上 下
58 / 164
1章 推しがデレを見せるまで。もしくは、推しが生きようと思えるまで。

58話 トレーナー育成ついでに皆と走る

しおりを挟む
「では今日も気合いを入れつつリラックスして走りますか」
「なんで俺まで」
「そこにいたから」

今日の面子はいつぞやの、トット、エステル、エドアルド、ディエゴ、私とわんこなオリアーナだ。
不思議なもので、皆ジャージを馬車に用意していた。
やる気満々じゃん。

「チアキが強引に誘うことを考慮していたのでは」
「オリアーナ、それは皆が私に慣れてくれたということかな」
「そうともとれますね」
「良いことだよ」
「…チアキ」

フォームやら呼吸法、準備体操などを伝授し、颯爽と走り出してみる。
それを知るだけで、このジョギングの質がだいぶ変わるし、事実以前ただ走っただけとは全然違うのがわかる。
私の簡易的な冊子もあるけど、きちんとメモをとるエドアルドを見て感心した。
なんて勉強熱心なの。
やっぱりハニーフェイスは天使だ、神だ。

「うむ」

走り出して、オリアーナはエドアルドの傍を離れないので、幼馴染大変おいしい状況、ジャージを着ようとも輝きを放つヒーローヒロイン、そして右斜め前には視界に入った今日の犠牲者もとい参加者。
ああ視界が裕福ですねえ。
1番後ろで走ってて良かった。
背中だけでも充分贅沢できる視界ってどういうことだろう。
ここは地上じゃないんじゃない?天上なんじゃない?
すると斜め前の参加者がこちらを見返る。

「俺はオルネッラの見舞いさえ出来ればいいんだが」
「まあまあそう言わずに」

こちらのスピードにあわせて隣に並んできた。
告白の練習大事だものね。
にしても毎日とは言わないまでも、ここまで続いてるとは中々のものだ。

「その割にはジャージ用意してるし」
「そ、それは…」
「ジョギング続けてるでしょ?」
「いや、それは」

明らかに慣れている。
父に無理矢理走らされた時は戸惑いもあったから、息は少しあがっていたしフォームも崩れていた。
どこで研究したのか、さっき伝授した割にはバランスがとれてすぎている。

「フォームが綺麗すぎ」
「う…」
「持久力がつきすぎ」
「そ、それはだな」
「2回目走って持久力前の2倍になるわけないじゃん」
「ぐ…」
「どやどや」

どこか別の場所でジョギングを続けてるということだ。
走る姿は正直、馬車通りを横目に父と走っている手前、見られてる可能性はあるし、メイドさん達も時間帯は違えど走ってる者達もいる。
フォーム確認はいつでも見てすることができるということだ。

「ガ、ガラッシア公爵に誘われた時の為だ」
「律儀ですね」

あっさり肯定した。
また父親に誘われる可能性はゼロじゃない。
オルネッラの見舞いに来る以上、父親に会う確率はあがるから。

「オルネッラにかっこいーとか褒めてもらえますもんね」
「そんな下心はない」
「またまた」

断じて違うと主張するディエゴ。
純粋に運動が相性よかったのもあるだろうな。
父親みたくドはまりしてたら、それはそれで笑える。

「オルネッラが目覚めたら告白イベント(本番)かあ」
「何をにやついている」
「いえいえ、こちらの話です」

ディエゴも最初はオルネッラのことはオリアーナのせいとか言ってたな。
今やこんな風に一緒に走る事になろうとは考えもしなかった。

「そういえばディエゴは私と普通に話してくれるようになったけど、オリアーナの噂を信じてた系?」
「は?」
「いや気になって」

よくまあストレートにきくな的な顔をして、少しの間の後、落ち着いた様子で彼は話した。

「…俺はオリアーナがオルネッラの乗る馬車に魔法をかけるのを見ていた」
「おう…」
「そしてあの事故が起きた。だからオルネッラの眠りはオリアーナのせいだと思っていた」
「思っていた…?」

ああとディエゴが頷いた。

「あの日、俺は長期休暇に入る前にオルネッラに、その、贈り物をしようと思って直接ガラッシア家に行こうと思ったんだ。その時、魔法をかけるのを見て…社交界や事業での噂は後々加味した程度に過ぎない」
「そっか…」

そういった意味では自分の主観で物事を判断した人物になる。
てか見た現場よくなかった。
ついでにいうなら、オルネッラ好きすぎでしょ。
贈り物とか…小さいディエゴが大好きなオリアーナへ贈り物…見たかった…!

「けど今は考えを改めた」
「ん?」
「あの魔法は、オルネッラを守るためにしたものじゃないかと考えている」
「へえ」

ディエゴから見た時、その魔法が何だったか見えなかったのかな。
もっとも車輪が壊れる魔法がどうしたら時間差でくるのか検証していない。
こっちも地味に少しずつしてたけど、そろそろ本腰いれないとな。

「…応えてくれないか?」
「精査中ですね」
「ふん…そんなことだろうと思っていた」

お願いがあるとディエゴが言う。
イケメンのお願いなら喜んでききますが、と内心思って前のめりになると、ディエゴは少し引いた。
ええい、距離感。

「オルネッラの事が解決したら教えてくれ」

それがどんな結果であろうとも。

「わかった」

オリアーナのせいじゃないことを私は確信している。
だからディエゴには誤解なく正答を伝えられると思った。

「ああ、今の君は信用できる。期待してるぞ」
「任せて」

あれ、なんか推理ものの上司と部下みたいな感じ?
いやバディ組んでる相方的な?
新しいイベント発生してたのに、今気づいた感。
この心の開きよう…脳内にきちんと保存しておこう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

あなたが「消えてくれたらいいのに」と言ったから

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
「消えてくれたらいいのに」 結婚式を終えたばかりの新郎の呟きに妻となった王女は…… 短いお話です。 新郎→のち王女に視点を変えての数話予定。 4/16 一話目訂正しました。『一人娘』→『第一王女』

「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】

清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。 そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。 「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」 こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。 けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。 「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」 夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。 「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」 彼女には、まったく通用しなかった。 「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」 「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」 「い、いや。そうではなく……」 呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。 ──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ! と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。 ※他サイトにも掲載中。

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

婚約破棄の茶番に巻き込まれました。

あみにあ
恋愛
一生懸命勉強してようやく手に入れた学園の合格通知。 それは平民である私が貴族と同じ学園へ通える権利。 合格通知を高々に掲げ、両親と共に飛び跳ねて喜んだ。 やったぁ!これで両親に恩返しできる! そう信じて疑わなかった。 けれどその夜、不思議な夢を見た。 別の私が別の世界で暮らしている不思議な夢。 だけどそれは酷くリアルでどこか懐かしかった。 窓から差し込む光に目を覚まし、おもむろにテーブルへ向かうと、私は引き出しを開けた。 切った封蝋を開きカードを取り出した刹那、鈍器で殴られたような強い衝撃が走った。 壮大な記憶が頭の中で巡り、私は膝をつくと、大きく目を見開いた。 嘘でしょ…。 思い出したその記憶は前世の者。 この世界が前世でプレイした乙女ゲームの世界だと気が付いたのだ。 そんな令嬢の学園生活をお楽しみください―――――。 短編:10話完結(毎日更新21時) 【2021年8月13日 21:00 本編完結+おまけ1話】

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

本当の貴方

松石 愛弓
恋愛
伯爵令嬢アリシアは、10年来の婚約者エリオットに突然、婚約破棄を言い渡される。 貴方に愛されていると信じていたのに――。 エリオットの豹変ぶりにアリシアは…。 シリアス寄りです。

処理中です...