上 下
118 / 164
2章 神よ、感謝します。けど、ちょっと違う叶ったけどちょっと違うんです。

118話 おばあちゃんのデレはデレなのだろうけど、違うんです、神よ

しおりを挟む
予想通りだった。
諸説の話で誤魔化して(というか可能性の話として念頭に置いてほしいから話したのだけど)、ありのままの事実を報告しても、この程度だとは思ってました。だって動かすのはおばあちゃんの気持ちだもの、勉強した成果を発表するだけでは駄目だった。
これが本末転倒と言うやつか。勉強楽しすぎた。次は心動かすプレゼン設定を考えて構成しよう。

「一応、私達が呪いで早く死ぬ事はないし、周りに影響しないので、こうしてお話ししてても死ぬことはないですよ」
「ええ」
「諸説と個人の私書にもよりますが、一族が王都転覆を目論んで反乱を起こす予定もありません。そもそも一族は絶滅したようなものですし」
「ええ」

最初と比べればまだ柔和に返事をもらってる方だけど、断固として認めない感は分かる。さすが、ディエゴも大概頑固だけど、おばあちゃんも結構頑固だよね。

「分かりました。今日はここまでにします」
「ここまで?」
「また伺います」
「え?」

これでもかと目を見開いて驚くおばあちゃん。何を驚いているのか。2度目行きますがあるなら、次の研究結果報告も当然あるだろうに。

「また今度研究結果纏めたら伺いますね」
「性懲りもなくまだここに来ると言うのですか」
「時間はかかるかもしれませんが頑張ります。今度は地質学と文化学からアプローチしますね」
「……」

なにを言ってるんだという顔をしている。
その後ろで控えていたご両親は笑いを堪えていた。余程おばあちゃんの反応がおもしろかったのか。
何も反応がないのを見て、仕方ないと片付けし始めたところに、訪問者を告げる音がした。

「大奥様、ネウトラーレ候爵夫人が」
「約束はしてません。帰らせなさい」
「あら先生、それはあまりにも非情ですわ」

夫人がひょっこり顔を出して、そのまま強引に入ってきた。当然ディエゴのおばあちゃんは眉をしかめる。爵位のある世界でこの振る舞いはよくないだろう。

「先生?」
「ああ、御祖母様はネウトラーレ候爵夫人の家庭教師をしていた」
「なにそれ素敵…!」

先生呼び!
候爵家が候爵家に家庭教師って割とない話だと思うけど、いやいいわ、先生呼び!その関係は今も続く!厳しくも慕われる先生と懐いてる生徒……よし妄想しよう。
社交界の重鎮と言われるネウトラーレ侯爵一族の過去の話、モノローグはこのあたりから始めよう。

「貴方には候爵夫人として相応しい身の振る舞いを教えたはずです」
「候爵家たるもの、周りの手本となるべく多くに貢献するよう教えてくださったのも先生ですね」
「何を」
「私はこの子達に貢献する為に伺いましたので」

おお言い返した。というか揚げ足とった。
その教えの時を妄想するに、やはりこのおばあちゃんはツンデレなだけで、本来はとても優しい心の持ち主なんじゃない?ディエゴがそうだから、たぶんそうだよね。その方がおいしいので、そちら採用します。

「先生、これを」

ネウトラーレ候爵夫人の従者さんがすすっと額に入った絵と思われるものを見せた。
それを見て眉を寄せるおばあちゃん。見たいけど、二人の世界だから入りづらい。

「父の絵ですか」
「はい、私が成人した祝いで頂いたものです」
「貴方は父の絵が好きでしたから」
「新しく描くと仰ってましたが、私はこれがどうしても欲しくてねだったのですよ」
「父は貴方に甘かった」

あああなにそれ、詳しく話してくれていいですよ。絵の内容はどうでもいいです二人の過去についてもっと詳しくお願いします。

「チアキ」
「ひえ」

緩んでた。
ディエゴが呆れたようにこちらを見下ろしている。自分の身内で妄想されるのはやっぱり微妙な心地なのかな、止められないけど。

「先生と生徒ってそれだけでパワーワードなんだよ」
「ぱわーわーど」
「力のある言葉、希望と勇気を与えてくれるよ!」
「そんなことだろうとは思っていた」
「許して、無理」
「止められないのはわかっているさ。御祖母様相手にここまでいられるのはチアキらしいと思っている」
「褒められてる?」
「……なんとでも」

そうこうしてる間に夫人とおばあちゃんが何かを話していた。
ああ耳を澄ましてきかなきゃいけなかったとこだ。逃した……なんてことをしてしまった。

「聞き逃した!」
「チアキ、こういうときは本来席を外すのがよい」
「そんなもったいないことできないでしょ」
「覗き見も盗み聞きもよくない」
「そこに癒しがあるんだよ?」
「君は俺に癒されないのか?」

癒されてるよ。
エステルトット、オリアーナにエドアルド、勿論ディエゴにも充分癒されてる。それはまた別の問題で目の前に癒しが別にあれば飛びつくに決まってる、それだけ。
それをいえば、やっぱりディエゴは呆れていた。

「俺だけでは役不足か……」
「え?」
「俺だけが君の癒しになればと」
「充分癒されてるよ、ツンデレや」
「チアキの言う癒しと俺の言いたい癒しは大きく違う」

少し不機嫌になった。
ツンデレがツンしてる、非常にいいです。
けど、こうやって話してる間に先生と生徒の話が一段落していた。がっかりだよ、聞き逃してるじゃん。
おばあちゃんは相変わらずのツン顔で私に視線をよこした。

「……わかりました。ならば貴方の言うプレゼンとやらをしに来ることを認めます」
「ありがとうございます」
「これは貴方を認めたということではありません。ソラーレ候爵家の結婚相手として相応しいか、これから貴方の振る舞いで認めるかを判断します」

結婚はどうでもいいです、偏見さえ変わればと言おうとしたら、ディエゴが割って入った。

「婚約者候補として彼女を認めてくださるということですか?」
「はい?」

私を見ずにおばあちゃんを真っ直ぐ見据えている。その瞳には僅かに期待を滲ませた光を宿していて、おいこら止めろ待てとその口塞ごうと手を伸ばし、かけた。
そう塞げなかった。おばあちゃんが先に応えてしまったからだ。

「よろしいでしょう。期間は学業に身を投じてる間とします。それまでに見極めましょう」
「ええ、問題ありません御祖母様。御祖母様もきっと彼女を気に入ります」
「おおい」

流れ、流れが違う。
私の腰に手を伸ばし引き寄せておばあちゃんに向き直る。違う、このご挨拶感、違うんだって。

「よかったな、チアキ」
「何がよいのか」

すごく機嫌のいいディエゴがデレを見せて笑っている。そうじゃないぞ。いや確かにおばあちゃんの応え方はツンデレと見ればだいぶ美味しいけど。
なんてこと。神よ、こういう形でデレがくると?
私の理想のおばあちゃんデレは、私の考え改めましょう、祖一族は悪ではないのですね、という流れでした。デレはデレなのだろうけど、違うんです、神よ。

「大丈夫だ、チアキ」
「何が?」
「この期間、俺を好きになってくれればいい」
「何も大丈夫じゃないぞ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

あなたが「消えてくれたらいいのに」と言ったから

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
「消えてくれたらいいのに」 結婚式を終えたばかりの新郎の呟きに妻となった王女は…… 短いお話です。 新郎→のち王女に視点を変えての数話予定。 4/16 一話目訂正しました。『一人娘』→『第一王女』

「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】

清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。 そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。 「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」 こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。 けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。 「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」 夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。 「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」 彼女には、まったく通用しなかった。 「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」 「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」 「い、いや。そうではなく……」 呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。 ──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ! と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。 ※他サイトにも掲載中。

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

婚約破棄の茶番に巻き込まれました。

あみにあ
恋愛
一生懸命勉強してようやく手に入れた学園の合格通知。 それは平民である私が貴族と同じ学園へ通える権利。 合格通知を高々に掲げ、両親と共に飛び跳ねて喜んだ。 やったぁ!これで両親に恩返しできる! そう信じて疑わなかった。 けれどその夜、不思議な夢を見た。 別の私が別の世界で暮らしている不思議な夢。 だけどそれは酷くリアルでどこか懐かしかった。 窓から差し込む光に目を覚まし、おもむろにテーブルへ向かうと、私は引き出しを開けた。 切った封蝋を開きカードを取り出した刹那、鈍器で殴られたような強い衝撃が走った。 壮大な記憶が頭の中で巡り、私は膝をつくと、大きく目を見開いた。 嘘でしょ…。 思い出したその記憶は前世の者。 この世界が前世でプレイした乙女ゲームの世界だと気が付いたのだ。 そんな令嬢の学園生活をお楽しみください―――――。 短編:10話完結(毎日更新21時) 【2021年8月13日 21:00 本編完結+おまけ1話】

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

処理中です...