上 下
61 / 79

41話前編 サインをし、王陛下が認めれば、継承が受理される(D)

しおりを挟む
「馬鹿なことを」

 兄がせせら笑う。

「言っただけで王位が手に入るわけではない」

 その通りだ。
 けど、この場で公爵を牽制するのに、少しぐらいは有効のはずだ。

「王陛下は継承権の返上を受諾していない」
「成程。では王位を継ぎ、辺境伯の貴族姓は返上するということですか」
「いや、辺境伯はそのままだ」
「え?」

 公爵含めて周囲が驚きにざわつく。唯一ラウラだけが静かに僕を見つめていた。

「王と辺境伯、両方やる」
「は?」
「殿下、何を」

 フィーとアンですら驚いている。
 それもそうだろう、今まで散々嫌がっていたのに、王位を継ぐと言い出して、辺境伯もやると言うのだから。

「辺境伯としてあの領地をおさめるのは僕の生涯やるべきことなんだよ」
「こなせるとお思いですか?」
「思うかどうかではなくて、やるんだよ」

 僕が描くラウラとの未来の為に、やれることを全部やる。
 その為に王位だって利用してやるさ。
 大伯父がやったように法制定だってしていい。なんだって。

「は! そんな適当に言葉を並べただけで王位が継げると思うな!」

 兄が叫ぶ。
 その通りではあるのだけど、正直、正式な手続きとかそういうことはどうでもよかった。
 今は兄を捕らえ自由にさせない事と、公爵を黙って退かせる。この二つをこなせればいいだけで、王位を継ぐという発言はそもそもはったりに近い。
 
「では言葉を本物にすれば良いということですね?」
「え?」
「例えば、正式な書類があれば問題ないと」
「え、ええ。書面を王が認めればいいですが」
「私、持っているんですよね」

 公爵の胸ポケットから書類が一枚出てくる。
 しれっとした口調でその紙を渡されるものだから、なんだと思えば確かに王位継承の申請に使う書面。紙質が王族しか使わない貴重なものだからすぐに分かる。偽造は難しい。

「何故、公爵がこれを」
「その書類にサインをし、王陛下が認めれば、貴方の継承が受理されると言う事です」
「……公爵?」

 ここにきて公爵の意図が分からず、不審に思って見れば、ひどくにこやかに笑う口元しか見えない。
 帽子を目深にかぶっていたから気づかなかった。
 声だって公爵のものだ。
 それに兄だって気づいていない。
 まさか。

「私自ら受諾するのではあれば、何も問題はあるまい?」
「ち、父上?」
「何故」
「立ち会いもおる」

 僕とラウラに銃を向けていた者達も深くかぶっていた帽子を取り払った。
 現宰相とエミリア姉さんだった。

「はあい」
「姉さん?」

 いや、待て。
 確かに姉さん達は囮作戦を知っている。当日の動くルートまでは伝えてないけど。

「まさか」
「そのまさかよ」
「え?」
「は?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。 あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。 そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。 翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。 しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。 ********** ●早瀬 果歩(はやせ かほ) 25歳、OL 元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。 ●逢見 翔(おうみ しょう) 28歳、パイロット 世界を飛び回るエリートパイロット。 ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。 翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……? ●航(わたる) 1歳半 果歩と翔の息子。飛行機が好き。 ※表記年齢は初登場です ********** webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です! 完結しました!

ヤンデレ系暗黒乙女ゲームのヒロインは今日も攻略なんかしない!

As-me.com
恋愛
孤児だった私が、ある日突然侯爵令嬢に?!これはまさかの逆転シンデレラストーリーかと思いきや……。 冷酷暗黒長男に、ドSな変態次男。さらには危ないヤンデレ三男の血の繋がらないイケメン3人と一緒に暮らすことに!そして、優しい執事にも秘密があって……。 えーっ?!しかもここって、乙女ゲームの世界じゃないか! 私は誰を攻略しても不幸になる暗黒ゲームのヒロインに転生してしまったのだ……! だから、この世界で生き延びる為にも絶対に誰も攻略しません! ※過激な表現がある時がありますので、苦手な方は御注意してください。

社長の奴隷

星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

王妃の手習い

桃井すもも
恋愛
オフィーリアは王太子の婚約者候補である。しかしそれは、国内貴族の勢力バランスを鑑みて、解消が前提の予定調和のものであった。 真の婚約者は既に内定している。 近い将来、オフィーリアは候補から外される。 ❇妄想の産物につき史実と100%異なります。 ❇知らない事は書けないをモットーに完結まで頑張ります。 ❇妄想スイマーと共に遠泳下さる方にお楽しみ頂けますと泳ぎ甲斐があります。

【完結】姉は全てを持っていくから、私は生贄を選びます

かずきりり
恋愛
もう、うんざりだ。 そこに私の意思なんてなくて。 発狂して叫ぶ姉に見向きもしないで、私は家を出る。 貴女に悪意がないのは十分理解しているが、受け取る私は不愉快で仕方なかった。 善意で施していると思っているから、いくら止めて欲しいと言っても聞き入れてもらえない。 聞き入れてもらえないなら、私の存在なんて無いも同然のようにしか思えなかった。 ————貴方たちに私の声は聞こえていますか? ------------------------------  ※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています

【完結】私は死んだ。だからわたしは笑うことにした。

彩華(あやはな)
恋愛
最後に見たのは恋人の手をとる婚約者の姿。私はそれを見ながら階段から落ちた。 目を覚ましたわたしは変わった。見舞いにも来ない両親にー。婚約者にもー。わたしは私の為に彼らをやり込める。わたしは・・・私の為に、笑う。

処理中です...