからだ。
騎士たちに囲まれた場所。
「良質の筋肉に囲まれた楽園」
「何か言ったか?」
「いいえ! なにも!」
声に出てた。危ない。
なにを隠そう私は無類の筋肉好きだ。
この国は腕っぷしで偉くなれるぐらい筋肉主義で国民も筋肉を信じている。もれなく私もその一人。
特に目の前の騎士団長の筋肉は最高で、全体的に満遍なく鍛え上げられている。これが眺められる職場だから頑張れるし、騎士の皆が日々鍛え筋肉が成長していく様を見られるのも至福。
仕事仲間にも恵まれていて最高だ。この環境に感謝。幸せ。
「団長、今日侍女仲間から流行りの香料をもらったんです」
「隣国ソッケで流行っているものか」
「ええ、うちにもきたみたいで」
「ふむ、頂こう」
先に二人で頂く。
「香りが強いですね。団長、大丈夫ですか?」
「ああ」
男性は香りが強すぎると苦手な人が多いけど大丈夫そうだ。
甘い匂いで女性には人気が出そう。
「ではいただきます」
一口飲んで強烈な違和感を感じた。
びりっとした痛みが舌を走る。すぐに口を離した。
同時目の前がぐらりと揺れて回る。気持ち悪さも同時にやってきた。
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