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2章 神よ、感謝します。けど、ちょっと違う叶ったけどちょっと違うんです。
98話 水を打ったような静けさ
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「私も鳥のように飛べるのは夢だったから、益々励まないとな」
「貴方ならすぐよう」
「え、あの」
飛ぶための運動ではないし、鳥のように飛びたいなら箒を使えばいいじゃない。魔法でも浮遊魔法あるし。なんだどこからツッコむべきなの。いや、今この場では駄目だ。目の前にいるのはお客様なのだから。
「チアキ、放っておいていい」
「え?」
「いつもだ。常識的な事を伝えても通用しない」
「けど、それで飛べないってなったら」
「そしたらこの調子のまま、出来なかったわねと言い合うか、出来るまで延々続けるかになるだけだ。大して変わらない」
「さいですか……」
これがディエゴのご両親だというのか。種族違うんじゃない?それかどっきりなんじゃない?
ええい、これが演技だろうとなかろうと、まともに向き合っていても答えはないだろう。なら宣伝してすぐ終わらせるのが最善の選択。
「僭越ながら、今後の販売予定の商品リストもお持ちしたのですが」
「あらぜひ!」
「ありがとう、さすがガラッシア家のお嬢さんだ。しっかりしてらっしゃる」
「お褒め頂き、ありがとうございます」
パンフレットを見てまたきゃっきゃし始めた。流行りのファッション誌見てテンションあがってる女子高生みたいだな。
「そうそう、社交界でのことが話題になってるのよ~! この子が選んだだけあって本当に美人さんよねえ」
「社交界……」
「息子にはなかなかお嬢さんとの話がなかったから、今回のことで本当安心したものだったよ。いいなあ、私も青春したいなあ」
「あら、貴方。次のダンスパーティーは行きますか?」
「そうだな、そうしよう」
おいおいおい、この流れはよくない。
ダンスパーティーの一件で浮いた話の一つもなかった息子に女の影がでてきて嬉しいのはわかる。確かに年頃の息子に何もないと将来不安だろうし、やっと相手が現れてほっとするのもわかるけど、大事なことが抜けている。
「私ディエゴとお付き合いはしていな、」
「こうして直接お会いして益々安心したわあ。この子、素直じゃなくて意地っ張りなところがあるから誤解されやすいのよ」
「あ、わかります」
ツンデレだもんね。
それがわかっていれば完全な癒しだけど、こと初心で人見知りなのもあるから、社交界のお嬢さん方は冷たくあしらわれてると勘違いするだろう。社交界はスマートにエスコートできて当たり前の世界。ディエゴのツンデレは、時にそれがクールに見えて人気は出るかもしれないが、それがすぐにお相手が出来るには繋がらない。
「式はいつ頃になるかしら?」
「はい?!」
「こらこら。いくらなんでも気が早すぎるだろう」
「いいじゃないですか。ドレス選びなんて早い方が良いに決まってます」
どこまで話が進んでいるの。これはさすがによろしくない。
ディエゴを横目に見れば、しれっとした顔をして紅茶を飲んでいる。いや、確かにディエゴにとっては願ったり叶ったりだろうけど。
「ディエゴ……どういうこと」
「俺はチアキについて訊かれて、好きな人だと応えただけだ」
「それでこうなるの」
「少々短絡的なんだ」
「うええ」
見れば背が高く細身なオリアーナの体型から、この形がいいだの色はどうなの大盛り上がりしている。この人たち、ベクトルさえ合えばオタクトーク出来るタイプだな。
今は身の危険でしかないのだけど。
「沿道を馬車で進むのもいいわねえ」
「そうとなれば、私が先陣を切ろうじゃないか」
「素敵!」
「妄想強……」
「父は軍務関係の長をしているから、そういった沿道行進は慣れている」
「え? あの天然が?!」
「ちなみに母は王城で外交を担っている」
「外交官ェ」
天然ズに務まるの?
やっぱりキャラ作りしてるだけで、実際はキレッキレなの?
「俺は剣と魔法で父に敵った事がない」
「どんだけ設定盛ってるの」
「母は数ヵ国語話せる事が功を奏し、今では輸出入の際たる部分も担当しているが」
「だから設定」
「チアキはこういう話は好きじゃないのか?」
「大好き」
またオリアーナからきいたのかな?予想通り、好物だけどね。設定盛るの好きだよ。
悦に浸ってバリキャリの御両親を想像していると、そうだわ、といきなりディエゴのお母さんが立ち上がった。うわあ嫌な予感しかしないじゃない。
「折角今日お会い出来たのだから、サイズを測りましょう!」
「謹んで辞退させて頂きます」
「大丈夫! すぐに終わるわ。このご縁を大事にしたいの」
「いえ、この後予定もありますので」
「そうなの。なら、予定に響かないように職人を手配するわ」
ひ、ひかないぞ、この母。ぐいぐい系の盲目ぶりは親子ですね。
この後の予定が直近だったら、どう足掻いたって響くのに、響かないよう手配ってどうしたらできるの?魔法?
「さあ!」
「どうしてこうなる……」
私は複製本を使ってやりたいことがあったから、すぐに帰るつもりだったのだけど、どうしてもサイズ測らないとだめということ?
これ以上進むと誤解を解けぬまま、色々大変な事になるから断固として断らないと。
「お待ちなさい」
その一言に、ぴしっと空気が張り詰めた。
両親とディエゴの佇まいに硬さが入る。緊張するような相手が来たと言う事だ。
「貴方ならすぐよう」
「え、あの」
飛ぶための運動ではないし、鳥のように飛びたいなら箒を使えばいいじゃない。魔法でも浮遊魔法あるし。なんだどこからツッコむべきなの。いや、今この場では駄目だ。目の前にいるのはお客様なのだから。
「チアキ、放っておいていい」
「え?」
「いつもだ。常識的な事を伝えても通用しない」
「けど、それで飛べないってなったら」
「そしたらこの調子のまま、出来なかったわねと言い合うか、出来るまで延々続けるかになるだけだ。大して変わらない」
「さいですか……」
これがディエゴのご両親だというのか。種族違うんじゃない?それかどっきりなんじゃない?
ええい、これが演技だろうとなかろうと、まともに向き合っていても答えはないだろう。なら宣伝してすぐ終わらせるのが最善の選択。
「僭越ながら、今後の販売予定の商品リストもお持ちしたのですが」
「あらぜひ!」
「ありがとう、さすがガラッシア家のお嬢さんだ。しっかりしてらっしゃる」
「お褒め頂き、ありがとうございます」
パンフレットを見てまたきゃっきゃし始めた。流行りのファッション誌見てテンションあがってる女子高生みたいだな。
「そうそう、社交界でのことが話題になってるのよ~! この子が選んだだけあって本当に美人さんよねえ」
「社交界……」
「息子にはなかなかお嬢さんとの話がなかったから、今回のことで本当安心したものだったよ。いいなあ、私も青春したいなあ」
「あら、貴方。次のダンスパーティーは行きますか?」
「そうだな、そうしよう」
おいおいおい、この流れはよくない。
ダンスパーティーの一件で浮いた話の一つもなかった息子に女の影がでてきて嬉しいのはわかる。確かに年頃の息子に何もないと将来不安だろうし、やっと相手が現れてほっとするのもわかるけど、大事なことが抜けている。
「私ディエゴとお付き合いはしていな、」
「こうして直接お会いして益々安心したわあ。この子、素直じゃなくて意地っ張りなところがあるから誤解されやすいのよ」
「あ、わかります」
ツンデレだもんね。
それがわかっていれば完全な癒しだけど、こと初心で人見知りなのもあるから、社交界のお嬢さん方は冷たくあしらわれてると勘違いするだろう。社交界はスマートにエスコートできて当たり前の世界。ディエゴのツンデレは、時にそれがクールに見えて人気は出るかもしれないが、それがすぐにお相手が出来るには繋がらない。
「式はいつ頃になるかしら?」
「はい?!」
「こらこら。いくらなんでも気が早すぎるだろう」
「いいじゃないですか。ドレス選びなんて早い方が良いに決まってます」
どこまで話が進んでいるの。これはさすがによろしくない。
ディエゴを横目に見れば、しれっとした顔をして紅茶を飲んでいる。いや、確かにディエゴにとっては願ったり叶ったりだろうけど。
「ディエゴ……どういうこと」
「俺はチアキについて訊かれて、好きな人だと応えただけだ」
「それでこうなるの」
「少々短絡的なんだ」
「うええ」
見れば背が高く細身なオリアーナの体型から、この形がいいだの色はどうなの大盛り上がりしている。この人たち、ベクトルさえ合えばオタクトーク出来るタイプだな。
今は身の危険でしかないのだけど。
「沿道を馬車で進むのもいいわねえ」
「そうとなれば、私が先陣を切ろうじゃないか」
「素敵!」
「妄想強……」
「父は軍務関係の長をしているから、そういった沿道行進は慣れている」
「え? あの天然が?!」
「ちなみに母は王城で外交を担っている」
「外交官ェ」
天然ズに務まるの?
やっぱりキャラ作りしてるだけで、実際はキレッキレなの?
「俺は剣と魔法で父に敵った事がない」
「どんだけ設定盛ってるの」
「母は数ヵ国語話せる事が功を奏し、今では輸出入の際たる部分も担当しているが」
「だから設定」
「チアキはこういう話は好きじゃないのか?」
「大好き」
またオリアーナからきいたのかな?予想通り、好物だけどね。設定盛るの好きだよ。
悦に浸ってバリキャリの御両親を想像していると、そうだわ、といきなりディエゴのお母さんが立ち上がった。うわあ嫌な予感しかしないじゃない。
「折角今日お会い出来たのだから、サイズを測りましょう!」
「謹んで辞退させて頂きます」
「大丈夫! すぐに終わるわ。このご縁を大事にしたいの」
「いえ、この後予定もありますので」
「そうなの。なら、予定に響かないように職人を手配するわ」
ひ、ひかないぞ、この母。ぐいぐい系の盲目ぶりは親子ですね。
この後の予定が直近だったら、どう足掻いたって響くのに、響かないよう手配ってどうしたらできるの?魔法?
「さあ!」
「どうしてこうなる……」
私は複製本を使ってやりたいことがあったから、すぐに帰るつもりだったのだけど、どうしてもサイズ測らないとだめということ?
これ以上進むと誤解を解けぬまま、色々大変な事になるから断固として断らないと。
「お待ちなさい」
その一言に、ぴしっと空気が張り詰めた。
両親とディエゴの佇まいに硬さが入る。緊張するような相手が来たと言う事だ。
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