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1章 推しがデレを見せるまで。もしくは、推しが生きようと思えるまで。

68話 自供

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「クラーレ、少しお時間頂いても?」
「はい、お嬢様。構いません」

オルネッラへの魔法かけるための定期巡回と、父の問診に来たクラーレを呼び止める。
オルネッラが眠る部屋でオルネッラの事を問い詰めるとは、サスペンスとか刑事ものぽくて雰囲気があるな。
それを言うとオリアーナから今度こそ心の底から呆れられそうなので、言わずに胸の奥にしまい込んだ。

お茶を入れてくれたメイドのアンナさんを少しだからと席を外させ、相手に向き合うと心なしか少し緊張しているように見えた。

「単刀直入に言ってもいいですか?」
「はい」
「この本、貴方が複製しましたね?」
「……」

複製本を見せつける。
なんとも読めない顔をしてクラーレはそれを見つめた。

「王都図書館で持ち出し禁止の本です。不正に複製されたのが今ここにあるもので、閲覧履歴を追った結果、貴方に行き着きました」
「……」
「何人も人を間に入れて、証拠も消して頑張ったみたいですけど」
「……」

喋らない。
そして先程までの柔和な雰囲気はどこにもなかった。
陰鬱な影を瞳に宿して、本と私を交互に見る。

「無言は肯定と受け取りますよ?」
「……」
「私が知りたいのは、概ね3つです。1つはこの本を複製した目的、次に複製本をこの家に置いたままにした理由、最後にオルネッラの事件に関わっているか否か。応えてくれますか?」
「……辿り着きましたか」

小さく溜息を吐いた。
辿り着くも何も、複製本をガラッシア家に置いてる時点で大ヒントだよ。
ばれたくなければ自分で隠し持ってればいいのに。

「ん? そしたらわざと置いていったってことですか?」
「いいえ、置いたのではありません」
「じゃあなんで?」
「それはオルネッラお嬢様が御所望されたものです」

私を介して、とクラーレは語った。
オルネッラがこの本を欲しいと?
オリアーナをちらりと見るが、姉はそういった魔法に関心はなかったとはっきり答えた。
クラーレが嘘を吐いている?

「オルネッラが? どうして?」
「そちらについては存じ上げません。ただ、どうしてもほしいから複製してほしいと頼まれただけです」
「それで貴方あっさり快諾しちゃったの? 罪になるのに?」
「私の最大の罪は奥様を死なせ、オルネッラお嬢様の身体だけを生かし続けている事です」
「え、いや、ん?」

結構大事な事言ってきたけど、もうどっちをどうつっこめばいい?
けど話し続けてくれそうなので、そこは何も言わずきくことに専念することにした。
今は彼の知る事実を加味したい。

「…今の貴方だとすぐに知られてしまうと思いますので、この際です。お話ししましょう」
「お願いします」

前のめりになると薄く笑う。
見た事ない微笑みだった。
疲れているのか、呆れているのか、嘲笑うようにも見えなくもなかった。

「私の同期から話は聞きました。貴方はもう自分のせいで、あの事故が起きたと思っていないのでしょう?」
「はい」

オリアーナのせいなものか。
それよりもあの教授、早速クラーレに報告してたの。
なんなのやっぱり付き合ってるんじゃないのと妄想が恐るべき速さで再生しようとした時、オリアーナにチアキと声をかけられ、顔を引き締める事になった。
もう前触れですら把握されてるようだよ、なんてこと。

「私はどのようにしてあの事故へ至ったかは存じ上げません。お2人が重傷で屋敷に戻ってきた事と、それに駆け付けた時の事からしか私はお話しする事が出来ません」
「かまいません、全て話して下さい」

はっきり言えば、彼は薄く笑って眉根を寄せた。

「……私はお2人の容体を確認し、より症状の重い母君から治療を行おうとしました。ですが私が治療を開始するもすでに手遅れだったのです。落下の際、太い木の枝が身体を抉ったのが致命傷でした。傷を治しても出血量が多すぎましたし、なにより本人に生きる意志がなかった」

生きる意志とはどういうことだろう。
生きたいって思えないこと?

「私はどうしても母君を救いたかった。だからオルネッラお嬢様の為に複製した本の魔法を使おうと思ったのです」
「何を」
「魂を別の物へ移動するというものです」

見覚えがあった。
他人同士が入れ替える魔法の近くに魂を一時的に別の無機物へ移動させる魔法。
あくまで一時だ、早くに生きた身体に戻さないと魂が壊れてしまうという注意書きまできっちり書いてった。

「後で別の身体を用意して移せばいいと思いました。身体だけ生かした別の死体を使えばいいと」
「成程」
「私は、……」
「?」

ここにきてクラーレが言葉に詰まった。
どうしたのだろうと様子を見ると、何度も口を開閉して浅く息を吐いている。
眼を見ればおぼつかない。
言うか言わないか迷っているのか、緊張してるようだった。

「言ってください」
「……お嬢様」
「ここまできたんです、全部話して下さい」

私の言葉にひどく傷ついてるようだった。
どうだろうか。私の読みが正しければ、そしてこんなシリアスな場面じゃなければ、とてもおいしい話のような気がするんだけど。

「私は、貴方の母君をお慕いしております」
「やっぱり……」
「そんな」

オリアーナが驚愕している。
なんとなく分かってしまった、私を誰か褒めてほしい。
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