上 下
125 / 164
2章 神よ、感謝します。けど、ちょっと違う叶ったけどちょっと違うんです。

125話 年齢指定でお馴染みの触手きたわー!

しおりを挟む
ぬるりとした感触が掌を触った。
湖面を見る。透明度の高いこの湖だと底までよく見えるわけで、私の手に絡みつくものも当然綺麗に姿かたちが分かった。
ぬめりのある感触が這い上がって巻き付いてきたので、そのまま勢いよく持ち上げた。
生物の大きさに湖面が大きく揺れて、水しぶきがあがる。

「年齢指定でお馴染みの触手きたわー!」
「は!?」

ディエゴが目を丸くしている。
蠢く触手は私の右腕を捕らえたままだ。そのまま引きずり上げてみせよう。

「待て、危険だ!」
「大丈夫、生け捕りにしよう!」
「馬鹿言うな!」

左腕をディエゴにとられ、そのまま引き寄せられる。ぐらつくこの足場では私の身体は簡単に傾いて彼の腕の中におさまった。ぐっと右腕で腰を抱かれて動けなくなる。
同時、ディエゴは魔法を放ち、そのまま触手が引きちぎられる。

「そんな!」
「あれは危険指定生物だぞ!」

いくらここが全年齢でも生け捕りぐらいは許されるはず。陸地に引き上げて、魔法かけて捕らえておけば、そのまま王都へ引き渡しも可能だというのに。勿体無い、触手の使い方をわかっていないぞ!

「お?」
「しまっ、」

触手が慌てて逃げだした反動で湖面がさらに揺れた。ぐらぐらと激しく揺れて、私はディエゴに抱きしめられたまま湖へ放り出された。
船が転覆したのかと理解したのは、湖の中に身体が完全に沈んでからだった。

「……」

水中、触手はどこにもいなかった。完全に逃げ切ったのか、残念。他に何かいないか見るも、淡水魚がいくらか見えただけで大したことはなかった。
そもそも、ディエゴに拘束されて動けない。濡れるぐらいならいっそ深く潜るダイビングをしてもいいかと思ったけど、それは彼が許さなかった。すぐに魔法を使って近い陸地に移動したから。

「……触手」
「まだ言うか!」

岸辺で水浸しになって座り込んだ私は遠くにある転覆した船を眺めて遠い目だ。貴重なイベントを逃した感が半端ない。というより、年齢指定じゃない場合の触手はどう活躍すべきか。ぎりぎりラインを狙うか、正当なバトルへ持って行くか、他のときめく役割はないか思考を張り巡らせていた。

「まったく何を考えてるんだ」
「触手に想いを馳せてる」
「……ぶれないな」
「ありがと」

呆れて溜息をついてるディエゴは、すぐに大人の対応で、服を乾かしてくれた。ほら、これだけ魔法が便利に使える世界なんだから、水中で触手とバトルしてもよかったんじゃん。でもそれ言ったら怒られそうだから言わないけど。お礼だけ伝えよう。

「ありがとう」
「冷えただろう。まだ水は冷たい時期だ」

彼の使っていた上着をかけられる。

「そんな寒くないよ?」
「いいから着ておけ」
「ではお言葉に甘えて」

ちょうどこの後にきちんとお茶を飲むプランだったから、タイミングも丁度良く、持って来ていた紅茶をいれて二人で飲むことにした。
淹れたての紅茶がしみるわと思った時点で、多少なりとも身体が冷えたのかもしれない。

「チアキは見てて危なっかしい」
「褒め言葉かな」
「人より先に行動する君は好きだが心配になる」

それは私の性質だからな。
スーパーマンな時点で何やっても大丈夫という自信までついてるし。因果の力をなめるなよ、祖一族のおばあちゃんみたくチートではないにしろ、なかなかの規格外でこの世界に存在していると自負してるし。

「心配しなくても、私スーパーマンだから大丈夫だよ」
「そうだとしても、好きな人が危険な目に遭っていたら助けたくなるだろう」
「そう?」
「そうだ」

そんなディエゴは少し恥ずかしがってか、誤魔化すように紅茶を飲んだ。その横顔を眺めれば、耳は赤い。
けどその可愛さに癒される以前に、顔色があまり良くないことが気になった。いつもより白くない?
気になって、するりと彼の頬に手を当てると、案の定冷えきっていた。

「!」
「やっぱり」

ディエゴが顔を離す。それを追いかけて今度は両手で両頬をホールドした。

「すごく冷たくなってる。寒いんじゃないの?」
「そ、んなことは」
「上着返すよ」
「いや、いい! それよりも早く離してくれ」

相変わらず貞淑のお手本のようですね。頬に触れるのすら駄目なの。でも全力で手を振り払わないあたり、触ってほしいという気持ちも少なからずあると見た。
いやもうツンデレってば、実に素晴らしい。
でも体調も心配なのは事実。焚火でもすればいいか、いやアウトドア回は終了しているから、ここは解散がいい選択だろう。

「そしたら帰ろう」
「え?」
「ディエゴの身体がこれ以上冷えても困る」
「嫌だ」
「ええ……」

私の両手をとって自分の頬から離すディエゴは私から視線を逸らさなかった。
その手が案の定冷え切っていて、これはいけないと増々あたたかいところへ避難する事を進めると、今度は小さく唸った。相当嫌らしい。

「ディエゴ、もう充分デートしたでしょ。風邪ひいたら大変だし」
「嫌だ」

両手を解放したと思ったら、今度はそのまま引き寄せられ、またしても彼の腕の中へおさまってしまう。そのまま背中にまわされ完全に囲い込まれた。
拗ねるにしたって、抱きしめてくるとは。

「散々触るなって言ってこれとは」
「言うな」

声が近い。
気まずそうなディエゴの唸り声がおりてきて、咄嗟というか苦肉の策だったのがわかる。

「君の、」
「ん?」
「こう、してれば、あたたかい」

駄々をこねた結果が今の状況らしい。言葉の調子からだいぶテンパってる感じはするけど。
そして敢えて言わないけど、寒いところをあたためるのは年齢指定の裸で抱き合うイベントを推す。
けどまあ、こうなってしまうともうどうしようもなさそうだ。意固地で頑固は早々動かせない。

「仕様がないな」
「……」 

寛大に装って言ったものの、私だって乙女心は残っている。前も彼には直接言ったけど。
イケメンに抱きしめられて、いい匂いを堪能して、イケボを耳元で聴いてテンパらないわけがない。当の本人は気づいてないけど、私も私で結構心臓に困る状態なんだけど。
それこそ胸の鼓動が鳴り止まないのを今すぐ証明してみせようか。でもそれは相変わらず駄目だと言われそうだな。
そんなことをぐるぐる考えながら、私はしばらくディエゴに抱きしめられる事を選んだ。
だいぶほだされてきてる気がしたけど無視だ、無視。今は正直に彼の現状を教えてくれる鼓動を聴きながら無になろう。
おいしいものを目の前にしていれば癒しが得られる。どんな時でも逃すわけにはいかない。もったいないから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】

清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。 そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。 「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」 こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。 けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。 「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」 夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。 「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」 彼女には、まったく通用しなかった。 「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」 「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」 「い、いや。そうではなく……」 呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。 ──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ! と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。 ※他サイトにも掲載中。

婚約破棄の茶番に巻き込まれました。

あみにあ
恋愛
一生懸命勉強してようやく手に入れた学園の合格通知。 それは平民である私が貴族と同じ学園へ通える権利。 合格通知を高々に掲げ、両親と共に飛び跳ねて喜んだ。 やったぁ!これで両親に恩返しできる! そう信じて疑わなかった。 けれどその夜、不思議な夢を見た。 別の私が別の世界で暮らしている不思議な夢。 だけどそれは酷くリアルでどこか懐かしかった。 窓から差し込む光に目を覚まし、おもむろにテーブルへ向かうと、私は引き出しを開けた。 切った封蝋を開きカードを取り出した刹那、鈍器で殴られたような強い衝撃が走った。 壮大な記憶が頭の中で巡り、私は膝をつくと、大きく目を見開いた。 嘘でしょ…。 思い出したその記憶は前世の者。 この世界が前世でプレイした乙女ゲームの世界だと気が付いたのだ。 そんな令嬢の学園生活をお楽しみください―――――。 短編:10話完結(毎日更新21時) 【2021年8月13日 21:00 本編完結+おまけ1話】

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

処理中です...