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1章 推しがデレを見せるまで。もしくは、推しが生きようと思えるまで。

32話 エスタジ・コンパッシーオネ伯爵令嬢

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「へえ、こうなるのか~」
「…余裕だな」
「むしろ楽しんでいるのではなくて?」
「エステル、当たり」

エスタジ嬢に白ワインをかました日の週明け、エステルとトットと行動するようになって減ってきた遠目からのひそひそが復活した。
近づいて来る者はいない。
あくまで距離を保っている。
聞き取れる範囲は一昨日私が魔法を暴走させ白ワインを会場一杯にしたこと。
ここからどれだけ中身が変わるか見物だ。

「あ、エスタジ嬢だ」

見つけて声を漏らしたら、聞こえていたらしい。
こちらを見てぎょっとした顔をするが、なんとこちらにやって来るではないか。
この子度胸あるな。

「ご機嫌よう」
「はい、こんにちは」

トットとエステルに挨拶か、それとも一昨日の件を鑑みて牽制か、今までの事に対して謝罪があるのか、全く違うものがくるのか。
何がくるかと楽しみにしていたら、まずは二人に挨拶と感謝だった。
律儀で真面目なよう。

「…オリアーナ」
「はい、何か」

次に声をかけられた。呼び捨てだ。
そこに感動する。
この子もツンデレぽいし、もしかしたらデレがくるかもと思ったが、発せられた言葉はツンだった。

「私は貴方を認めない」

成程、デレはお預けか。
無理もない、いじめに対してやり返しただけなのだから。
それでもツンを持ってやって来てくれるのだから有り難い。
そのツンをおいしく頂きながら、ちょっと突っ込んで話を振ってみる。

「何をどうして?」

彼女が考えてることがオリアーナの記憶の限り分からないなら本人から聞くしかない。
もっとも今の状況だと話すことはないとは思うが。

「どうしてですって?貴方は私を出し抜いてばかり!」
「出し抜く?」
「私はこの耳で聴いています。親交深くいるようで偽り謀っていたではありませんか」
「んん?」

内容は詳しく語られないが、他人から聴いたような言い方だな。
自分の目で確かめてなさそう。

「品位に欠ける事に加え、多くを騙しあまつさえ家業にも影響を及ぼす等、」
「オリアーナが貴方に直接言ったんですか?」
「え…」
「その話はオリアーナから直接聴いてるものですか?」
「え、い、いえ…」
「それは、」
「チアキ」

さらに攻めようとしたところでエステルが制した。
さすがにここでやり合うのはよくないか。
遠目からばっちり見てる生徒も多いし、あまり大きくなると教授がでてくる。

見れば動揺するエスタジ嬢…一昨日の今日だからまた何かやらかすんじゃないのかという不安もあったのだろうか。
他人から聴いてそれを鵜呑みにしている場合、その背景から考えないと分からない。
内容をこの場でぽろっと話してくれるのが一番手っ取り早いんだけど今回は難しそうだ。
どちらにしても彼女は外部からの情報によってオリアーナと今の関係に至っている。
この子素直に生きてるんだろうな。

「やはり貴方には品位というものがないようですわね」
「あ、それは鋭意努力中ですね」

認めざるを得ない。
今の私ではオリアーナの持つ静謐な美しさとは真逆だ。
コマンドは常に攻撃に全振りだから。

「もう結構です」
「ではまた今度」
「?!」

また会おうと言えば彼女は心底驚いていた。
エスタジ嬢からすれば、これでまた社交界に来なくなるとでも思ったのか。
残念、むしろこれからが本番だろう。

「また白ワインをこぼしてしまった時は元に戻しますね」
「あ、な、」
「失敗したらごめんなさい」

にっこり笑ってさよならだ。
エスタジ嬢はそれこそワナワナ震えながら去っていく。

「チアキったら…」
「ごめんて」
「宣戦布告というやつか?」
「似たようなものだねえ…なんとか事情を把握したいので情報収集を是非お願いできないでしょうか?」

エステルに笑顔でお願いすると、困ったように眉を八の字にして頷いた。

「わかったわ…彼女が何を知り得たのか…あとその話の元を辿ればいいのね?」
「そうそう!ありがとう察するのが早いね!」

好き!と加える。
なにせこの世界において私は一歩も二歩も遅れている。
情報を手に入れないことには判断ができないシーンが多すぎだ。

「エスタジ譲とは仲直りして仲良くなるのが目的だからね」
「え、そうなの?」
「うん」

二人してそこまで驚くことだろうか。

「喧嘩を仕掛けてるようにしか見えなかったぞ」
「ははは、キャットファイトは見物だよね」
「チアキったら…」
「ああそうだ。思い出したが、先日頼まれたオリアーナ嬢の叔父の件だが」

なんと昨日の今日で調べ上げるとは。
しかも紙資料まで…トットが有能過ぎる。
私の右腕として働きませんか。

「早いね、ありがとう!」
「件の海賊の件も含まれている」
「すごいね、トット仕事早い。ついでにもう一つお願いします」
「ああ」

二人とも慣れている。
頼りっぱなしだけど、それでも彼彼女は私のためならと言ってくれるので、常々感謝だ。
曰く、画面越しに話していた日々の中で彼彼女の悩み相談とか受けていたり、何気なく話をしていたことが二人にとって何にも変えられない助けになっていたらしい。
そんな格好いいこと言ってないんだけどな。
あれか、漫画やアニメの名言じゃないのか?そしたら原作に感謝だな。
大事な事は漫画やアニメやゲームが教えてくれました。
よし今度はこの言葉をエステルとトットに教えてあげよう。

「ガラッシア公爵令嬢」
「ああ、教授」

以前絡んできた嫌み教授に声をかけられた。
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