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20話 街中デート。ソッケ王国での出会い

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「想定通りかな? 思ってたよりも落ち着いてるかもね」
「はい」

 見たところはいつものソッケ王都モンカルだ。細かく見ていけば物の仕入れがない店や閉業している店もあるけど、話を聞く限り一時的のもののよう。平民中心の市井より貴族界隈が荒れてそうね。城を出る前に輪になってざわついてるのがいくらかいたし。

「どういうことですか?」

 と、険しい色を滲ませた声色の女性の声が耳に入った。

「言葉通りだ。女が前に出るなんてありえない。第二王子殿下の元婚約者だってそうだ。政に女がでしゃばるから今こうして国が混乱するんだろう」
「違います! シャーリー様がいなくなったから混乱してるんです! シャーリー様がいたからこの国は立ち直ってきてたのに!」
「そんなわけあるか! お前もいい加減そんな子供の遊びさっさとやめればいいのに」
「ほっといてください! それにもう婚約者でもないんだから私に関わらないでください!」
「なんだと?!」

 男性が腕を上げてその拳を女性目掛けて振り抜く。

「やめなさい」

 男の拳を左手で受け止める。いきなり割って入った私に驚く二人。男女のいざこざに首を突っ込まない方がいいと思うけど聞き捨てならなかった。
 シャーリーを悪く言った。そして目の前のこの彼女を悪く言った。最後に拳の使い方だ。

「部外者が口を挟むな」
「嫌ですね」
「は?」
「シャーリーを悪く言う輩を見過ごすことなんてできない」

 ぎりっと左手に力をいれると痛みに眉を潜め手を引っ込めた。

「シャーリーの功績を知っているの?」
「は?」

 災害復興、国交改善、経済立て直し、商売をしていれば現場に出てきていた彼女を知ってる人間の方が多いはずなのに、とことん義妹の広めた悪女というイメージが浸透している。

「今後私の前でシャーリーを悪く言わないでくれます?」
「なにを」
「それに三国共通していると思いますが、男女関係なく職を得られる環境です」
「それは」
「あと人に暴力振るう時はそれなりの覚悟を見せるべきです」

 視線鋭く相手を見る。憂さ晴らしや都合が悪くて殴るような人間には大概覚悟がない。
 だからこうして私が睨めば引いてしまう。私の背後にいるヴォルムに視線を送って、彼が私に注意もせずただ見ているだけであることにも危機感を抱いたらしい。もごもごしながら男は去っていった。
 振り向き女性に怪我の確認をすると何もなかったのでうまいとこで仲裁に入れたよう。よかったよかった。

「ごめんね。どうしても見過ごせなくて」
「いえ、助かりました」
「シャーリーのこと良く言ってくれる人に悪い人いないし」
「貴方もシャーリー様のことを御存知なのですか?」
「うん、すごく仕事できるし真面目で可愛い子だよね」
「ええ! 素敵な方なんです! 誰よりも努力家で優しくて!」

 わかるー! と盛り上がる。
 彼女はエーヴァと名乗った。私もヴォルムもファーストネームだけ伝え、少し立ち話をすると彼女はこれからすぐにでも海上にある諸島へ行こうとしていたらしい。
 けど今の状況だとソッケ王国の人間は入れず困っていると。
 なるほど。諸島領地リッケリは我が国ドゥエツが所有しているからソッケ王国との今の関係を考えれば無理もない。

「ヴォルム」
「はい」

 なぜ持っているか分からないけど、彼は紙とペンを出した。ペンはテュラが作ったインクに浸さなくても書けるもので携帯するのに便利で重宝している。本当ヴォルムは私のしたいことにすぐ対応してくれるわね。

「?」
「ちょっと待ってね……よし」
「これは……」
「私の名前があるから通るよ」
「え?」

 私のサインつき、諸島リッケリへの入港許可願いだ。私の名は当然通ってるし、サインが本物かどうかもすぐ分かる。

「あ、ありがとうございます!」
「いいのいいの。シャーリーを良く言ってくれるなら喜んで」

 シャーリー様は美しく完璧な女性ですと主張するエーヴァにそうだよねーなノリで頷きあう。話の分かる子最高かよ。

「ディーナ様……よければこれを受け取ってください!」

 小さな箱を出し開けてくれると細かい細工で作られたブローチだった。
 これは三国でしか見ない職人の手によって作られる貴重なものだ。彼女の指先を見るとこの細工を施す際にできる指の皮の厚みが見えた。

「……これ、貴方が作ったの?」
「は、はいっ。まだまだ未熟ですが」
「ううん、すごく精巧で綺麗。これ、伝統工芸品だから作れる職人なんて片手ぐらいの数しかいないでしょ」
「いえ……本当はきちんとしたお礼をすべきなのですが、生憎持ち合わせがそれぐらいでして」
「いやいや最高だよ! 嬉しい!」

 三国間においてこの細工のものは作れる人間がほぼいない。だから各国数える程しかいない職人は国宝として権利等の保護をかけている。
 職人の氏名は把握してるけど、目の前の女の子は指定職人じゃなかった。

「こんなところに逸材が!」

 ディーナ様抑えてください、と耳元で囁かれる。テンション爆上げのまま抱きつきそうだった。いけないいけない。正式に王陛下に国宝指定の推薦状だすぐらいにしておかないとね。

「で、でもまだ色が綺麗に出せなくて……細工も歪みが出てしまうんです」
「そうなの? 私、ここの色合いすごく好み。ここの模様も」
「あ……」

 ごにょごにょしつつも「私も気に入ってる所です」と聞こえた。この遠慮具合だと周囲の理解がなかったパターンかな? さっきの糞野郎の言葉からも鑑みるに女性がそういうことをするものではないという環境にいた系列だろう。ここにきて何がきっかけかは分からないけど、本格的に取り組もうとした。
 諸島に行きたい理由にやっと合点がいったわ。

「バーツに会いたいのね」

 バーツ・フレンダ・ティルボーロン。
 諸島領地リッケリを管轄している領主だ。年は私より六歳ぐらい上だったかな。ドゥエツ国民だけど、出身はソッケ王国だからエーヴァも馴染み深いのかもしれない。

「はいっ! 弟子入りしたいぐらいティルボーロン様の作品は素敵で!」
「ヴォルム」
「はい、こちらを」

 再びお手紙作りだ。

「これ、領主に会ったら渡して。執事や侍従に渡しても大丈夫」
「え? は、はい」

 あの男もなかなか曲者だから会うのも大変だろう。国宝に値する職人には相応の対応をするのが私のお仕事だ。勿論手紙に書いた言葉は「この子を弟子にして!」だ。

「ディーナ様は実はものすごい方なのですか?」
「んー? まあ顔が利くかな」

 手紙の署名がディーナという名前だけだし、さすがに隣国の市井までは名は通ってないだろう。

「こんなに……なにもかも、なんてお礼を言えば!」

 全然いいのに。エーヴァの貴重な作品頂けただけで僥倖だし。

「このブローチで充分。自慢にするわ」
「ありがとうございます」

 さて、旅立ちも急ぐだろうけど、もう一つお願いすることにした。

「エーヴァ、もう一つ聞きたいんだけど、近くに美味しいご飯屋さんある?」
「はい!」
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