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14話 隣国の王子が悪役令嬢を奪いに来た

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「ソッケ王国、大丈夫なの……」

 束の間もなく、すぐ側の大きな扉が開かれる。
 当たり前のように入って来る二人の男女。本当に来たわ。

「時間がかかりすぎだぞ! 何をしている?!」

 早く連れてこいと言わんばかりだ。というか、この態度なに? 相当問題あるよね?
 これ本当にテュラが言ってた乙女ゲームの展開、追放したのに連れ戻して愛妾だったか側妃だったかにして働かせようとするやつ?

「……ソッケ王国王子殿下」
「さっさとしろ! 俺を待たせるのか!」

 態度や言動の悪さは社交界で噂によく聞いてたけど、ここまでとはね。謁見の間に許可なく入り、この暴言だけで強制送還できるレベルよ。
 私は名乗りをあげる。すると王子は側にいた自分派の外交担当と壁を見て首を傾げた。

「なんだ? なにがあった?」
「王子殿下! 今はお戻り下さい!」
「ふざけるな! あの女を連れ帰らず戻るなどありえん! あいつはどうした!」

 シャーリーをあいつ呼ばわりとは。
 隣の女性は王子にしな垂れかかって周囲をきょろきょろ伺っている。

「ソッケ王国王子殿下に申し上げます」
「なんだ」

 さっき話したことを再び説明した。当然納得なんてしないだろうけど、言うべきは言っておかないとこちらの落ち度になるからね。

「……そんな。あたし、おねえさまが心配で」

 義妹が瞳を伏せて話す。なんて姉想いなんだと感動しながら抱きしめる王子を見て、テュラの言う通り過ぎてちょっと引いた。

「お前では話にならん。さっさと別の者を呼んで来い」

 と言って謁見の間を奥に進む王子と義妹をゆっくりとした足取りで追う。私だって最低限礼儀は尽くすのにこの二人は何かな?
 するとすぐに私の後ろに控えていたヴォルムが立ちはだかった。

「なんだお前は」
「そちらの諸外国対応責任者のディーナ・フォーレスネ・ループト公爵令嬢の護衛を務めさせて頂いております。ヴォルム・ローグル・リーデンスカップと申します」

 そして加えてこれ以上許可なく進むのをやめるよう言う。さすがヴォルムだ。こういうところは度胸がある。相手は王子でも正式な手はずを踏んでない輩は騎士として排除オッケーが我が国ドゥエツの公的ルールだからね。

「あら、あなた」

 義妹がするりとヴォルムに近づく。その手で触れようとする義妹をヴォルムは少し身体をずらして避けた。意外と潔癖ね。

「ルーラ、どうかしたのか?」
「いいえ。あたしの護衛にぴったりだと思って」

 なかなかの発言だ。他国の護衛を自分の護衛にしようって? ヴォルムは元々王太子付で他国に寄越すなんてことさすがの殿下ですら許さない。この子ってばぐいぐいくるわね。

「私はループト公爵令嬢専属ですのでありえません」
「ブフォ」

 テュラが笑うのも無理ない。私もちょっと笑った。だってこんなはっきり断るなんて普通はしない。でもいい気味だからよしだ。
 振り返り私を見た義妹はわざとショックを受けたかのような所作で王子にしな垂れかかると、王子は案の定怒声を浴びせてきたた。

「王太子共々無礼な奴ばかりだ!」
「無礼はそちらでしょう」

 声が通る。謁見の間、最上部に位置にする場所に視線が集まった。王太子殿下だ。

「王太子殿下」
「シャーリーのことと聞いて来た。残念だが彼女をソッケ王国に渡す気はない。彼女はこの国の民で私の婚約者だ」

 途端、義妹が動く。

「インスティンス様、あたしずっとおねえさまのことが気がかりで……ぜひ一目お会いできないでしょうか」

 すっごい。他国の王太子をいきなり名前呼びだよ。

「正式な手続きを踏んでいない以上お帰り頂きたい」
「そんな……あたし、インスティンス様ともっとお話がしたいのです。おねえさまのこともあなたのことも」

 そちらに行ってもよろしいですかと言いながら既に歩みを進めている義妹と王太子殿下との間に入った。少しずつ立ち位置変えといてよかった。

「これ以上許可なく進まないで頂けますか? エネフィ公爵令嬢」
「まあまたあなたなの」

 おうよ、また私だよ。
 この子も一発お見舞いする系かな。敢えて殿下に近づかせるのも手だけど、それはリスクが高い。

「ルーラ、帰りなさい」

 もう一つ、凛とする声が響いた。
 振り返るとシャーリーが背筋よく殿下の隣に立っている。トラウマ相手にここに来たっていうの。

「まあおねえさま! お会いしたかったです!」

 今度こそ感動の再会とばかりに駆けだす義妹の肩に手を置いて止めた。一歩も踏み出せないことに戸惑いを出してこちらに視線を寄越す。彼女にだけ聞こえるよう囁いた。

「進むなと言ったよね?」
「っ!」

 関節系をせめれば歩くことだって止められるんだから。純粋な力も大事だけど、抑える場所も大事。

「わたくしはソッケ王国に戻る気はありません。王子殿下、ルーラ、二人ともお帰りになって下さいませ」
「なんだと? 俺が折角お前を側妃として受け入れてやると言ってるのになんて奴だ!」

 テュラの言う通りの展開だ。笑える。

「シャーリーは私の妻となり王太子妃となる。後々婚姻の挨拶にそちらに伺おう」
「なんだと? こいつの為に我が国でやっていたことをやらせてやるのだ。勝手なことをするな」
「どっちが勝手よ」
「ディーナ様、抑えて」

 私の斜め後ろに戻ってきたヴォルムが囁く。
 手に力を入れすぎて掴んでいた肩がミシっと音をたてた。抑えていた義妹の肩から手を外すと彼女は怯えた様子で王子の元へ戻る。
 私は終始笑顔だ。外交はにこやかにね!

「王太子妃に対する拉致予告ですよ。ソッケ王国王子殿下」
「なんだと?」
「正式な手順を踏まず自国に連れるなら拉致ですし、シャーリー嬢に干渉するということは我が国ドゥエツに対する内政干渉にもなります。これ以上はお控え頂けますか?」
「何を言っている! 元々あいつは俺のものだ! どう扱おうと俺の勝手だろう!」
「不敬罪も追加してほしいと?」
「なんだと!」

 王太子妃になる人間に対して言う台詞ではない。王陛下目の前にして同じこと言えるの?

「ええい、そこを通せ」

 自らの剣を抜いて私に切っ先を向ける。そこまでやらないと思っていた。周囲も少しばかり緊張する。

「王族が他国の人間に剣を向けることがどういうことか分かっているのですか?」
「黙れ!」

 斜め後ろのヴォルムが近づく気配を察知してすぐに動いた。まあ間に合わないけどね。
 一歩前に進むと向けられた剣が振りおろされる。それを避けて剣の側面を殴った。いい音はしたけど壊れない。手加減したとはいえ中々の上物ね。

「アウト」

 剣が殴られたことで王子の身体が外側に振られる。バランスを崩したところをさらに距離を詰め、左拳を下から上へ垂直に振り上げた。
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