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1章 推しがデレを見せるまで。もしくは、推しが生きようと思えるまで。

55話 生きてるだけで運がいい

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「オリアーナ、後で」
「オリアーナ?」
「え、あ、失礼。違うんです、エドアルドのせいじゃありません」
「…優しいんだね」
「優しいとかそういう問題ではないんですよ。現状私からは何も言えないし、判断がつかない」

今にも泣きそうなハニーフェイスがおいしいけど、そこじゃない。
この子、真逆のようでオリアーナとやっぱり似ている。
容赦なく自分を責める真面目っぷりがもう。

「事故は起きてしまっただけです。それに貴方は充分な年月自分を責めたでしょう?もう終わりでいいんじゃないですか」
「…オリアーナ」
「私はエドアルドと変わらず付き合いたい」

オリアーナが頷く。
私の言うことは正解だ。

「あの、エドアルド」
「なに?」
「オリアーナはかならず戻ってくるから、というか戻ってもらうから…だから待っててもらえます?」
「……え?」

さすがに中身違うとは言えないし、いや言いたいところなんだけど、ずっと言わないほうがいいと思ってた。
それもまた違うの?
今の状況、幼馴染がハッピーエンドを迎えられるかもしれない可能性をここで潰してどうする。
幼なじみに悲恋はない、そうだハッピーエンドしかない。
後はオリアーナの気持ち次第だけど。

「話をしてくれて嬉しいです。そして私は特段エドアルドをボコボコにする気もない」
「ボコボコ?」
「あ、こらしめるという意味です」

前にも言ったな…トットにだったっけ?
オルネッラの問題は少しばかりこみいっているから、精査してからだ。
エドアルドにすべての責任があると断言できないし、そもそも今この瞬間エドアルドが私に何某かの危害を加えたわけじゃない。
だから今はここまで。

「…それにエドアルドのことは私が決める事じゃない」
「え?」

オリアーナが決めることだ。
私がボコボコにするしないを決める立場じゃない。
今起きたことに関しては私が決めるけど、過去は範囲外。
それは父にしろ叔父にしろエスタジ嬢にしろ同じ事だ。

「…うん、わかった」

しばらくの間の後、エドアルドは微笑んだ。
可愛いなあ、もう天使じゃん、天使。

「オリアーナがそう言うんだ、僕は僕のことを考えてみるよ」
「うん」
「ぼこぼこ?にしたくなったら言ってね」
「うん、わかった。遠慮くなくいく」

そして、ぎこちなさを残しつつも最後は少しだけ笑ってエドアルドは帰って行った。
ハニーフェイスは尊い。
なんとかあそこまで持ちあげられた。
少しは改善されたはずだ。
彼の中の溜まっていたものを吐き出せもしたわけだし、少しは変わってくれると信じてる。

「しかしまあオリアーナ、急にびっくりしたよ」
「エドアルドのせいではなかったので、つい…」
「エドアルドが好きなんだねえ。さすが幼馴染」
「はい」
「?!」

それはデレなの?
それとも幼なじみとしてなの?
やっと恋バナに花咲かせることができるの?

「チアキ、姉の件が私のせいなのは事実なのです」
「あ、うん、そっちね…」

そうだね、シリアスな展開だもの、恋バナにはいかないよね。
でもちょっとしょんぼりだ…恋バナ。
話をするために自室に戻る。
紅茶を嗜みながら、なるたけ明るくきいてみることにした。

「いいよ、話そう」
「…私は、あの日…母と姉が乗る馬車の車輪に魔法をかけました」
「どんな?」
「車輪が壊れるものを」
「でも壊れなかったんじゃないの?」

エドアルドのとこまで馬車は進み、遠回りの道変えまでしている。
その間に壊れてもいいのに。

「私の魔法が未熟だったのです。車輪が壊れるまで時間がかかりました。最悪のタイミングで…」
「時間差ってことか」

でもそれ確実に事故の瞬間に起きたか分からないんじゃないだろうか。
そんな私の言いたいことを悟ったのオリアーナが続ける。

「魔法の痕跡を辿る事が出来ます」
「へえ」
「そして、あの、学園の」
「あ、教授?」

あの真実知ってもよく考えろと言った、あの。
どうやら学園代表でガラッシア家へ見舞いに来た時に知られたらしい。
確かに魔法がかけられていた痕跡が見られたという。
それをあの教授が気づき、オリアーナは認めた。
そこから教授はオリアーナに全部のせで責任を負わせたと。
教授の言う事との繋がりに違和感はないけど。

「私はあの日、学園で臨時の講義があり、母と姉と共に行く事が出来ませんでした。後々父と追う予定で」
「うん」

年齢的に小学校のことかな。
10年前ならオリアーナの年齢は一桁、休み期間に小学生に臨時授業するとか、どれだけハードなのこの世界。

「姉と離れるのが嫌だったんです。だから馬車が動かなければ、次の馬車で一緒に行けると思って…」
「ふむ」

小さいオリアーナ可愛いだろうな。
そんな子に好かれまくるオルネッラ羨ましい。
さておき、子供の可愛い嫉妬が大惨事に繋がった、それをオリアーナは自分のせいだと思ってる。

「あの教授なんだけどね」
「?」
「全部オリアーナのせいにするのが手っ取り早いと思って、そうオリアーナに吹き込んだって言ったんだよ」
「それは…」
「エドアルドの言う事もなんだけど、オルネッラの事故は他にもまだあるかなと思ってる」
「そんな」
「だから、オリアーナはエドアルドと一緒ね」
「一緒、とは」
「まずは自分の味方をする練習しなよ」

責任感強いのはいいけど、やりすぎはだめ。
にしてもなあ、ここにきて二人から暴露くるとは。

「オリアーナへの告白だけで充分なのに…あれは実においしかった」
「…チアキ」
「呆れないでよ、オリアーナ。あれは不可抗力だよ」
「いいえ、とても不思議でした」
「不思議?」

好かれていることが?
今まで意識したことないから尚更かな。

「命手放さなくてよかったじゃん」
「そうでしょうか」
「そうだよ、愛されてるんだよ、オリアーナは」
「…エドアルドに?」
「そう。父親だってメイドさん達だってオリアーナのこと大好きじゃん」
「父も…」
「そうだよ。でなきゃ自分の子供に大切な宝物なんて意味の名前つけないでしょ」

なかなか素晴らしいと思う、オリアーナの名前。
頑張ってつけたんだろうなとしみじみ感じるよ。
オリアーナは自分の名前について考えた事なかったのだろう…見るからに驚いている。

「ほら、命あっての物種、だっけ」

ちょっと違うか?まあいいだろう。

「ものだね?」
「生きてるだけで運がいいねって。初めて知る事たくさんあるでしょ?」
「…生きてるだけで」

それに初めて気づきましたみたいな顔をするオリアーナ。
視野が狭くなってたんだね、それぐらい余裕がなく一生懸命だったということ。
彼女の10年、想像を超える道のりだったんだろうな。

「エドアルドの告白の返事考えてみてね」
「…はい」
「後、身体に戻ることも」
「……はい」

この肯定の言葉がどれだけ大切な事か。
やっとオリアーナから受け入れて肯定する言葉がでた。
少しは前向きに考えてくれてるということ。
そして出来ればオリアーナとして戻ってきた暁には告白(返事)を生で見せてほしい。
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