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33話 あいつ、なりふり構わずくるぞ

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 お世話焼きな友人のおかげで気づかされた。
 私にとってヴォルムがいかに特別か。

「テュラったら回りくどいことを……」
「親切心だろ? 笑いのネタにする気もあるだろーけど」

 笑いのネタ九割な気がする。

「ディーナがあいつを選ぶなら、結婚って交渉はやめて別の提案になるな」

 さっきまでの茶番は分かってた上での会話だった。それでも政治的な側面より私の気持ちを優先して、結婚による協力関係強化をすぐに諦めてくれるあたり、ヴェルディスは優しい。

「内容は?」
「まずは、ソッケ王国からの布告文はなしに出来る」
「助かるわ」

 大陸全てが焦土にならなくてよかった。魔法大国ネカルタスへ宣戦布告するというのは国がなくなることと同義だ。事を起こそうとしているヴェルディスの祖父だって分かっているはず。
 いっそ今すぐネカルタス側と件の精霊王と魔物たちで話しをつけて平和一直線にいくために魔法使いの介入をオッケーにしてくれればいいのに。
 ネカルタス王国が所有する魔物が住む島と呼ばれる遥か北の離島にいるんじゃないの?

「けどうちがだんまりを続けていると、近い内にセモツから宣戦布告されるだろーな」

 偽造宣戦布告文で動かないなら自ら仕掛けるというわけね。

「そっちの三国に潜入しているセモツのスパイを捕まえる。これが一つ目」
「当然ね。こちらとしてもそんな輩許せない」

 シャーリーの義妹ルーラ。
 尻尾を掴んできちんとセモツの仕業でスパイということを証明しないといけない。
 魔法大国ネカルタスが鎖国を維持するなら尚更外野が動かないと物事が好転しないだろう。
 先だって自国ドゥエツにスパイ対策をするよう書状をだそう。

「あとはもう少しセモツに近づきたいのよね」
「ならファンティヴェウメシイ王国に行くか?」

 大陸においてセモツを敗北させた唯一の国だ。

「戦争の英雄が王族だから話通しやすいし、本物の聖女にも会えるぞ」
「聖女って伝説の存在でしょ」
「残念、現実にいるんだよ」

 英雄の奥さまが聖女らしいのだけど公にしていないそう。

「聖女の存在はさておき、ファンティヴェウメシイ王国に行くわ」
「行動はえーな」
「もたもたしてるとセモツがネカルタスに宣戦布告するでしょ」

 よく分かってるなと満足そうに頷く。

「セモツを吊し上げれればほぼクリアだが、加えてドゥエツ王国仲介でそっちの三国とこっちの三国合わせて六ヶ国で独自の協定を結びたい。これが二つ目」

 海を渡った三国、ドゥエツ、ソッケ、キルカス。大陸ネカルタスとその隣国ファンティヴェウメシイとソレペナ。この六つの国が協力関係を結ぶことでセモツ国への包囲網としたい。
 これが魔法大国ネカルタスのもう一つの要望だ。

「セモツを公的に裁くには他の国の協力が必要だからな」
「分かった。ファンティヴェウメシイ王国に行く前に全ての国に協力要請を出すわ」

 力でねじ伏せるのは簡単だ。けどそれをせず、セモツ国より南にある国際裁判所に判断を委ねる。これが魔法大国ネカルタスの望む形らしい。

「うちは変わらず国に人は入れない。まあ交易許可とソッケ・キルカスに人材一人派遣するだけで十全だろ?」
「そうね」

 それなら三国平等になる。というかヴェルディスは未来がみえてる人間だからこの提案が恐らく最善なんでしょうね。

「加えて、セモツ対六ヶ国になった時の魔法薬と魔法陣対策で魔道具を提供してやる。戦場に至った場合の騎士全てに渡せる数あるぜ」
「ありがと」

 その発言があるということは遅かれ早かれセモツ国は動く。セモツ対六ヶ国を見越した上での前二つの提案ってことね? スパイを減らして兵力を削り且つ体調不良者を減らして各国万全な体制をとり、六ヶ国が急な襲来があっても協力して戦える準備をしろということだ。

「そうなるのね?」
「はっ! 言っとくが未来なんてすぐ変わるからな」
「そういえば聞いた気がするわね」

 未来がどうあれ、自分の目で見たかったから丁度いいわ。

「ま、こんなとこだろ。送るぞ」
「ありがと」

 その前に準備ないといけないおとが多い。
 自国ドゥエツへのスパイ対策要望の書状、各国へ海賊対策及び体調不良の根本原因へ対策協力要請の書状。各国への書状はそれとなくセモツ国との戦いがある匂わせまでしないと伝わらないだろうから言葉選びを念入りにしないとだめね。
 加えて、ヴォルムとソフィーに手紙書いておかないとか。ヴェルディスに言って紙とペンを借りた。

「お前、あいつ待機させんのかよ」
「ファンティヴェウメシイ王国に入るには陸路を迂回するか、ここネカルタス王国を通るしかないでしょ?」

 迂回するとそれこそセモツ国の賊と鉢合わせる危険がある。ネカルタス王国は今回通してもらえない。

「戦争の英雄の側なら安全だし、一人でも平気だよって書けばいけるはず」
「逆効果だな」

 あいつは過保護で執着激しいぜとヴェルディスは言う。確かにそうだけど、さすがにネカルタス王国に突撃はしないはずだ。そこまで考えなしじゃない。

「はーん」
「どうしたの?」

 なにか直近の未来がみえたらしい。

「あいつ、なりふり構わずくるぞ」
「じゃあ念入りに待機をお願いするわ」

 待ち合わせは諸島領地リッケリでバーツのとこに世話になるよう伝えた。これでいいでしょ。
 なりふり構わずいくって結婚の申し込みされた時も言われたから、実行しないようきちんと言えばいいはずだ。

「ディーナ、ほんと疎いなー」

 恋愛苦手だからなーと呆れられる。確かにさっきヴェルディスと手を取る取らないでやっとスタートラインに立てた感じだった。否定できないわね。

「なによ……」
「そんなんだからテュラも俺もあいつを応援したくなるわけだ」
「私の応援は?」

 してるぜー? と肩をすくめられた。

「しててこれ?」
「お前らが望んでっからアシストしてやってんじゃねーか」
「んー、ありがと?」

 「にっぶ」と苦々しい顔で言われた。恋愛は苦手なんだってば。

「まー、同じ国のよしみだからな、あいつの肩持ちすぎ感はあるか?」
「身内贔屓すごいわよね」

 鎖国してるだけはある。

「小せー頃からあいつがディーナを好きすぎだったのも見てるから、こー、なに? 親心?」
「そんな年の差ないでしょ」

 一つ息を吐く。
 いいのよ。この気持ちに気づいた今、そうすぐにヴォルムに会えるわけない。
 心の準備が必要ってことよ。

「この話はいいわ……ファンティヴェウメシイ王国への入国、サポートしてくれる?」
「任せろ」

 結果、ヴェルディスの予言は本当になった。なりふり構わずくるほど危機的な状況でもないのに追ってくるなんて。
 いつも通りの私でいるために、もう少し時間が欲しかった。
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