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40話 告白の返事の邪魔というお約束展開からの返事
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件の男装夫人の占い通り私の気持ちの整理が終わったとヴォルムは主張する。これで肯定したら、ただでさえぐいぐいがんがんのくせにもっとひどくなるんじゃない?
誤魔化しつつ収穫した野菜の整理でもしよう。
「それよりも野菜」
「待って下さい」
扉を開けようと手を掛けたその上にヴォルムの手が重なる。入れない。
「ヴォルム?」
後ろを見ようとしたら肩に手を掛けられ、ヴォルムの方に方向転換。向かい合う形になった。身体の内側がびくりと跳ねる。
「壁ドンじゃない」
「ああ、そうですね……どうですか?」
ぶわっと顔に熱が集まった。わざと言って試してるわね。
全然違うなんて分かりきってる。義妹ルーラのクールな反応がおかしいってぐらい軽く動揺してる。まああれは恋愛要素どこにもなかったんだから仕方ない。
今ははっきり分かる。好きだから、近いとドキドキするのよ。
「ディーナ?」
声が近い。
瞳の輝きがくるりと周る。蕩けそうな程の微笑みだった。
「……」
「俺は今でもディーナが好きです。返事をきかせてもらえませんか?」
ヴォルムからすれば長年の片想いだったわけで、その期間を加えるなら年単位で待っててくれたんだもの。今返事してもいいと思えた。
「ヴォルム」
きちんと目を合わせると屈んで距離を詰める。いつ触れてもおかしくない。近すぎて心臓の音が耳に響いてくる。こんな風に感じる日が来るなんて思ってもみなかった。
「私、っ!」
互いに目を開き、ヴォルムは右後ろに身体を捻り腕を上げた。同時私も左手が上がる。
掴むのは同時だった。
『おーす、ラブレターだぜ』
「ヴェルディス……」
掴んだのは矢だった。
「矢文とか渋いわね」
「あいつ……」
苦々しい顔をするヴォルムを横目に矢にくくられた手紙をほどいて読む。ヴェルディスの魔法って矢でもこんな距離を飛ぶのね。しかも声ついてるとか。それは異世界の記憶? 技術? 的なものだろうから無闇に使うものじゃない。
「どれどれ」
なるほど、きたわね。
「ヴォルム」
「準備します」
セモツ国が動いた。ここを離れ場所を移さなければならない。
「よく分かったわね」
「ディーナの目が輝きました。その目をする時は動く時です」
部屋の扉を開けた。
「話が早くて助かるけど、ヴォルムって結構私に振り回されてる?」
自分で言うのもなんだけど、今の流れだとヴォルムの告白の返事をしていないからモヤモヤしてそう。
けどヴォルムはさっきの甘い顔がすっかりなくなって、いつもの護衛の顔だった。
「今更です。振り回されるのも慣れましたし、ディーナだったら振り回されるのも好きですよ」
爽やかに言い放ったけど、内容が内容よ?
「ドエム……」
「ディーナ限定です」
それでも性癖どうかと思う。長年護衛してたが故ね。
「私は助かるわ」
「そう言われると嬉しいです」
あらかじめ動けるよう荷物は纏めておいたから、準備と言っても着替えるだけだ。村娘服でもよかったけど向かう場所は農地でない。再び戦場……外交特使として政の舞台に立つなら、それなりの格好にならないとね。
「行くわよ」
「はい」
馬を引いて村の外まで歩く。知っていたのか村人全員が外に出ていた。
「でぃーな、いくの?」
「ええ、行くわ」
「お気をつけて」
「はい」
私を呼ぶ子供たちを撫でて笑いかける。短かったけど楽しかった。いい土地ね。
「……公爵閣下がいらっしゃる限り、セモツ国の侵略はないと思います。ですが、くれぐれもお気をつけて」
「ありがとうございます」
国境線というのは常に危険と隣り合わせだ。セモツ国は手段を選ばないから、いつまたファンティヴェウメシイ王国に侵攻開始するか分からない。
「でぃーな、だいじょぶ」
「戦いかたわかるよ」
「こぶし!」
「つよい拳をそだててぶじんになる」
そこまでいけば最強でしょうよ。にしても国境線まで武人は広がらなくいいのに。教育間違えたかな?
「また顔見せに来ます」
「ええぜひ」
馬に乗り進む。村を完全に離れた。
ひとまず公爵の元へ戻り、ファンティヴェウメシイ王国の王子に魔法の転移をお願いしよう。
「名残惜しいですか?」
「ん?」
憧れのスローライフだったのでしょうと。
確かに目指していた外交特使退職後の未来はこういう自給自足に近い形だった。まあもっと言うなら、ああいう土地の領主になって日々ごろごろしつつ、たまに外出て一緒に農業ぐらいがいいかな?
けど今回農業をしてて分かったことがある。ごろごろするよりも身体を動かしてないと性に合わないっぽい。
「確かにこういう生活もありだけど、名残惜しいという程じゃないかな?」
「何を選ぶにしても俺を連れて下さい」
相変わらずだねと笑うと真面目に言ってますと返される。
「大丈夫。ヴォルムが側にいないとだめみたい」
「え?」
「だから嫌がっても連れてくわ」
「え?」
「ふふ、私もヴォルムが好きってことよ」
「え?」
それは、とか今、とか驚きながらもごもごしている。
やっぱりヴェルディスの矢文で告白の返事きけなかったって、私だったらもどかしい。
だから今返した。顔は熱いけど、ヴォルムがぐいぐいきてない分、私らしく返せたと思う。
「ディーナ、その、」
「ループト公爵令嬢!」
「!」
「公爵、夫人も」
「王都へ急ぎ案内します」
「よろしくお願いします」
お約束展開すぎて笑いそうになった。
少し後ろでヴォルムが唸る。お約束だけど、これはさすがに私のせいじゃないわよ?
誤魔化しつつ収穫した野菜の整理でもしよう。
「それよりも野菜」
「待って下さい」
扉を開けようと手を掛けたその上にヴォルムの手が重なる。入れない。
「ヴォルム?」
後ろを見ようとしたら肩に手を掛けられ、ヴォルムの方に方向転換。向かい合う形になった。身体の内側がびくりと跳ねる。
「壁ドンじゃない」
「ああ、そうですね……どうですか?」
ぶわっと顔に熱が集まった。わざと言って試してるわね。
全然違うなんて分かりきってる。義妹ルーラのクールな反応がおかしいってぐらい軽く動揺してる。まああれは恋愛要素どこにもなかったんだから仕方ない。
今ははっきり分かる。好きだから、近いとドキドキするのよ。
「ディーナ?」
声が近い。
瞳の輝きがくるりと周る。蕩けそうな程の微笑みだった。
「……」
「俺は今でもディーナが好きです。返事をきかせてもらえませんか?」
ヴォルムからすれば長年の片想いだったわけで、その期間を加えるなら年単位で待っててくれたんだもの。今返事してもいいと思えた。
「ヴォルム」
きちんと目を合わせると屈んで距離を詰める。いつ触れてもおかしくない。近すぎて心臓の音が耳に響いてくる。こんな風に感じる日が来るなんて思ってもみなかった。
「私、っ!」
互いに目を開き、ヴォルムは右後ろに身体を捻り腕を上げた。同時私も左手が上がる。
掴むのは同時だった。
『おーす、ラブレターだぜ』
「ヴェルディス……」
掴んだのは矢だった。
「矢文とか渋いわね」
「あいつ……」
苦々しい顔をするヴォルムを横目に矢にくくられた手紙をほどいて読む。ヴェルディスの魔法って矢でもこんな距離を飛ぶのね。しかも声ついてるとか。それは異世界の記憶? 技術? 的なものだろうから無闇に使うものじゃない。
「どれどれ」
なるほど、きたわね。
「ヴォルム」
「準備します」
セモツ国が動いた。ここを離れ場所を移さなければならない。
「よく分かったわね」
「ディーナの目が輝きました。その目をする時は動く時です」
部屋の扉を開けた。
「話が早くて助かるけど、ヴォルムって結構私に振り回されてる?」
自分で言うのもなんだけど、今の流れだとヴォルムの告白の返事をしていないからモヤモヤしてそう。
けどヴォルムはさっきの甘い顔がすっかりなくなって、いつもの護衛の顔だった。
「今更です。振り回されるのも慣れましたし、ディーナだったら振り回されるのも好きですよ」
爽やかに言い放ったけど、内容が内容よ?
「ドエム……」
「ディーナ限定です」
それでも性癖どうかと思う。長年護衛してたが故ね。
「私は助かるわ」
「そう言われると嬉しいです」
あらかじめ動けるよう荷物は纏めておいたから、準備と言っても着替えるだけだ。村娘服でもよかったけど向かう場所は農地でない。再び戦場……外交特使として政の舞台に立つなら、それなりの格好にならないとね。
「行くわよ」
「はい」
馬を引いて村の外まで歩く。知っていたのか村人全員が外に出ていた。
「でぃーな、いくの?」
「ええ、行くわ」
「お気をつけて」
「はい」
私を呼ぶ子供たちを撫でて笑いかける。短かったけど楽しかった。いい土地ね。
「……公爵閣下がいらっしゃる限り、セモツ国の侵略はないと思います。ですが、くれぐれもお気をつけて」
「ありがとうございます」
国境線というのは常に危険と隣り合わせだ。セモツ国は手段を選ばないから、いつまたファンティヴェウメシイ王国に侵攻開始するか分からない。
「でぃーな、だいじょぶ」
「戦いかたわかるよ」
「こぶし!」
「つよい拳をそだててぶじんになる」
そこまでいけば最強でしょうよ。にしても国境線まで武人は広がらなくいいのに。教育間違えたかな?
「また顔見せに来ます」
「ええぜひ」
馬に乗り進む。村を完全に離れた。
ひとまず公爵の元へ戻り、ファンティヴェウメシイ王国の王子に魔法の転移をお願いしよう。
「名残惜しいですか?」
「ん?」
憧れのスローライフだったのでしょうと。
確かに目指していた外交特使退職後の未来はこういう自給自足に近い形だった。まあもっと言うなら、ああいう土地の領主になって日々ごろごろしつつ、たまに外出て一緒に農業ぐらいがいいかな?
けど今回農業をしてて分かったことがある。ごろごろするよりも身体を動かしてないと性に合わないっぽい。
「確かにこういう生活もありだけど、名残惜しいという程じゃないかな?」
「何を選ぶにしても俺を連れて下さい」
相変わらずだねと笑うと真面目に言ってますと返される。
「大丈夫。ヴォルムが側にいないとだめみたい」
「え?」
「だから嫌がっても連れてくわ」
「え?」
「ふふ、私もヴォルムが好きってことよ」
「え?」
それは、とか今、とか驚きながらもごもごしている。
やっぱりヴェルディスの矢文で告白の返事きけなかったって、私だったらもどかしい。
だから今返した。顔は熱いけど、ヴォルムがぐいぐいきてない分、私らしく返せたと思う。
「ディーナ、その、」
「ループト公爵令嬢!」
「!」
「公爵、夫人も」
「王都へ急ぎ案内します」
「よろしくお願いします」
お約束展開すぎて笑いそうになった。
少し後ろでヴォルムが唸る。お約束だけど、これはさすがに私のせいじゃないわよ?
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