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6話 婚約破棄受理と護衛の再申し出
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「うああああディーナちゃあああんんんんん!!」
「御父様、落ち着いて下さい」
入城した父が私を見た途端、泣き叫び始めた。まあこの人の情緒はいつもこんな感じだから慣れている。
「ひどいよおおおお! 僕の可愛いディーナちゃんが婚約破棄なんてさあああ!! 内紛する?」
「しないからそういうこと言わないで下さい」
父を前にした時、私は結構常識人扱いされる。それかこの父だからこの娘なのかと納得される。
「ディーナちゃあああんんんんん」
「だから気にしてないって言ってるじゃないですか」
「前から聞いてるけどやっぱりディーナちゃんが心配なんだよおおお」
「気持ち嬉しい。ありがと、パパ」
「ディーナちゃあああんんんんん」
可愛い! と叫んでいる。滅多にしないパパ呼び一発で機嫌直るからちょろい。
私はこの情緒豊かすぎる父親と十年前に亡くなったおっとりめの母親の元で奔放に育った。そりゃもう奔放に。お陰様で幼少期から自分が他の貴族と根本的に何か違うことはすぐに理解した。
それでも私は私なのでそれを貫き続けているけどね。
「両陛下に会えそうですか?」
「うん……いく……がんばる」
子供並みの語彙力になってるけど、まあいいか。
私は父と共に両陛下の待つ部屋に入った。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
部屋には王太子殿下もいて総勢五人。
護衛や側仕えを下がらせている。王陛下の手元には予め署名済みの婚約破棄に関する書類があり、両陛下は顔色はあまりよくない。
「……話は息子から聞いている」
重々しく王陛下が話し始める。
「今後の縁談は望まず領地を賜りたいと」
「はい」
「引き継ぎに三ヶ月も城に通い続け、その後に退官すると?」
「妥当な期間かと存じます」
今私の周りにいる面子については引継ぎはほぼ必要ないぐらい仕事について理解している。問題は王太子妃の仕事、エネフィ公爵令嬢への引継ぎだ。彼女への引き継ぎは人を介してやることになるだろう。エネフィ公爵令嬢は私の存在を知らない方がいい。まあ彼女なら引き継ぎなくても問題なくできそうだけど。
「いやいやディーナ嬢」
王陛下が頭を振る。
あれ? 予想してた反応といまいち違うな。
「理不尽だとは思わないのか?!」
「理不尽?」
「そうです!」
今度は王妃が口を開いた。二人の頭の上には「なんで? どうして?」な疑問符が見える。
「婚約破棄前提で婚約者に選ばれるなんて失礼だろう!」
「あ、そこから聞いてます?」
キレ気味に「そうだ」と頷かれた。
「婚約してからずっと王太子妃教育を受けつつ政務や外交まで担ってきたのよ? 並みの令嬢では耐えられないわ!」
「いやあ勉強と仕事結構好きなんですよねえ」
「息子からは良い友人関係だと聞いているが、友人でもこんなことはさせないだろう!」
その方が隠れ蓑になっていいから、なんて言わないほうがいいわね。知ってそうだけど。
王太子妃候補になってから婚約者になるまでの四年、正確に言うなら候補筆頭になるまでの二年は殿下と念密な計画をたててきた。全てはこの日の為だ。
「挙げ句いきなり連れてきた令嬢と結婚したいから破棄なんておかしい! たとえ実は昔から好きだったとしても許されることではない!」
「そうよ! ディーナ嬢の十年が無駄になったのよ!」
「無駄にはなっていません」
「そんなこと」
「無駄ではありませんよ。実際私は楽しんでましたし、いい仲間にも出会い恵まれた中でやってました。可哀想と思われるのは構いませんが、そう言われるのは困ります」
「うわあああディーナちゃあああんんんんん」
「御父様、少し黙ってて?」
両陛下がテンション高いから父まで情緒おかしくなってる。あんまり感情入り乱れると収拾大変だから落ち着いて欲しい。
「ほ、本当に……」
「そうですよ。いつも陛下に申し上げてました」
「確かに……」
両陛下は私のことを気にかけてよく話しかけてくれていた。だから仕事が楽しくてやってることも、王太子妃教育も興味深く学んでいたことも話している。それが真実だと理解していてなにより。話が早い。
「そ、それに……息子にしろディーナ嬢にしろ対応が早すぎる」
「市井ではエネフィ公爵令嬢が好意的な印象で広まり、貴方のことが誤った情報だったと周知されていたわ」
いくつプラン考えたと思ってるのよ。市井貴族関わらず人脈と対策考えてきたんだから。
「念の為、近日中に市井に話をしに行く予定です」
「そ、そうか」
そういう部分も理不尽すぎやしないかと王陛下は囁くけど、私は好きでやってるだけだ。円満に国がおさまればそれでいいじゃん。円満におさまれば、私は先々のスローライフも安泰だし、内紛なく国が続けば私の周囲の優しい人たちが幸せに生きられる。一石二鳥どころか一石二十鳥な勢いよ。
「……分かった。ループト公爵家の要望には全て応えるつもりだ。今すぐとは言わないが、ディーナ嬢も公爵もこちらに要望を遠慮なくだしてほしい。領地については候補をいくつか出しておこう」
「はい」
「ありがとうございます」
よし、要望ゲットだ。
「ディーナ嬢の功績を考えると領地一つでは足りないぐらいだな……島一つぐらい余裕では?」
「陛下、領地経営なんてせず、ゆっくりすごせるような所がよろしいのでは?」
「成程」
なにやら両陛下二人仲良く話し合ってるけど、どこでもいいのが本音なんだけどなあ。ぶっちゃけ国内の領地はあらかた整備し終わってるからどこいっても同じぐらい快適だし。領主なしの場所も私の頭に入ってる。どこいっても片手ワイングラス傾けながらのんびりできるよって伝えるべき?
すると王太子殿下が自分が言うと目だけで訴えてきた。なるほど、お任せしようっと。
「では陛下。婚約破棄の受理をして頂けますね?」
「ああ」
「エネフィ公爵令嬢の耳にはくれぐれも入らないようお願いします」
「勿論だ」
イージーゲーム! 今まで両陛下と関係を築いてきたのも良い結果になったわね。
「ん?」
扉を開けて五人仲良く出たところで待ち構えている人間がいた。
「ヴォルム?」
彼は両陛下の前で礼をとり、話す許可を得て顔を上げた。
「ループト公爵令嬢の護衛を引き続き担いたいと存じます。陛下及び殿下の許可を頂きたく参りました」
「え、今?」
「はい。ディーナ様の婚約破棄が受理されてすぐにと思いまして」
そんなに護衛がしたいんかい。
「御父様、落ち着いて下さい」
入城した父が私を見た途端、泣き叫び始めた。まあこの人の情緒はいつもこんな感じだから慣れている。
「ひどいよおおおお! 僕の可愛いディーナちゃんが婚約破棄なんてさあああ!! 内紛する?」
「しないからそういうこと言わないで下さい」
父を前にした時、私は結構常識人扱いされる。それかこの父だからこの娘なのかと納得される。
「ディーナちゃあああんんんんん」
「だから気にしてないって言ってるじゃないですか」
「前から聞いてるけどやっぱりディーナちゃんが心配なんだよおおお」
「気持ち嬉しい。ありがと、パパ」
「ディーナちゃあああんんんんん」
可愛い! と叫んでいる。滅多にしないパパ呼び一発で機嫌直るからちょろい。
私はこの情緒豊かすぎる父親と十年前に亡くなったおっとりめの母親の元で奔放に育った。そりゃもう奔放に。お陰様で幼少期から自分が他の貴族と根本的に何か違うことはすぐに理解した。
それでも私は私なのでそれを貫き続けているけどね。
「両陛下に会えそうですか?」
「うん……いく……がんばる」
子供並みの語彙力になってるけど、まあいいか。
私は父と共に両陛下の待つ部屋に入った。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
部屋には王太子殿下もいて総勢五人。
護衛や側仕えを下がらせている。王陛下の手元には予め署名済みの婚約破棄に関する書類があり、両陛下は顔色はあまりよくない。
「……話は息子から聞いている」
重々しく王陛下が話し始める。
「今後の縁談は望まず領地を賜りたいと」
「はい」
「引き継ぎに三ヶ月も城に通い続け、その後に退官すると?」
「妥当な期間かと存じます」
今私の周りにいる面子については引継ぎはほぼ必要ないぐらい仕事について理解している。問題は王太子妃の仕事、エネフィ公爵令嬢への引継ぎだ。彼女への引き継ぎは人を介してやることになるだろう。エネフィ公爵令嬢は私の存在を知らない方がいい。まあ彼女なら引き継ぎなくても問題なくできそうだけど。
「いやいやディーナ嬢」
王陛下が頭を振る。
あれ? 予想してた反応といまいち違うな。
「理不尽だとは思わないのか?!」
「理不尽?」
「そうです!」
今度は王妃が口を開いた。二人の頭の上には「なんで? どうして?」な疑問符が見える。
「婚約破棄前提で婚約者に選ばれるなんて失礼だろう!」
「あ、そこから聞いてます?」
キレ気味に「そうだ」と頷かれた。
「婚約してからずっと王太子妃教育を受けつつ政務や外交まで担ってきたのよ? 並みの令嬢では耐えられないわ!」
「いやあ勉強と仕事結構好きなんですよねえ」
「息子からは良い友人関係だと聞いているが、友人でもこんなことはさせないだろう!」
その方が隠れ蓑になっていいから、なんて言わないほうがいいわね。知ってそうだけど。
王太子妃候補になってから婚約者になるまでの四年、正確に言うなら候補筆頭になるまでの二年は殿下と念密な計画をたててきた。全てはこの日の為だ。
「挙げ句いきなり連れてきた令嬢と結婚したいから破棄なんておかしい! たとえ実は昔から好きだったとしても許されることではない!」
「そうよ! ディーナ嬢の十年が無駄になったのよ!」
「無駄にはなっていません」
「そんなこと」
「無駄ではありませんよ。実際私は楽しんでましたし、いい仲間にも出会い恵まれた中でやってました。可哀想と思われるのは構いませんが、そう言われるのは困ります」
「うわあああディーナちゃあああんんんんん」
「御父様、少し黙ってて?」
両陛下がテンション高いから父まで情緒おかしくなってる。あんまり感情入り乱れると収拾大変だから落ち着いて欲しい。
「ほ、本当に……」
「そうですよ。いつも陛下に申し上げてました」
「確かに……」
両陛下は私のことを気にかけてよく話しかけてくれていた。だから仕事が楽しくてやってることも、王太子妃教育も興味深く学んでいたことも話している。それが真実だと理解していてなにより。話が早い。
「そ、それに……息子にしろディーナ嬢にしろ対応が早すぎる」
「市井ではエネフィ公爵令嬢が好意的な印象で広まり、貴方のことが誤った情報だったと周知されていたわ」
いくつプラン考えたと思ってるのよ。市井貴族関わらず人脈と対策考えてきたんだから。
「念の為、近日中に市井に話をしに行く予定です」
「そ、そうか」
そういう部分も理不尽すぎやしないかと王陛下は囁くけど、私は好きでやってるだけだ。円満に国がおさまればそれでいいじゃん。円満におさまれば、私は先々のスローライフも安泰だし、内紛なく国が続けば私の周囲の優しい人たちが幸せに生きられる。一石二鳥どころか一石二十鳥な勢いよ。
「……分かった。ループト公爵家の要望には全て応えるつもりだ。今すぐとは言わないが、ディーナ嬢も公爵もこちらに要望を遠慮なくだしてほしい。領地については候補をいくつか出しておこう」
「はい」
「ありがとうございます」
よし、要望ゲットだ。
「ディーナ嬢の功績を考えると領地一つでは足りないぐらいだな……島一つぐらい余裕では?」
「陛下、領地経営なんてせず、ゆっくりすごせるような所がよろしいのでは?」
「成程」
なにやら両陛下二人仲良く話し合ってるけど、どこでもいいのが本音なんだけどなあ。ぶっちゃけ国内の領地はあらかた整備し終わってるからどこいっても同じぐらい快適だし。領主なしの場所も私の頭に入ってる。どこいっても片手ワイングラス傾けながらのんびりできるよって伝えるべき?
すると王太子殿下が自分が言うと目だけで訴えてきた。なるほど、お任せしようっと。
「では陛下。婚約破棄の受理をして頂けますね?」
「ああ」
「エネフィ公爵令嬢の耳にはくれぐれも入らないようお願いします」
「勿論だ」
イージーゲーム! 今まで両陛下と関係を築いてきたのも良い結果になったわね。
「ん?」
扉を開けて五人仲良く出たところで待ち構えている人間がいた。
「ヴォルム?」
彼は両陛下の前で礼をとり、話す許可を得て顔を上げた。
「ループト公爵令嬢の護衛を引き続き担いたいと存じます。陛下及び殿下の許可を頂きたく参りました」
「え、今?」
「はい。ディーナ様の婚約破棄が受理されてすぐにと思いまして」
そんなに護衛がしたいんかい。
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