追放済み聖女の願う事

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35話 試練の朝

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「お早う御座います」
「おはよ」

 あれ?
 よりにもよって側付がサリュだよ裁判時間が早まったと思ったら、至極いつも通りなのはなぜなの。
 私、疲れで幻想でも見てた?
 それともあれはサリュじゃない別人だった?
 朝ご飯は皆変わりなく普通に食べてたし、なんだかよくわからなくなってきた。

「書類のピークはすぎたっぽいよ」
「そうですか」
「これ、昨日終わらせといたやつ。オンブルに渡すのはこっち」
「はい」

 昨日ノリにノって終わらせた仕事の山を見せれば、結構な量でと言われた。

「ああ、だから昨日起きて、!」

 零した言葉が暗に昨日のことが事実だと告げていた。
 しかもうっかり言っちゃった感。
 これはひどい。
 でもそれを言うなら私もサリュになんで起きていたのかききたいわ。

「あー、うん。サリュ」
「はい」
「昨日のことなのですが」
「……ええ」

 眼を合わせないぞ。
 サリュはきちんと眼を合わせて話してくれるのに、今日ばかりは視線が書類一直線だ。
 何気ない風をしつつも身体に妙な力入っている。
 これは私の謝罪力が問われるところね。

「大っ変っ申し訳御座いませんでしたー!!」
「はい?!」

 机におでこくっつけて手をついて力の限り謝った。
 もうそうするしかなかった。

「これは決して! 故意ではなく! いや広いお風呂入りたいと思って入ったのは事実なんだけど! 誰も来ないと思って魔が差しただけで!」
「それは、」
「いやもう大変見苦しいものを晒して申し訳ない限りではありますが! 本当大変申し訳ないと思ってて!」
「いえ、主、あ」
「許してなんて都合いいとは思うけど! 出来ればなかったことにして頂ければと! 金輪際痴漢は致しません故!」
「いえ、あの」
「大事なことだからもう一度謝る! 大変申し」
「主!」
「はい!」

 散々謝罪のような言い訳を言い連ねて最後にもう一度謝ろうとしたら阻まれた。
 強めの語調に断罪されると感じて震える。
 思わず机から顔をあげてしまって、サリュの顔をまともに見ることになって逆に驚いた。
 眼があった途端視線をそらして、目元を赤くしている。
 戸惑うように自身の手の甲を口元に寄せて、ぐぐっと唸った。

「……結構です」
「はい?」
「ですので、先日の事は、その、気には、しておりません」
「あ、うん」

 いやめっちゃ気にしてるでしょ、それ。
 明らかだよ。でもごめん、反応が完全に年頃の女子だよ。
 より罪悪感を煽られるから、それ。

「主も気にされぬよう」
「は、はあ……いいの?」
「何が」
「お、怒らないの? だって異性に触られるの嫌じゃなくて?」
「はい?」

 何を言っているのかという顔をされた。
 あまり気乗りはしないけど、師匠の話を持ち出した。
 トラウマ盛り返さないか様子を窺いながら。

「……確かに何度かパラの名で呼ばれた事もありましたし、その立ち位置を求められた事もありました」
「やっぱり……」

 金の瞳に影が落ちる。
 トラウマが再発してしまうぞ、どうする。

「ですが、俗に言う恋人同士の触れ合いは全くありませんでした。子供のままごとのような事をしていただけです」
「え、そ、そう?」
「ですので、異性に触られるのですら駄目だということはありません。むしろ……」
「むしろ?」

 急に言葉が途切れてしまったので、続きを促してみたけど続かない。
 どうした。いやトラウマではないなら、よいのだけど。

「いえ、ですので、昨日の事は、主がそこまで気にする事ではないのです」
「ほ、本当? 裁判ない? 断罪されない?」
「はい?」
「もう私のこと嫌になって出ていくとかもない? 許してくれるっていうこと?」
「……主の心配する事はありませんので、ご安心を」

 サリュってば、ここにきて急にクールダウンしてきた。
 トントンと書類を揃えて、確認でヴァンのところに行くと言って、いつもの綺麗な所作で戸を開けた。

「おっとー?」
「シュリエ殿、失礼を」

 開いた瞬間シュリと鉢合わせる少女漫画をかまして(けど、ぶつかって互いに倒れることなく)、サリュは去っていった。
 た、たぶん許してもらえた。たぶんなかったことにもしてもらえた、はず。
 なんか心開いてきたところだったのが、通常運行塩対応に戻りそうな気もしたけど、たぶん大丈夫。
 超えた、試練を超えましたよ、御先祖様。

「ふう」
「んー?」

 サリュを見送るシュリが小首を傾げる。

「エクラー、追加ー」
「ありがと」

 いつものごとく、お届けものを持ってきた。
 仕事の追加は少なめ。うん、今日は残業ないな。

「んー?」
「どうかした?」

 私を見て、また小首を傾げる。
 頼むからきいてくれるなよ。

「エクラ」
「なに?」
「サリュと何かあった?」

 きくなって。
 敢えてか、敢えて空気読まないできいたの。

「んん? 何かって?」
「いや? サリュの顔とエクラの態度で何かあったのかなーって」
「なんか変?」
「まあ俺なら分かる感じ?」

 サリュはわかりにくかったけど、とシュリ。
 ああ、これは誤魔化せない。シュリってば感がいいんだもの。
 話す? いつかばれるなら早い内がいい?

「お、怒らないでね?」
「うん?」
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