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4話 婚約破棄と悪役令嬢救済を決めた理由

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「私が決めたから」

 婚約破棄前提で婚約したことも、王太子殿下とエネフィ公爵令嬢が結ばれるにあたって環境を整えることも市井も政治も含めて間に入って取り持つことも全てだ。
 面倒を見ると決めた。粛々と遂行するだけだ。

「ディーナ、ヴォルムが聞きたいのはお前が決めた理由だろ」

 テュラがヴォルムの助け舟を出した。珍しい。

「あ、そういう」
「おう」
「最初は家の為よね。母が亡くなってからのお金稼ぎと私の婚姻のことでに負担をかけたくなかったから早くに相手がほしかった」

 十年前、母が亡くなって父はそれはもう荒れた。丁度その頃は学院通いが目の前に迫っていたのと、同時期に妃候補を探すべく多くの令嬢を王城へ呼び王太子はお相手探しをしていた。
 けど殿下は初めて顔を合わせた時に「自分は十八歳ぐらいにソッケ王国に訪問したら運命の出会いを果たし、その女性と結婚する。だから自国の女性との婚姻は控えたい」と言ってきてびっくりしたものよ。どうやらテュラを賓客として招いた時に殿下自身の運命について言われたらしい。
 殿下は傷つく女性がいるかもしれない未来を考え自身の婚姻に悩んでいた。信じていないと言いつつもテュラの言葉に翻弄されている。その事情を聞いて考えた私が仮初の婚約の話を持ち出して大成功したわけ。

「私って割と一人が好きというか、一人でいることが当たり前のように見られてる節があって、それなら仮初婚約して破棄後に一人スローライフしよってなったわけ。それを殿下に伝えて、領地を賜る代わりに殿下が然るべき人と結婚するまで他の女性と結婚できないよう婚約者として務めることになった。そんなとこね」
「ディーナ様自ら提案されたという事ですか」
「そう。妃候補筆頭にしてもらって最有力になった後に正式な婚約者となる。殿下がソッケ王国に行ってシャーリー嬢と出会って愛を育み、然るべき時まで待機。そして待機解除が今ってことよ」

 よくできた長期プランだったと思う。後はそうね。他に理由をつけるなら。

「なにより、この国が好きだから、かな」
「……」
「民も周辺国も含めてね。私の好きな場所で好きな時間を過ごす為だから、このぐらいは易いわけ」

 結構真面目に応えたと思う。家の財政の為、父の安心の為、一人で過ごす時間と場所の確保。

「……」
「納得できない?」
「いいえ。ディーナ様は嘘をつかないですし、そう仰ると思いました」
「よく分かってる」
「ええ。なんでも抱えて助けてしまう貴方の言う事ですから。けど、婚約破棄は未婚の令嬢なら相当デリケートな問題ですし、ディーナ様の功績が違う人間の功績になるのも嫌なんです」
「相変わらず優しいね」

 ヴォルムは私への理解が深いけど、私が気にしてないことを過保護ってぐらい気にする。

「六年も一緒だったからよく分かってるわね」
「ん? 六年?」

 テュラが首を傾げる。ヴォルムを見ても表情は変わらなかった。

「私の護衛になってから六年でしょ? 私が候補だった時は殿下付きじゃなかったっけ?」
「あ~ま~そ~だけどなあ?」
「ん?」

 意味深な視線をヴォルムに寄越すテュラに首を傾げる。

「ヴォルム、私たちもっと前に会ってた?」
「……ディーナ様の記憶になければ会ってないのでは?」

 それって会ってるってことじゃん。同じ王城にいたから可能性は高い。

「頑張って思い出すわ」

 苦笑した後、テュラに視線を戻すと面白そうにニヤニヤしていた。これもいつものことだ。
 なにも言わないからきいても無駄ね。話を変えよう。

「引継ぎしていい?」
「いいぜ」

 テュラには市井貴族間問わずにで出ていた原因不明の体調不良を現場を知る騎士団長と医療総監と共に引き続き対策を立ててもらうことだ。

「あれな! 流行り病じゃなかったぜ」
「何か分かったの?」
「体内の魔力暴走だ」
「え? 魔法が使えない人間がほとんどだったわよね?」
「魔法が使えなくても体内に魔力はあるんだよ。で、今んとこ追跡できねえ」

 魔法大国ネカルタスでも五本の指には入る魔法使いのテュラが魔法の痕跡を辿れないなら中々厄介な案件になる。

「魔力暴走は今後も要調査ね……殿下、ソッケ王国への災害派遣は?」
「一時中断になったよ。シャーリーをその場で保護したのもあるから」

 エネフィ公爵令嬢とのことが落ち着くまではソッケ王国と距離を置く。これもプラン通り。
 あちらからしたら自国の犯罪者を擁護されるのは国として困るだろう。しかも元々冤罪。まあ出方次第では総力を挙げて殴るけどね、もちろん私が物理的に。

「最速で結婚しちゃいましょ」

 つまり今。今すぐにだ。

「そうだね。早まってしまった分、引継ぎは大丈夫かい?」
「私を誰だと思ってるんですか」
「さすがディーナ」

 当初はかなり遠慮が見られた殿下も今では割と妃候補の頃と同じぐらいの態度に戻ってくれた。ヴォルムも私をそういう可哀想な目で見ると本当に可哀想な存在になるからやめてほしい。けどこればかりは何度私が言おうと本人の気持ちに落としどころをつけないと難しいだろう。
 実際ヴォルムはまだ拗らせているしね。

「ファンティヴェウメシイ王国が大陸のセモツに勝ったから大きな戦争もないし丁度いいわ」

 二年前、テュラの母国ネカルタスの西の隣国ファンティヴェウメシイと二国から見たら南、大陸真ん中にある国セモツとで戦争が起きていた。戦争拡大でこっちにまで影響あるかと思っていたけど終結したおかげで懸念事項が減ってなによりよ。

「相変わらず仕事中毒者だな」

 テュラが笑う。自覚あるけど誇りだからグッドポーズを返すだけだ。テュラも同じポーズで応えるとこまでセットね。

「お、そうだ。折角だから今日夜飲むか?」

 本来、未婚の貴族の男女がするものでないけど、ここにいる面子はあまりそういったことに頓着がない。

「残念だけど今日は先約があるわ」
「なんだ夜デートか?」
「デートっちゃデートね」
「なんだよ、もっといいリアクションしろよ~」
「無茶振りすぎ」

 でもこのメンツで飲みたいから約束は取り付けた。折角だしね。

「満月の日にしか会えないとか、かなりロマンスよね」
「ん?」
「……」
「ふふん、私にも可愛い一面があるってこと」
「自分で言うなよ」
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