上 下
51 / 79

35話後編 二人の姉(L)

しおりを挟む
「そうそう、娘達が君と話がしたいと言ってきかないんだ。是非会ってくれ」
「え?!」
「はい」

 その言葉にダーレが過剰に反応するものだから、ちらりと様子を見ると、それはもう見事に顔に出ていた。
 先の王位継承権返上の不受理が余程嫌だったのかしら。
 王陛下は、エルドラード辺境伯の氏を継ぐ事も、領主である事も、王都へ戻らないのも享受されていたけれど、王位継承権の返上だけは跳ね返した。ダーレは受理されていたと思っていたらしいけど。

「ダーレ、落ち着いたら一度、私の元へ……そうだな、夜にでも」
「何故?」
「息子と晩酌したい」

 途端、ダーレが嫌そうに眉を寄せる。

「ダーレ、折角だから行って来たら?」
「えー……」
「まあそうだな、

 その言葉に黙りこんで目を合わせるだけ。
 暫くの無言の後、ダーレは渋々分かったと頷いた。

「では時間は後程指定しよう」
「手短に頼みますよ」

 すると王陛下の側付が陛下に耳打ちしに近づいた。
 どうやらしなければならないことができたよう。話の途中でと仰った上で、席を立たれることになった。

「長くなるだろうから、ここで一旦終わろう」
「はい」
「お前もあの子達に顔を見せてやりなさい。散々つれない返事をしていたというじゃないか」
「あの姉達をラウラに会わせるんですか? 気乗りしない……」

 そんな風に言うなんて……まさか礼節に一際厳しい方々とか?
 そもそもダーレとの結婚に反対されてて、破棄させようと画策されてるとか?

「ラウラ」
「なに?」
「君が今考えてる事、たぶん全然違う」
「え?」

 私何も口にしてないのに分かってしまったの。すごいわ、ダーレ。

「しょうがない……本当、一瞬見せてすぐ帰ろう」
「それはさすがに失礼では」

 王陛下と別れ、重い足取りの中、ダーレは目的の部屋に辿り着き、嫌そうに扉を叩く。
 そこまで会いたくないというの。

「リーベ!」

 迎賓室の一つだろう別室へ案内されると、そこに優雅に座る二人の女性がいた。
 私達が入ると、途端顔を綻ばせて、こちらに駆けよってくる。

「ラウラ。エミリア姉さんとクララ姉さんだよ」
「え?」
「姉さん達、こちらがラウラ」

 ダーレが一人ずつ紹介してくれる。
 上のお姉さんがエミリア・ベッラ・レシ・エティンション王女殿下。
 下のお姉さんがクララ・アウラ・イストワール・エティンション王女殿下。
 王位継承権第二位と第三位を目の前にしてるなんて、うっかりきちんとしたご挨拶を失念していて、すぐ正しい挨拶をと所作に入るとお姉さん達に止められた。

「そういうの大丈夫よ、気にしないで」
「でも、」
「てかもう姉妹じゃない? リーベと結婚したんでしょ?」
「は、はい」
「じゃ敬語もなしね!」

 この調子の良さを見てダーレの姉である事を確信できてしまった。さすがにその場で口には出来なかったけど。
 座ってと席に促されたので、そのまま座るとお姉さん達が前のめりになってきいてくる。

「よくこれと結婚してくれたわ」
「え」
「だって八年追いかけられたんでしょ? 気持ち悪くない?」
「え、と、それは、」
「リーベって、貴方の事だけはえっらい根性みせるのに、こっちはてんで駄目よ。家出もするし」

 家出はしていないとダーレが口を挟んだ。
 正式な方法と書面で辺境伯になったのだから、家出ではないらしい。

「王位継承権は残ってますう」
「返上してるじゃないか」
「残念! お父様が認めない限り、そのままよ」
「捨てたんだ」
「貴方がそう思ってて、大伯父様も認めても、最終的にお父様が受理しなければアウトよ、アウト」

 こうして継承権が形式的に残っている以上、ダーレのお兄さんも気にしてしまうかもしれない。
 意図して受理してなかったのだから尚更。

「辛気臭い話は後よ、後。私、ラウラちゃんとお話ししたいから、リーベは席外して」
「はあ?! なんでさ!」
「さっきからうっざい視線ばっかり寄越しててよく言えるわね」
「そんなことは」
「あーりーまーすー」

 ダーレから盛大な舌打ちが漏れた。
 だんだん機嫌が悪くなってる気がする。

「そうだ! ラウラちゃん、折角ザーゲに来たんだから、流行りの服でも買いに行きましょうよ」
「カタログもあるわ、姉さん」
「か、かたろぐ?」
「いいわね、ラウラちゃんに合うの選びましょ」
「姉さん達、ラウラをおもちゃにしないで」

 そんなわけないじゃない、とお姉さん達が声を揃えた。

「なによ。貴方、ラウラちゃんの服は自分が選ぶとかそういうやつ?」
「はあ? 違うし」
「いいえ、これは自分以外の男が選んだ服を着てほしくない、だわ」

 お姉さん達、女性では?
 あ、気にするとこ違うかしら。

「さすがエミリア姉さん! てかリーベ、それは引く」
「……」

 独占欲がどうこう言われ始めて、ダーレは口数を少なくした挙句、表情が強張っていく。

「ダーレ?」

 眉間に皺を寄せて心底納得行かない顔をしている。

「あら」
「あらら、リーベったら」

 二人のお姉さんが楽しそうに笑ってダーレを見ている。

「なに、リーベ可愛い顔して」
「リーベったらわかりやすーい」
「分かってるなら、早くラウラを解放して」
「ふふふ」
「うふふふ」

 目を合わせて笑い合うお姉さん方に対して、ダーレの機嫌はより悪くなっていく。
 私の事を気遣ってくれているのかしら。お姉さん達と私は初対面のようなものだから、急に根掘り葉掘りきいてくることや急な外出の誘いを考えてくれてるのかもしれない。

「ダーレ、私は大丈夫よ?」

 さらにお姉さん方が笑った。
 私、何か間違えたこと言ったの?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

決めたのはあなたでしょう?

みおな
恋愛
 ずっと好きだった人がいた。 だけど、その人は私の気持ちに応えてくれなかった。  どれだけ求めても手に入らないなら、とやっと全てを捨てる決心がつきました。  なのに、今さら好きなのは私だと? 捨てたのはあなたでしょう。

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

王子妃だった記憶はもう消えました。

cyaru
恋愛
記憶を失った第二王子妃シルヴェーヌ。シルヴェーヌに寄り添う騎士クロヴィス。 元々は王太子であるセレスタンの婚約者だったにも関わらず、嫁いだのは第二王子ディオンの元だった。 実家の公爵家にも疎まれ、夫となった第二王子ディオンには愛する人がいる。 記憶が戻っても自分に居場所はあるのだろうかと悩むシルヴェーヌだった。 記憶を取り戻そうと動き始めたシルヴェーヌを支えるものと、邪魔するものが居る。 記憶が戻った時、それは、それまでの日常が崩れる時だった。 ★1話目の文末に時間的流れの追記をしました(7月26日) ●ゆっくりめの更新です(ちょっと本業とダブルヘッダーなので) ●ルビ多め。鬱陶しく感じる方もいるかも知れませんがご了承ください。  敢えて常用漢字などの読み方を変えている部分もあります。 ●作中の通貨単位はケラ。1ケラ=1円くらいの感じです。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界の創作話です。時代設定、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】

迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。 ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。 自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。 「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」 「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」  ※表現には実際と違う場合があります。  そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。  私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。  ※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。  ※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

処理中です...