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2章 神よ、感謝します。けど、ちょっと違う叶ったけどちょっと違うんです。

105話 このショタコンが!

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「これが事の顛末。なんてことないでしょ」

要所要所だけピックアップしてみれば、なんてことない……わけないな。何度頑張っても誰かが死ぬ結果しかないのは、その手のジャンル作品だけだ。残念ながらオルネッラが目指すところはそこじゃないし、私もそこは避けたい派。

「どっちにしても母親の死が避けられないルートだったけど」
「お母様は死ぬ事を決めてしまっていたから、動かす事が難しかったのよ」
「オリアーナの自殺願望とはまた違うからねえ」
「オリアーナは生きたいと思っていたもの」

生きる意志があったから、助ける事が出来た。その点、母親はそういう未来しか受け付けていなかったし、生きる意志がなかった。クラーレの魔法も跳ね返したし、実の娘の言う事すら聞き入れなかった。
彼女にどういう過程があって生きることを諦めるに至ったのかはわからない。もしかしたらオルネッラ以上にもがいた結果なのかもしれないけど。

「クラーレには悪い事をしたわね」
「本の複製のこと?」
「彼が母を好きなのを知ってて、その気持ちを利用したから」
「知ってたんだ?」

オルネッラはこの事故に至るずっと前から気づいていたらしい。
そのクラーレの気持ちを利用して、逆行する度に複製本をお願いしていたと。逆行最後のルートでは、予知に目覚めたという設定をいかして、母が事故に遭う未来を見たから助けたい。そのためにはとある本が必要だと訴えた。
クラーレの説明に嘘はなかった。でもまさか逆行の度に複製してるなんていうのは想像できなかった。片っ端から可能性のある本を複製しては読み込んでを繰り返していたらしい。
それにしてもオルネッラの話し方もあるだろうけど、クラーレが余程母を慕っていなければ、そう気持ち面で手を出そうとは思わないだろう。クラーレもよくここまでやったな。もっとも母親が長い月日をかけ死に至る日までに覇気をなくしていく様を見ていれば、オルネッラの言う未来が来ることへの確信になっておかしくないか。

「あとこれで、チアキのことも説明がつくわね」
「私の?」
「スーパーマンなとことか?」
「おお、それが? なんで?」
「ほら、SFやファンタジーでよくあるでしょ。繰り返す事で強さ増すゲームの2周目的な」
「因果!」
「正解」

ああもうわかってるね、オルネッラ!好き!
度重なる逆行と因果の関係なんてもう皆さんご存知ですレベル。この話は熱い。いくらでもできる。やり直しものは19世紀から現在にかけて存在し続ける不変テーマだからね!

「あれ、そしたらオリアーナの身体がスーパーマン?」
「いいえ、チアキの魂がスーパーマンね」
「入ったオリアーナの身体に影響を及ぼしたと」
「そうそう。因果って結局のところ認識がどこに向けられるかで変わるものよ」
「オルネッラの認識が自分自身だったってことか」
「そういうこと」

いいなあ、こういう話もテンポよくできるの。
いっそうまいことこのオルネッラの魂を別で設けて、常日頃お話しできる状態にしたいわ。
オタクトーク毎日やりたい。美味しいお酒飲みながら。

「この因果がチアキが戻ってきた最大の要因よ」
「なるほど」

同時、この因果が私にも大きく影響した。関係のない世界にいる因果ではなく、あるべき世界に因果が私を引き寄せてしまう。え、それなんてアニメ。今期かならず見るしレベル。

「あと、これはチアキに申し訳ないかなと思ったけど、交通事故に遭ったのは呪いの関係かな」

妄想ににやにやする私に対して、オルネッラは少し困ったように笑っていた。

「それはオルネッラが完全に死んだ扱いになってなかったから?」
「そんなとこね」

呪いの残りカスが異世界にきても有効とか。魔法使いの祖という二つ名は伊達じゃない。
異世界に転移してもオルネッラの部分が有効という事は、私がやたらオリアーナに生きてほしいと願って動いていたことも、オルネッラの想いが基礎で残っていたからじゃないだろうか。
初めましてで出会う自殺志願者を無理に手を取って留まらせようって、オルネッラの意識がはっきり残っていたら当然止めている。現状はすべてオルネッラが逆行の末に齎した1つのルート、そこにはオリアーナが生きているという必須条件があるのだから。

「オルネッラもよく残っていたね」
「本当は完全にチアキに変質していたのよ。貴方が会いたいと願ってくれたこと、あとは本当に僅かに残っていた心残りを元にして形になっただけ」
「最初に言ってたオリアーナの成長を見たかった的なね」
「あ、うん、そう、そこもあるけど、えっと、どうしよう加えて言っておくべき?」

ここにきて、このどもりよう。
見た目美女だから可愛いだけなんだけど、これはあれだ、たぶん私ツッコむやつ。

「言うてみ」
「…………ディエゴに会いたかったかなーなんて」
「ディエゴの成長も見たかったってこと?」
「というよりは、当時なんだかんだ彼の事好きだったかもーなんて」
「……」
「……」
「このショタコンが!」
「あああ言わないでよおお!」
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