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27話後編 夜着を買わされ、花嫁衣装を作る事になる(L)
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「あれ、てんし様」
「今日帰ったんじゃ?」
「あ、えと」
「あー、延期になったんだ」
「そうでしたか」
領地唯一の仕立屋さんの奥様が外に出て店をあけるところを出くわした。
そしてダーレの事情を信じてくれて助かったと思ったら、急に私の腕を取ってお店へと誘われる。
「え? ええと」
「いいよ、ラウラ。見ていこう」
「おっと領主様はちょっと待ってもらおうか」
「んん?」
ぐいぐい押されてそのまま店の外に追いやられるダーレ。外に出たご主人に何かお願いされてる。ああ、いつもの手伝いになってるわね。
「まあここは領主様に内密にした方が盛り上がるかなと」
「盛り上がる?」
「はい、これだよ」
「?!」
透け感のある薄い生地に腕も足も隠さないこの衣服はよく知っている。
「これ、は」
「夜のお供にどうぞ」
小さな悲鳴が上がる。いくら私だって知ってはいるけど、だからって自分が着るかとなったら話は別。
「む、無理、こんな透けて……」
「おや、領主様の趣味を考えると、これは当たりだと思うんだがね」
「趣味?!」
「まあこのへんの娘たちは使わないから領主様のとこしか売る場所がないしねえ」
それなら了承を得てから仕入れた方がいいんじゃないの?
なんで先走って。いやご厚意なのはわかるけど。
「これだと思ったんだけどねえ」
「こ、これは無理です!」
「そうかい、残念だねえ……ああ残念だ」
「う……」
あまりにも、がっかりするものだからいたたまれない。
私は思わず買うと言ってしまった。着るつもりもないのに。
「ありがとうございます! じゃ、あとで送っときますわあ」
「え、あ、はい……」
着ることはなく、コレクションになるだけなんだろうけど。
でもいくらのせられたからとはいえ、こういうものを買ってしまうなんて恥ずかしい。
「ははは、領主様にはベールをお願いされているし、御贔屓に頼むよ」
御贔屓はともかくとして、ベールという言葉が引っかかった。そのことをきくと、店主はそれはもう嬉しそうに話す。
「領地で行う結婚式の花嫁用のベールですよ。さすがにドレスは引き受けられなかったんだけどね」
この領地に古くから伝わる結婚式用の衣装はあるけれど、さすがに村娘が式で着るようなものだからといって断ったらしい。それでもダーレはこの地のものをつけたいと言って、ベールだけでもと要望を通したと。
「張り切ってやらせてもらうけど、王都の流行り衣装みたいのとは無縁だから、そこは許して下さいね」
おっと、もう奥様と呼ばなきゃだねとまた笑う。
この話を聞いて、私は俄然興味が沸いた。
「あの、この領地の結婚式用の衣装ってどんなものなんですか?」
「え? どうしたんだい」
以前着た領民がいたらしく、その時の絵が残っていると見せてもらう。
月並みな言葉しか出てこないけど、とても素敵。シンプルな作りの中に細かくあしらわれた刺繍とレース。奥様は遠慮していたけど、充分手の込んだ衣装だし、ダーレが希望した理由もわかった。
「あの、着てみたいです」
「はい?」
「ここの花嫁衣装を着たいです」
私の言葉を噛みしめて理解した途端、とても大きな声が出る。外にいるダーレに気付かれると思って、思わず口を両手で塞いで窓の向こうを確認してみたけど、ダーレに声は届いてないようだった。
「そんな、無理ですよ」
「なら正式な結婚式用じゃなくて、皆さんにお披露目する時に」
「そっちも正式でしょう」
なら何かないかと理由を懸命に探す。
「なら別で皆さんに私の羽をお披露目します。その時に着る服を、その衣装に」
「え? いや、でもねえ」
「私、自分で作ります」
「はいい?!」
「あ、でも作りについては教えて頂きたいんです。お忙しいのは分かっていますが、どうか」
「え、ええ?!」
そんな恐れ多いと言われる。けど、ドゥファーツでも手伝いと称して針仕事はしていた。服を作った経験もある。
「お願いします。お時間あいてる時にお願いできませんか?」
「それは」
「後、ダーレには内緒にしたいんです。作業場所も貸して頂けると」
私の勢いに言葉を詰まらせた店主は、ついにわかったと諦め気味に私の提案に乗ってくれた。
「ありがとうございます。費用もかかる分に加えて、お手伝い頂く分もお渡ししますので」
ドゥファーツで手伝いの折、お小遣いと称した金銭はもらったりしていた。全く手つかずだったから、服一着作る分ぐらいは余裕である。
「いや、お金はいらないよ」
「でも」
「結婚祝いだ。ベール分で既に通常の倍以上頂いているからね」
「いい、のですか?」
「人の厚意は喜んでもらっておきな。ただし、相当作るの頑張ってもらうからね?」
やっぱりこの領地の方々はダーレに似て皆優しい。
「はい、頑張ります!」
「ついでに店番とかもしてもらうかもしれないよ?」
「大丈夫です!」
「仕入れも」
「できます!」
「服の直しも」
「やります!」
「はあ、王女様人がいいね」
「?」
「いいさ、なら明日からだ。よろしく頼むよ」
「はい!」
結局なにも手に持つことなくお店を出ると薪を纏めたダーレが裏からやってきた。
そのままご挨拶して屋敷へ向かう。
「なんかラウラ楽しそう」
「え?!」
「何か買ったの?」
「い、いえ。なにも」
「そっか」
ひとまずあの送られてくる衣装はダーレにばれないように隠さないといけない。もうなんであんなものを用意するの。いえ、わかってはいるのだけど……それでも恥ずかしい。
そこさえなければ、素敵な服を作れるという楽しみだけ。ダーレには上手に言って時間を貰おう。
「今日帰ったんじゃ?」
「あ、えと」
「あー、延期になったんだ」
「そうでしたか」
領地唯一の仕立屋さんの奥様が外に出て店をあけるところを出くわした。
そしてダーレの事情を信じてくれて助かったと思ったら、急に私の腕を取ってお店へと誘われる。
「え? ええと」
「いいよ、ラウラ。見ていこう」
「おっと領主様はちょっと待ってもらおうか」
「んん?」
ぐいぐい押されてそのまま店の外に追いやられるダーレ。外に出たご主人に何かお願いされてる。ああ、いつもの手伝いになってるわね。
「まあここは領主様に内密にした方が盛り上がるかなと」
「盛り上がる?」
「はい、これだよ」
「?!」
透け感のある薄い生地に腕も足も隠さないこの衣服はよく知っている。
「これ、は」
「夜のお供にどうぞ」
小さな悲鳴が上がる。いくら私だって知ってはいるけど、だからって自分が着るかとなったら話は別。
「む、無理、こんな透けて……」
「おや、領主様の趣味を考えると、これは当たりだと思うんだがね」
「趣味?!」
「まあこのへんの娘たちは使わないから領主様のとこしか売る場所がないしねえ」
それなら了承を得てから仕入れた方がいいんじゃないの?
なんで先走って。いやご厚意なのはわかるけど。
「これだと思ったんだけどねえ」
「こ、これは無理です!」
「そうかい、残念だねえ……ああ残念だ」
「う……」
あまりにも、がっかりするものだからいたたまれない。
私は思わず買うと言ってしまった。着るつもりもないのに。
「ありがとうございます! じゃ、あとで送っときますわあ」
「え、あ、はい……」
着ることはなく、コレクションになるだけなんだろうけど。
でもいくらのせられたからとはいえ、こういうものを買ってしまうなんて恥ずかしい。
「ははは、領主様にはベールをお願いされているし、御贔屓に頼むよ」
御贔屓はともかくとして、ベールという言葉が引っかかった。そのことをきくと、店主はそれはもう嬉しそうに話す。
「領地で行う結婚式の花嫁用のベールですよ。さすがにドレスは引き受けられなかったんだけどね」
この領地に古くから伝わる結婚式用の衣装はあるけれど、さすがに村娘が式で着るようなものだからといって断ったらしい。それでもダーレはこの地のものをつけたいと言って、ベールだけでもと要望を通したと。
「張り切ってやらせてもらうけど、王都の流行り衣装みたいのとは無縁だから、そこは許して下さいね」
おっと、もう奥様と呼ばなきゃだねとまた笑う。
この話を聞いて、私は俄然興味が沸いた。
「あの、この領地の結婚式用の衣装ってどんなものなんですか?」
「え? どうしたんだい」
以前着た領民がいたらしく、その時の絵が残っていると見せてもらう。
月並みな言葉しか出てこないけど、とても素敵。シンプルな作りの中に細かくあしらわれた刺繍とレース。奥様は遠慮していたけど、充分手の込んだ衣装だし、ダーレが希望した理由もわかった。
「あの、着てみたいです」
「はい?」
「ここの花嫁衣装を着たいです」
私の言葉を噛みしめて理解した途端、とても大きな声が出る。外にいるダーレに気付かれると思って、思わず口を両手で塞いで窓の向こうを確認してみたけど、ダーレに声は届いてないようだった。
「そんな、無理ですよ」
「なら正式な結婚式用じゃなくて、皆さんにお披露目する時に」
「そっちも正式でしょう」
なら何かないかと理由を懸命に探す。
「なら別で皆さんに私の羽をお披露目します。その時に着る服を、その衣装に」
「え? いや、でもねえ」
「私、自分で作ります」
「はいい?!」
「あ、でも作りについては教えて頂きたいんです。お忙しいのは分かっていますが、どうか」
「え、ええ?!」
そんな恐れ多いと言われる。けど、ドゥファーツでも手伝いと称して針仕事はしていた。服を作った経験もある。
「お願いします。お時間あいてる時にお願いできませんか?」
「それは」
「後、ダーレには内緒にしたいんです。作業場所も貸して頂けると」
私の勢いに言葉を詰まらせた店主は、ついにわかったと諦め気味に私の提案に乗ってくれた。
「ありがとうございます。費用もかかる分に加えて、お手伝い頂く分もお渡ししますので」
ドゥファーツで手伝いの折、お小遣いと称した金銭はもらったりしていた。全く手つかずだったから、服一着作る分ぐらいは余裕である。
「いや、お金はいらないよ」
「でも」
「結婚祝いだ。ベール分で既に通常の倍以上頂いているからね」
「いい、のですか?」
「人の厚意は喜んでもらっておきな。ただし、相当作るの頑張ってもらうからね?」
やっぱりこの領地の方々はダーレに似て皆優しい。
「はい、頑張ります!」
「ついでに店番とかもしてもらうかもしれないよ?」
「大丈夫です!」
「仕入れも」
「できます!」
「服の直しも」
「やります!」
「はあ、王女様人がいいね」
「?」
「いいさ、なら明日からだ。よろしく頼むよ」
「はい!」
結局なにも手に持つことなくお店を出ると薪を纏めたダーレが裏からやってきた。
そのままご挨拶して屋敷へ向かう。
「なんかラウラ楽しそう」
「え?!」
「何か買ったの?」
「い、いえ。なにも」
「そっか」
ひとまずあの送られてくる衣装はダーレにばれないように隠さないといけない。もうなんであんなものを用意するの。いえ、わかってはいるのだけど……それでも恥ずかしい。
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