追放済み聖女の願う事

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9話 お巡りさん、私じゃないです

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 事務仕事が終われば、畑の手伝いだ。様子見もかねてるけど。
 普段ならもっと早くに終わってるから、畑仕事の大半を手伝えるけど、今日は案の定時間がかかってしまった。
 畑に着いたら、今日の分は収穫済みの挙句、手入れも終了していた。仕方ない、労うだけになるか。

「シュリ! サリュ!」
「エクラ」

 お疲れ様、と一言添えて、水分補給とタオルを渡す。
 彼は不思議そうに私の手元を見つめ、ゆっくりとした動作で受け取った。
 よかった、受け取ってくれる程度の好感度。助かる。塩だけど。

「シュリ」
「ん、ありがとー」

 私とシュリの様子もがっつり見られている。
 なんだこの探られ感。もっとさりげなく見てくれる程度がいいんだけど。

「サリュ、何かあった? 怪我とかした?」
「いえ、なにも」
「そう」

 反応は薄めかと少し残念に思いながら、今日収穫した野菜と果物を籠ごと抱える。

「エクラは一番小さいのって言ってるじゃん」
「うえ」

 重労働をしていないから一番重いの持ったのに、相変わらずシュリってば察しがいいんだから。
 三人で屋敷方向へ戻る。サリュは黙って籠を抱えてついてきていた。
 私とシュリの様子をこれでもかとガン見しながら。うん、なかなかの眼力だね。

「あ、そうだ。サリュ、この後あいてる?」
「え? ええ……」
「折角だから皆の相手してあげてよ」
「相手?」
「修行でも遊びでもなんでも」
「はあ」
「じゃひとまずあっち」

 皆でご飯を食べる食堂にはサンルームが備え付けられてて、そこから庭に出られる。
 その庭は大体皆が集まる場所だ。
 今日はフルールとフーだけ。

「フルール、今日は少ないね」
「もう少ししたら集まるさ」
「そっか」
「サリュークレの旦那もか?」
「え、いや、私は」
「是非よろしく」

 食い気味に彼の言う事を無視してよろしくしてやったわ。斜め後ろからイラっとした空気を感じたけど無視だ無視。

「貴方は……」
「あ、そうだ」

 文句言いたげなサリュを尻目にいいこと思いついた。
 荷物をサンルームに置けば、丁度よくメゾンがいて無事引き渡す。
 メゾンはいつも収穫時間を見計らって受け取りに来てくれるもんな、そういうとこイケメンだよねえ。
 さておき。

「サリュ、手合わせして」
「……は?」
「手合わせしてって」
「貴方と?」
「うん」

 サリュの視線がするりとシュリに移動する。
 シュリは彼の言いたいことが分かったらしい、苦笑して首を横に振った。

「うちのご主人様々は変わり者なんだよねー」
「何その言い方」
「精霊相手に組手お願いする人はそういないよ?」
「ふーん」

 歴代御先祖様は大体なにかしらスポーツをしていたけど。
 たぶん御贔屓御先祖様が走り始めたのが最初っぽいから、帰結するとこはそこかと思ったりもする。
 さておき、さっさとやろう。

「よろしくお願いします」
「え、いや、ちょ」
「いくでや!」

 開始早々にキックをお見舞いしたけど、あっさりガードされた。
 やっぱりレベルが違う。

「待ちなさ」
「がんがんいくよ!」

 膝蹴り、回し蹴り、跳び蹴りなどなど。そこにたまにパンチを繰り出したり。
 全部避けたりいなされたりしてる。強いな。

「こ、この前と動きが違っ」
「ふふん、驚いた? 今日はムエタイだよ!」
「むえたい?」

 そういえば昨日はボクシングだった。これならキックボクシングにすればよかったかな?

「あ、そーそ、エクラってば御先祖様の影響で色んな格闘技使えるから」
「え?」

 御先祖様は何かしらのスポーツを各々やっていたのだけど、その中でも割と一つのスポーツを極めている系が多かった。
 その一流の記憶を元に、小さい頃からシュリ相手にして格闘技をやってた甲斐があったものよ。
 今や全世界津々浦々な格闘技を扱っているなんてね。

「ふむ。強いね、サリュ」
「貴方……」

 余裕がある割に息は少しあがっていた。持久力に難ありかな。
 もっとも私の拳はどこにも入らなかったし、彼がこちらに拳をあげることもなかった。
 これに乗じて急所に一発決めれば、私は簡単に死ぬというのに、何もしないなんて優しい精霊だ。

「やっぱり私を殺す気ないの」
「それ、は……」

 手加減してやり返すこともしなかった自分の行動に今更気づいたサリュは、目だけ惑って慌てた様子を見せた。
 見習い期間はこんなわかりやすくなかったな。逆に今が新鮮。

「じゃ、後は皆の相手よろしく」
「え、」

 そこでぱたりと相手をするのを止めた。
 何か言いたそうなサリュを無視してサンルームの縁に腰掛ける。
 ここぞとばかりにメゾンがお茶を出してくれた。相変わらず最高のタイミングでくるな、このイケメン本当できる。

「ありがと、メゾン」
「どういたしまして」

 庭に目を向ければ、フルールとフーちゃんが二人がかりでサリュに手合わせし始めた。
 どうやら私と彼の組手が面白そうだったらしい。
 普段なら自身の特性を生かした戦い方をするから、武闘派の精霊はそんなにいないのだけど。
 二対一で組手してるのは遊びにも近いのかな。
 完全に指導する側とされる側な力量差で、それなのにたまにサリュがアドバイスまでしている。
 優しいな……というか私の時と違って雰囲気柔らか、顔の強張りもあまりない。なんだ、この差。

「いいなあ」
「エクラ、サリュに何したか自覚ないの?」
「断じて誘拐と監禁ではない」
「わかってんじゃん……」

 シュリに何を言われようとも、ヴァンに何を責められようとも、これは人助けである。断じて犯罪ではない。お巡りさん、私じゃないです。

「ふんだ、サリュだって暴れる程嫌がってないし、それに」

 言いかけたところで、ズンと下から上に衝撃が走る。

「主人!」
「ヴァン」
「出ました!」
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