上 下
42 / 79

31話前編 領主としては及第点、王族としては落第点(D)

しおりを挟む
「ラウラ!」

 ぐらりと身体が傾く。
 落ちる。
 そう思って迷わずバルコニーから飛んだ。
 ラウラを抱きとめて、そのまま抱え込む。
 二階だから以前の落下と比べれば大したことはない。

「!」

 ラウラが羽を使って落ちる速度を緩めた。こんな時まで。

「ラウラ!」

 衝撃もなく地に降りれば、バルコニーからフィーとアンが声を上げている。
 メイドや執事が領民を素早く誘導している。銃声は響かない。あの二発だけ。

「う……」
「ラウラ! 怪我見せて」

 肩を撃たれていた。一発目しか当たっていなかったらしく、肩の怪我以外、身体も羽も撃たれた形跡はなかった。

「大、丈夫」
「そんなわけないだろ!」

 二度と遭わせないと自分の中で決めていたのに。
 自分に腹が立って歯噛みする。この体たらく。

「本当に」
「え?」

 妙にはっきり聞こえた声に顔を上げるけど、近くに声の主はいなかった。

「本当に体たらくにも程があるね」
「!」

 気づいて上を向けば、黒い影が見えた。
 見留めた途端、それは瞬時に降り立つと同時、腕の中のラウラはいなくなっていた。

「え?」
「やれやれだね」

 声の主に視線を上げれば、大きな翼。ラウラとは違う、重厚で節だった爬虫類の皮膜、鱗のような硬さすら見える羽。
 ドラゴンの翼。

「やらかしてくれたねえ」

 燃えるような赤みを伴った長い髪、背が高く手足が長い、驚く程美しい美貌を持ちつつも、不遜とも言える雰囲気を纏う目の前の人物。覚えがある女性ひと

「……リラ」
「おや、覚えていたかい」

 思い出した記憶にきちんと残っている。
 彼女は大伯父の想い人だ。
 外見が全く変わっていないから、すぐに分かった。

「大婆様」

 いつの間にか、リラの傍にいるラウラが彼女を見上げて囁いた。

「え? 大婆様? リラが?」

 それがどうしたと言わんばかりに見下ろされ、ラウラには何をそんなに驚いているのかと不思議そうに見つめられる。

「え、だって、あんなちんちくりんが、いきなり?! 頭身変わりすぎだよ!」

 二頭身が八頭身になるってなに?!

「……この状況でよくそんな台詞を言えたものだね」
「っ!」

 分かっている。ラウラを傷つけたのは間違いなく僕が判断を誤ったからだ。まさかあいつらがこんな早くに領地に着くなんて。

「判断を誤ったね」
「大婆様、ダーレは悪くないわ」
「ああそうだね、領主としては及第点だった」
「大婆様?」

 リラが何を言いたいかはわかっていた。領主を継ぎ、そこだけはきちんとやれたという自負がある。けど、その分逃げてきたものがあった。

「王族としては落第点だったね」
「…………王族?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

継母の心得

トール
恋愛
【本編第一部完結済、2023/10〜第二部スタート ☆書籍化 2024/11/22ノベル5巻、コミックス1巻同時刊行予定☆】 ※継母というテーマですが、ドロドロではありません。ほっこり可愛いを中心に展開されるお話ですので、ドロドロ重い、が苦手の方にもお読みいただけます。 山崎 美咲(35)は、癌治療で子供の作れない身体となった。生涯独身だと諦めていたが、やはり子供は欲しかったとじわじわ後悔が募っていく。 治療の甲斐なくこの世を去った美咲が目を覚ますと、なんと生前読んでいたマンガの世界に転生していた。 不遇な幼少期を過ごした主人公が、ライバルである皇太子とヒロインを巡り争い、最後は見事ヒロインを射止めるというテンプレもののマンガ。その不遇な幼少期で主人公を虐待する悪辣な継母がまさかの私!? 前世の記憶を取り戻したのは、主人公の父親との結婚式前日だった! 突然3才児の母親になった主人公が、良い継母になれるよう子育てに奮闘していたら、いつの間にか父子に溺愛されて……。 オタクの知識を使って、子育て頑張ります!! 子育てに関する道具が揃っていない世界で、玩具や食器、子供用品を作り出していく、オタクが行う異世界育児ファンタジー開幕です! 番外編は10/7〜別ページに移動いたしました。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

【完結】偽聖女め!死刑だ!と言われたので逃亡したら、国が滅んだ

富士とまと
恋愛
小さな浄化魔法で、快適な生活が送れていたのに何もしていないと思われていた。 皇太子から婚約破棄どころか死刑にしてやると言われて、逃亡生活を始めることに。 少しずつ、聖女を追放したことで訪れる不具合。 ま、そんなこと知らないけど。 モブ顔聖女(前世持ち)とイケメン木こり(正体不明)との二人旅が始まる。

【完結】あなたにすべて差し上げます

野村にれ
恋愛
コンクラート王国。王宮には国王と、二人の王女がいた。 王太子の第一王女・アウラージュと、第二王女・シュアリー。 しかし、アウラージュはシュアリーに王配になるはずだった婚約者を奪われることになった。 女王になるべくして育てられた第一王女は、今までの努力をあっさりと手放し、 すべてを清算して、いなくなってしまった。 残されたのは国王と、第二王女と婚約者。これからどうするのか。

うたた寝している間に運命が変わりました。

gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。

ご期待に沿えず、誠に申し訳ございません

野村にれ
恋愛
人としての限界に達していたヨルレアンは、 婚約者であるエルドール第二王子殿下に理不尽とも思える注意を受け、 話の流れから婚約を解消という話にまでなった。 ヨルレアンは自分の立場のために頑張っていたが、 絶対に婚約を解消しようと拳を上げる。

【完結】貴方達から離れたら思った以上に幸せです!

なか
恋愛
「君の妹を正妻にしたい。ナターリアは側室になり、僕を支えてくれ」  信じられない要求を口にした夫のヴィクターは、私の妹を抱きしめる。  私の両親も同様に、妹のために受け入れろと口を揃えた。 「お願いお姉様、私だってヴィクター様を愛したいの」 「ナターリア。姉として受け入れてあげなさい」 「そうよ、貴方はお姉ちゃんなのよ」  妹と両親が、好き勝手に私を責める。  昔からこうだった……妹を庇護する両親により、私の人生は全て妹のために捧げていた。  まるで、妹の召使のような半生だった。  ようやくヴィクターと結婚して、解放されたと思っていたのに。  彼を愛して、支え続けてきたのに…… 「ナターリア。これからは妹と一緒に幸せになろう」  夫である貴方が私を裏切っておきながら、そんな言葉を吐くのなら。  もう、いいです。 「それなら、私が出て行きます」  …… 「「「……え?」」」  予想をしていなかったのか、皆が固まっている。  でも、もう私の考えは変わらない。  撤回はしない、決意は固めた。  私はここから逃げ出して、自由を得てみせる。  だから皆さん、もう関わらないでくださいね。    ◇◇◇◇◇◇  設定はゆるめです。  読んでくださると嬉しいです。

処理中です...