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31話 真相解明と好きの自覚

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 正確には魔法大国ネカルタスを滅ぼすこと。

「セモツ国が黒幕だったとしても、おかしいと思うのよ」
「何がだ?」
「魔法大国ネカルタスで魔法使いを囲っているのに、セモツ国がこれだけの魔法薬と魔法陣を扱えるなんておかしくない?」

 ヴェルディスが不遜に笑う。

「セモツ国に魔法使いがいるか、準じたなにかがあるかってとこ?」

 魔法使いならかなりの実力者、違っていても高度な魔道具等がないと難しいだろう。
 ヴェルディスはまだ返事をしなかった。私に先を話せと無言で言っている。

「最初はネカルタス王国自体が黒幕と考えたわ。でもこんな回りくどいことをする必要がないのよ。ヴェルディス含めてほんの少し本気を出せば大陸を焦土にできる魔法使いが何人もいる」

 そもそも魔法大国ネカルタスは基本動かない。世界のパワーバランスが崩れるから静観していると初めてヴェルディスに会った時に教えてもらった。テュラも当然そこを踏まえた上でドゥエツ王国に来ている。
 彼ら魔法使いは多少の手助けや協力はしてくれるけど、大事な場面では一切干渉しない。それが世界を正しい方向に導く術だと言って。
 だから一連の騒動を起こす理由が魔法大国ネカルタスにない。黒幕は別にいる。

「ネカルタス以外の国でって考えた時、大陸の国家連合の関係性も踏まえると今までファンティヴェウメシイ王国と戦争をしていたセモツ国が該当するのよ」

 敗戦国、セモツ。大人しくなったと思っていたけど判断を誤った。ファンティヴェウメシイ王国を狙っていたのは先にある魔法大国ネカルタスの滅亡。ファンティヴェウメシイ王国がだめなら方法を変えて動き続けるのは明らかだ。

「セモツ国が確定だとしても、魔法を使えすぎてるって少し考えたわ」

 魔法薬に魔法陣。
 私みたいに少し身体強化ができる程度なら各国にいくらかいるだろうけど、ここまで本格的に魔法を使える人間はいない。そうなると、どこかで魔法大国ネカルタスが絡んでいる可能性が出てきてしまう。

「ネカルタスの魔法使いがセモツ国にいるの?」

 ヴェルディスがわざとらしく拍手をした。

「ディーナ、お前本当いいな」
「きちんと応えて」

 焦るなよ、とヴェルディスが囁く。足を組み直して両手を絡めて膝の上に置いた。

「俺の祖父だ」
「……は?」
「セモツにいるのは、俺のじっちゃん。言っとくが、じっちゃんは全く魔法が使えねーぞ」
「え?」

 黒幕は魔法大国ネカルタス最強の魔法使いの親族ですって?
 けど魔法が使えないなんてありえる?

「よくある話だぜ? 魔法使いの家系なのに魔法が全く使えねーってんで迫害され続けた結果、恨みをもっての犯行ってやつだ。王道だろ?」
「魔法が使えないのに、どうやって魔法薬作って魔法陣用意するのよ?」
「魔石だ」

 魔法が使えない人間でも使える便利なアイテム。
 大陸に点在していた魔石は全てネカルタス王国が回収し厳重に保管、魔石が採れる地域はネカルタスが管轄しているのに?

「どうして魔石を持ってるの」
「東の山脈で採れるぜ」
「採れたとしても山の東側でしょ? それに東の大陸とは取引がなかったはず」

 仕事上、輸出入については把握している。東の巨大な山脈の西側で魔石が採れるとは聞いていない。あるとしたら山脈東側だ。けど山を越えられない私たちに入手はほぼ不可能、東側は輸出に消極的で、小国が多く争いばかりというのもあって交易の記録はない。

「何事も例外はある。東の連中が魔石をじっちゃんに渡して逃亡の手助けまでしたって感じだな」

 そして逃げきってセモツ国へ亡命した。
 東側の要求は小国同士の争いの鎮火らしいのだけど、ヴェルディスの祖父がそれを解決したかは分からない。そもそも東側の人間とどうやって会う? やりとりできないはずなのに?

「じっちゃんの若い頃だと規制が緩くて外とやりとり出来たんだよ。で、じっちゃんは魔法が使いたくて魔石の研究に熱心だったわけだ」

 けど魔法大国ネカルタスが管轄する魔石はそう簡単に触ることはできない。だから手に入る可能性のある東側にアプローチした。

「逃亡した御祖父さまを追わなかったの?」
「それ以上は世界のパワーバランス的にアウト」
「またそれ?」

 世界をおかしく変えないためのルールは、ネカルタス側と存在すらも知らない精霊王と使者である魔物と話して決めたらしい。
 今、これだけの惨状が起きているのに?
 単純に怒りがこみ上げた私を不遜な態度で見返して「落ち着け」と言ってくる。民が傷ついて落ち着いていられるわけないでしょ。

「……自ら出てこないのは御高齢だから?」
「それもあるが、単純に魔石程度じゃ俺を倒せねーだけ」
「どっちにしたってセモツ国に強力なカードがあることに変わりはないわ」

 むしろ自身の年齢を考えて動き出している可能性がある。手負いの獣状態で動いているなら厄介だ。

「すぐに陛下に手紙書かないと。ヴォルム……って……」

 そうだ。
 一緒に来れなかったんだ。
 護衛としていつも立つ斜め後ろを向いても誰もいない。
 視線の先がひどく広い空間に感じてしまう。

「そっ、か……」

 いるのが当たり前だったと気づかされる。今まで六年間ヴォルムが私の側にいないなんてことはなかった。
 戦場に出ても側で戦ってくれていたし、こうした時は何も言わずに紙とペンを出してくれた。

「ヴォルム……」

 ああ、だめね。
 胸が苦しくて息が詰まる。
 キルカス王国で感じた時と同じような痛みだった。
 あの時はずしっと重かったけど、今回のはぎゅうぎゅうに絞められていく感覚でこっちもこっちで辛い。

「ごめん。紙とペンを貸して」
「おー」

 で、どーだ? と揶揄う顔で問われる。

「何がよ」
「あいつがいなくてどーだって」
「きくわけ?」

 その気になれば私の感情もなにもかも全部魔法でみえるくせに。

「自覚ってのが必要だろ」

 今は追及しないでほしい。この瞬間だってざわざわした感覚を持て余しているのに。
 ヴォルムがいる当たり前の安心感がどこにもない。
 ひどい喪失感だった。久しぶりに疲れを感じる。

「今この場で言う流れじゃないでしょ」
「いや、いいだろ」

 もう、意地悪なんだから。

「……」
「……」
「……淋しいわ」

 良く言えましたとばかりのいやらしい笑顔を向けられた。
 妙に癪に障る。

「そんなタマじゃねーのにな」
「よく言われる」
「けど、そうしたディーナにとっての弱味みたいな部分があいつは大好きなんだろ」
「揶揄わないで」

 こっちは意外と真面目だぜと肩を竦めた。

「そーだ」

 身を乗り出してヴォルムのネックレスに人差し指を触れた。見た目変化なし。

「何したの?」
「仕掛けた」

 最強の魔法使いの仕掛けるとか怖いんだけど?

「安心しろ。ディーナにはなにもない」
「ヴォルムにはなにかあるわけ?」
「まー、今頃焦ってんだろーな」

 不遜に笑う様はひどく楽しそうだった。ヴォルムが可哀想。

「それはそうと」
「なに?」 

 話は変わるがと言うヴェルディスの顔が妙にウキウキしているように見える。
 またなんかおかしなこと考えてるんじゃないでしょうね?

「ディーナ、うちと結婚する気あるか?」

 ヴォルムとのことを散々訊いといてなに言ってるの?
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