上 下
163 / 164
2章 神よ、感謝します。けど、ちょっと違う叶ったけどちょっと違うんです。

163話 早く会いたい

しおりを挟む
 何度も名前を呼ばれて、すうっと意識が浮上してくるのが分かった。あ、起きるってこれか。

「チアキ」
「んん?」
「具合が悪いのですか?」
「……あれ?」

 朝、オリアーナが私を見下ろしつつ起こしてくれた。うっわ、美人に起こされるとか朝から役得すぎじゃない?

「今日は止めておきましょうか」
「なにを?」

 ジョギングであることを告げられ、時間を確認したらとっくに走る時間を過ぎていた。まさかの寝坊をしでかすとは。

「いけな、うわ痛っ」

 急いで起き上がると、急な痛みと眩暈が私を襲った。よく知ってるけど、ここ最近はやらかしてなかったのに。

「……飲みすぎましたね」
「そ、そんなことない」

 二日酔いだなんて断じてない。もうお酒に飲まれるのはとっくに卒業している。断じて違う。
 するとオリアーナに溜息を吐かれた。朝から美人に起こされ、朝から美人に溜息を吐かれるとはなかなかどうして贅沢だね。寝坊もたまにはしてみるものだ。

「今日一日休んだらどうです」
「痛みがとれれば問題ないよ」
「では薬を用意させます」

 それまでは寝てるよう、ベッドに戻される。二日酔いで休むというのは私の選択肢ではないのに。クラーレが薬持ってくるとしたら、時間的に始業してしまう。なんてことだ、それは嫌。

「駄目です。許しません」

 オリアーナが過保護!ついでに、めってされた感じがすごくいい!
 ジョギング前に一悶着、登校前にもう一度オリアーナに止められて、私は結局ベッドの中で薬を待つに至った。お酒に飲まれるなんて、父親にもう何も言えなくなってしまう。

「……すっかり忘れてたけど、私返事してない? してないな、うん」

 痛む頭を抱えつつ、昨日の事を思い出した。件の御者と相見えたことで完全にオルネッラの事故の件を弔えたのではと万感の思いでいっぱいになっていた。
 その後の事情聴取でお預けくらったせいで、ご飯とお酒が美味しすぎて、ついつい飲みすぎたのは確か。劇場から出て返事しようなんて思っていた事は、すっかり忘却の彼方だったわけで。決意が鈍る前にさっさと返事がしたいというのが本音ではあるけど。

「早く行きたい」

 私が一人苦しんでいるのを察してか、オリアーナが出てすぐテゾーロが私の隣に寝転がってきた。このわんこは本当お利巧だな。
 よしよしすれば嬉しそうに目を細めてくる。きっとオリアーナが辛い時もこうして寄り添ってあげてたんだろうな、本当いい子。好き。

「オリアーナお嬢様」
「はーい」

 そうこうしている内にやっとクラーレが薬を持ってやって来た。薬を服用すればあっという間に二日酔いが治る。便利すぎる、この世界の薬品。むしろ常備したい。

「ありがとうございます」
「いいえ、お嬢様……しかし」
「はい?」

 クラーレがじっと私を見て、成程とばかりに頷いた後、なんてことない調子で言ってきた。

「顔つきが少し変わりましたか?」
「顔つき?」

 病気というわけではなく、と加えたクラーレは言葉を考え選んで続けた。

「あ、いえ、ソラーレ侯爵令息との件もありますし、当然と言えば当然でしょうか」
「ふむ。顔つき、ね」

 ディエゴとの件と言ったら婚約ぐらいしか思い浮かばない。当然と言えば当然?
 んん?

「私、どんな顔してたんですか」
「え? いえ、そうですね……ただ、とても嬉しそうと言いますか」
「うわ」

 これ以上は結構ですと続きはお断りした。私は顔に出るタイプだったというのか。
 そんな締まりない顔を……あ、割としょっちゅうしてたわ。クールキャラは常時ログアウトだったし。

「はは、気づいてなかったです」
「え?」
「いえ、ありがとうございます」

 よくわかってなさそうなクラーレを見送って、私は学園の制服に袖を通して、いつも通り歩いて学園に向かった。
 自分が傍から見てどんな顔をしているかは、後々オリアーナやエステルにきいてみればいいか。どっちも緩んでるだのなんだの言いそうだなあ。まあそちらよりも、まず最初にやる事は決まっているしね。

「ディエゴ」

 早く会いたいという想いだけが強くなっていった。
 もうこうなってくると、いつもの通学路を歩くなんてできず、軽く走っていた。きっと今の私はゆるゆるの顔をしているんだろう。


* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *


「よし」

 そうして学園に来たら、最初にディエゴに会おうと決めていた。
 迷わず広すぎる裏庭に入って、そう、丁度初めて出会った場所に彼はいた。
 最初の時と同じように、丁度立ち上がって振り向いたところで私とかちりと目が合う。

「チアキ、体調は」
「大丈夫」
「そうか」

 安心したように微笑んだディエゴを見て、言うべき言葉に間違いがない事を確信した。
 眼光の強さは変わらず、その中に私という存在を受け入れた緩さが見え、私はするりと想いを口にすることが出来た。

「好き」
「え?」
「ディエゴが、好き」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】

清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。 そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。 「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」 こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。 けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。 「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」 夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。 「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」 彼女には、まったく通用しなかった。 「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」 「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」 「い、いや。そうではなく……」 呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。 ──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ! と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。 ※他サイトにも掲載中。

婚約破棄の茶番に巻き込まれました。

あみにあ
恋愛
一生懸命勉強してようやく手に入れた学園の合格通知。 それは平民である私が貴族と同じ学園へ通える権利。 合格通知を高々に掲げ、両親と共に飛び跳ねて喜んだ。 やったぁ!これで両親に恩返しできる! そう信じて疑わなかった。 けれどその夜、不思議な夢を見た。 別の私が別の世界で暮らしている不思議な夢。 だけどそれは酷くリアルでどこか懐かしかった。 窓から差し込む光に目を覚まし、おもむろにテーブルへ向かうと、私は引き出しを開けた。 切った封蝋を開きカードを取り出した刹那、鈍器で殴られたような強い衝撃が走った。 壮大な記憶が頭の中で巡り、私は膝をつくと、大きく目を見開いた。 嘘でしょ…。 思い出したその記憶は前世の者。 この世界が前世でプレイした乙女ゲームの世界だと気が付いたのだ。 そんな令嬢の学園生活をお楽しみください―――――。 短編:10話完結(毎日更新21時) 【2021年8月13日 21:00 本編完結+おまけ1話】

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

処理中です...