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2章 変態宰相公爵の、魔女への溺愛ストーカー記録
88話 終わらせなきゃいけない
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「クラス・トラジェクトーリア・ドゥークス伯爵様、フィクタ第一皇子妃より謁見の要望でございます」
「うわ……」
なにも表情の読めない侍女が迎えにきた。フィクタからの誘いなんて初めてだ。後宮から出られないのだから呼び寄せるしかないのだろうけど。
「いかがしますか? 私はどちらでも」
「ベルバ公爵夫人はご遠慮願います。皇子妃はドゥークス伯爵お一人でと」
ユツィが笑顔のまま強張った。こんなあからさまに言われるのだから当然か。
「私が供に行っても問題ないのでは?」
「皇子妃は現在の立場を考え行動なされています。人を多く呼ばないのはその為です」
「話になりませんね。クラス、アチェンディーテ公爵が見えてからにしましょう」
「アチェンディーテ公爵が過去に犯したウニバーシタス帝国反逆罪についてお話したいと」
「それは冤罪だった件しょう」
「そちらについて真実を述べたいと」
真実? とユツィがあからさまに憤慨した。使いのメイドは相変わらずの能面だ。
「直近ウニバーシタス帝国の人間を攻撃した事について反逆罪に問われています」
直近の攻撃とはデートの時の襲撃だろう。あれで返り討ちにしたことを反逆罪の一つとして掲げ、暴力を振るう人間だと嘘を流すこともできる。なによりさっき第一皇子が国家反逆罪だと再び叫んでいたのを考えると、この二人はまた私達に罪を被せたいはずだ。けどサクが悪者にされるのは納得がいかなかった。
「公爵に失礼です。身をわきまえなさい」
「皇子妃の仰る事をそのまま伝えているだけです」
本当の罪なんてあるわけないけど、第一皇子妃からしたら敵である罪なのだろう。たぶんなにをしても彼彼女からしたらサクは罪だ。
そもそも皇子妃でもないフィクタがまだ妃として名乗り私に介入しようときたということは十年前と同じことを繰り返している。あの時はサクを逃がして私が国内と言えど追放刑に処されて終わった。離れてしまえば穏やかに暮らせると思っていたし、サクも幸せになるはずと思っていたけど、結局十年経てば同じ。
ならやることはやってしまおう。今回はもう逃げたくないから。
「……行きます」
「え?」
ユツィが珍しく狼狽した。視線を上げ目を合わせる。サクと一緒で心配ですと瞳に描かれていた。
「罠ですよ?!」
「知ってる」
「何故」
「終わらせなきゃいけない」
ウニバーシタスから自由になって、それこそイルミナルクスの人間になるなら、区切りをつけてもいい気がした。どうせ近いうちに死ぬのなら、一発お見舞いしてもいい、という自棄な気持ちもある。
ただ、サクと静かにゆっくり過ごさせてほしいという私の我が儘を叶えるには、フィクタを乗り越えなければならない気がした。
サクのことを出しにして私を炙り出そうだそうというのに苛立ちを感じたのもある。でももう振り回されたくない。だから終わりにしないと。終わりにして二度とサクに反逆罪がと言われないようにしたい。
「行く」
「しかし護衛も連れないなんて」
「なら我々が行こう」
「え?」
ドラゴンとフェンリルが現れた。ユツィの前では現れないようにしてたのに。
「フィー? 連れてきてたのですか?」
「えっと……」
戸惑う私にユツィがなにかを察する。
「二人で話がしたいので、一度外へお願いできますか」
「畏まりました」
フィクタの使いを外に出し、私とユツィ、ドラゴンとフェンリルが残る。
「一度だけ見たことがあります」
「なにを?」
「クラスがフィーと話をしている所です」
「!」
ばれてた? けどユツィは真面目な顔をして続ける。
「フィーが人の言葉を話してるようには見えませんでした。それにフィー以外の別のなにかにも話しかけていたように見えました」
二人の声は見えない人には聞こえないのだろうか。
「淋しい気持ち故かと思ったのですが、そういう感じでもない。今ここにきて分かりました。クラスはフィーと話せますね?」
ぐっと息が詰まる。話すか悩んでいるとフェンリルが頷いた。
「話していい」
「え、と」
「私の存在を含めてな。クラスの護衛で私たちが行くとも伝えなさい」
ドラゴンが肩に乗った。
「ユツィの言う通り、フィーと話もできるし、見えないと思うけど、ここにもいるの。一緒にフィクタのとこ行ってくれるって」
肩に乗るドラゴンを撫でる。ユツィはサクと同じように口元に手を当て考えていた。
「護衛に足る存在という事ですね?」
「ああ」
「勿論だな」
この城を吹き飛ばせるぞ、とドラゴンが笑うのを無視してユツィの言葉に頷いた。
「ずっと助けてくれたから」
「……確かにただ者ならぬ空気を感じた事はありましたが」
その言葉にフェンリルが喜んだ。話の分かる奴だと尻尾を揺らしている。
「感覚の話ですよ。ヴィーも言ってました。犬なのに隙がないなと」
犬じゃないけどね。けど二人が魔物で伝説級の存在、ドラゴンとフェンリルであるという説明をしてると長くなる。割愛しよう。というか後でサクから話してもらおう。その方が話が早い。
「ではお任せしましょう」
「うわ……」
なにも表情の読めない侍女が迎えにきた。フィクタからの誘いなんて初めてだ。後宮から出られないのだから呼び寄せるしかないのだろうけど。
「いかがしますか? 私はどちらでも」
「ベルバ公爵夫人はご遠慮願います。皇子妃はドゥークス伯爵お一人でと」
ユツィが笑顔のまま強張った。こんなあからさまに言われるのだから当然か。
「私が供に行っても問題ないのでは?」
「皇子妃は現在の立場を考え行動なされています。人を多く呼ばないのはその為です」
「話になりませんね。クラス、アチェンディーテ公爵が見えてからにしましょう」
「アチェンディーテ公爵が過去に犯したウニバーシタス帝国反逆罪についてお話したいと」
「それは冤罪だった件しょう」
「そちらについて真実を述べたいと」
真実? とユツィがあからさまに憤慨した。使いのメイドは相変わらずの能面だ。
「直近ウニバーシタス帝国の人間を攻撃した事について反逆罪に問われています」
直近の攻撃とはデートの時の襲撃だろう。あれで返り討ちにしたことを反逆罪の一つとして掲げ、暴力を振るう人間だと嘘を流すこともできる。なによりさっき第一皇子が国家反逆罪だと再び叫んでいたのを考えると、この二人はまた私達に罪を被せたいはずだ。けどサクが悪者にされるのは納得がいかなかった。
「公爵に失礼です。身をわきまえなさい」
「皇子妃の仰る事をそのまま伝えているだけです」
本当の罪なんてあるわけないけど、第一皇子妃からしたら敵である罪なのだろう。たぶんなにをしても彼彼女からしたらサクは罪だ。
そもそも皇子妃でもないフィクタがまだ妃として名乗り私に介入しようときたということは十年前と同じことを繰り返している。あの時はサクを逃がして私が国内と言えど追放刑に処されて終わった。離れてしまえば穏やかに暮らせると思っていたし、サクも幸せになるはずと思っていたけど、結局十年経てば同じ。
ならやることはやってしまおう。今回はもう逃げたくないから。
「……行きます」
「え?」
ユツィが珍しく狼狽した。視線を上げ目を合わせる。サクと一緒で心配ですと瞳に描かれていた。
「罠ですよ?!」
「知ってる」
「何故」
「終わらせなきゃいけない」
ウニバーシタスから自由になって、それこそイルミナルクスの人間になるなら、区切りをつけてもいい気がした。どうせ近いうちに死ぬのなら、一発お見舞いしてもいい、という自棄な気持ちもある。
ただ、サクと静かにゆっくり過ごさせてほしいという私の我が儘を叶えるには、フィクタを乗り越えなければならない気がした。
サクのことを出しにして私を炙り出そうだそうというのに苛立ちを感じたのもある。でももう振り回されたくない。だから終わりにしないと。終わりにして二度とサクに反逆罪がと言われないようにしたい。
「行く」
「しかし護衛も連れないなんて」
「なら我々が行こう」
「え?」
ドラゴンとフェンリルが現れた。ユツィの前では現れないようにしてたのに。
「フィー? 連れてきてたのですか?」
「えっと……」
戸惑う私にユツィがなにかを察する。
「二人で話がしたいので、一度外へお願いできますか」
「畏まりました」
フィクタの使いを外に出し、私とユツィ、ドラゴンとフェンリルが残る。
「一度だけ見たことがあります」
「なにを?」
「クラスがフィーと話をしている所です」
「!」
ばれてた? けどユツィは真面目な顔をして続ける。
「フィーが人の言葉を話してるようには見えませんでした。それにフィー以外の別のなにかにも話しかけていたように見えました」
二人の声は見えない人には聞こえないのだろうか。
「淋しい気持ち故かと思ったのですが、そういう感じでもない。今ここにきて分かりました。クラスはフィーと話せますね?」
ぐっと息が詰まる。話すか悩んでいるとフェンリルが頷いた。
「話していい」
「え、と」
「私の存在を含めてな。クラスの護衛で私たちが行くとも伝えなさい」
ドラゴンが肩に乗った。
「ユツィの言う通り、フィーと話もできるし、見えないと思うけど、ここにもいるの。一緒にフィクタのとこ行ってくれるって」
肩に乗るドラゴンを撫でる。ユツィはサクと同じように口元に手を当て考えていた。
「護衛に足る存在という事ですね?」
「ああ」
「勿論だな」
この城を吹き飛ばせるぞ、とドラゴンが笑うのを無視してユツィの言葉に頷いた。
「ずっと助けてくれたから」
「……確かにただ者ならぬ空気を感じた事はありましたが」
その言葉にフェンリルが喜んだ。話の分かる奴だと尻尾を揺らしている。
「感覚の話ですよ。ヴィーも言ってました。犬なのに隙がないなと」
犬じゃないけどね。けど二人が魔物で伝説級の存在、ドラゴンとフェンリルであるという説明をしてると長くなる。割愛しよう。というか後でサクから話してもらおう。その方が話が早い。
「ではお任せしましょう」
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