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51話 今、二人きりです

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「此度は六ヶ国の協力なくしては成し得なかった。皆、楽しんでほしい」

 ということで、対セモツ国に勝利した暁に祝賀会開始だ。
 そもそも六ヶ国集まってどうやるの? ってなったので諸島リッケリと船上を駆使して行われた。
 六ヶ国の王族と要人たちが集まるって中々荘厳よ。
 ちなみに、諸島以外で各国でも祝杯を挙げている。両陛下は大概国に留まり、王太子殿下といった次代を担う王族が諸島リッケリに集結した。

「武人様!」
「武人さまの雄姿拝見しました!」
「武人さまあ!」

 困ったもので、武人の称号が消えない。
 そして騎士たちの接近をヴォルムが許さなかった。

「ヴォルム、祝いの席だからやめて」
「下心ある輩は全員排除です」

 これも仕事の一貫なんだけどな? ここまでやれて外交的な意味で仕事は終了できるのに。

「ディーナ様」
「なに?」
「ファーストダンスは俺と」

 ああ、そういうこと。
 挨拶が終われば、次はダンスがくる。私の最初の相手になる為に騎士たちをあんなに牽制していたのね。

「俺では駄目ですか」

 少し不安が滲んでいた。この期に及んでそんな顔しなくても間違いなくヴォルムを選ぶって分からないのかしら。

「勿論ヴォルムと踊るよ」
「……ありがとうございます」

 王太子殿下たち王族が踊った後に周りに紛れてダンスの輪に入った。

「今日は俺以外とは踊らないで下さい」
「言われなくても他の人とは踊らないよ」

 安心して? ときちんと目を合わせて言えば、目を細めて返してくれる。ヴォルムの嬉しい気持ちが伝わってきて恥ずかしくなった。


* * *


 二階のバルコニーに移動して二人きりになれてヴォルムはやっと満足したようだった。

「ヴォルムって本当はこんなだったのかあ」
「こんなとは?」
「ん?」

 思ったより感情豊かで、独占欲強くて、面白い方向に行動力もある。

「あの頃は抑えるのに必死だったので大人しく見えただけでしょう」

 お嫌ですかときいてくるのできちんと否定する。

「どっちのヴォルムも好き」
「俺もディーナが好きです」

 こんな告白三昧で笑い合えるなんて思ってなかった。
 ヴォルムの手が伸びて私の後れ毛を耳にかける。そんな甘い顔して触れてくることも少し前までなかった。

「なんだか急に落ち着いた気分だわ」
「そうでしょうか?」
「六ヶ国巡って最後はセモツと戦うって怒涛じゃない?」
「ディーナと一緒だといつもあんな感じですよ」

 私と一緒だといつも死線を潜り抜けるってこと? 激しすぎない?

「これからも俺を振り回して下さい」
「なにそのドエム発言」

 笑って「でも」と言葉を続ける。

「一緒に連れてくれるでしょう?」
「当然ね」

 満足そうにして笑みを深くした。

「早く結婚しましょう」
「するけど、そんな急ぐ?」
「各国がこぞってディーナを取りにきますよ」

 それは規模が壮大だ。ヴェルディスぐらいの魔法使いならそうなりそうだけど、外交特使一人を取り合うことなんてないだろう。
 それでも六ヶ国協定に加え、セモツ国のスパイ検挙と魔法薬問題の解決を成し得たのだから話題にはなるか。殿下との婚約破棄なんて霞むほどに。

「たとえそうなっても、私はヴォルムを選ぶよ?」
「分かっていても落ち着かないんです」

 今までの私が恋愛のれの字すらなかったから実感があまりないらしい。このままだと以前と同じ関係……王太子妃内定者と護衛の頃の距離感に戻ってしまうのではないかと思ってしまうと。

「んー、こう手っ取り早く安心をあげれればいいんだけど」
「俺の我儘だと分かっています。護衛だった頃はディーナから気持ちを貰えるなんて考えてもいなかった」

 隣のヴォルムが視線を遠くに送る。
 こうして隣にいられるようになったのは進展だと思った。けどヴォルムには足りない。

「あ、そっか」
「ディーナ?」
「ヴォルム、ちょっと屈んで」
「どうしました?」

 彼の腕に手を置いて背を伸ばす。屈んでくれたおかげで簡単に触れることができた。

「……え?」

 柔らかさを堪能してからゆっくり離れる。吐息がかかる近さのまま閉じた瞳を戻すと、目を丸くしたヴォルムが今までで一番近いところで見えた。

「安心した?」
「え、あ、」
「確かに隣ってしやすいわね」

 ふふっと笑みがこぼれる。
 と、急にぐいっと腰に腕が回った。

「わっ」
「ディーナ!」
「え、なに?」
「なんで、こんな急に」
「え、だめ?」

 安心して欲しかったんだけどな?
 前にキスがどうこう言ってた気がしたけど勘違いだったのだろうか。

「駄目ではないです。正直少しでも気を抜けば顔が緩むぐらい嬉しいです」
「すっごい早口」
「……ディーナ」

 あからさまに動揺されるとこっちが恥ずかしくなってくる。ヴォルムのことだからもう少し冷静かと思ったけど、室内の明かりに照らされた目元が赤いから違うのね。

「きちんと意識してくれてるのね」
「当たり前です。どれほど俺が想いを隠してきたと思ってるんですか」

 まだ早口。
 私の腰を抱いて引き寄せたままあいた手で自身の目を覆った。
 次に盛大な溜息。呆れというよりも自分を落ち着かせるような息の吐き方だった。

「嬉しいならよしね」
「……もう一度いいですか?」
「え?」

 手を外して現れた瞳で私を射抜く。力強い輝きが見えた。

「もう一度、触れてもいいですか?」

 目を覆っていた手が伸び、無骨な指が私の唇を撫でる。
 浅く息が出た。
 あ、こういう気持ちだ。私が今まで見ないようにしてきた想い。

「う、あっ」

 返事していないのにぐぐっと近づいて奪っていった。
 吐息がかかる距離のままヴォルムが嬉しそうに微笑む。

「今、二人きりです」

 好きにしていいですよね、と。
 まさかここで二人きりになりたいな? を回収するわけ? 

「忘れてていいのに」
「忘れるわけありません」

 今、甘やかします。とはっきり告げられた。
 おでこをこつんと合わせる。至近距離で合う瞳が蕩けていた。

「もう一度、いいですか?」
「……いいよ」

 好きなだけ、どうぞ。
 応えると目を細めて口角を上げる。
 静かに瞳を閉じた。
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