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1章 推しがデレを見せるまで。もしくは、推しが生きようと思えるまで。

8話 幼馴染

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「オリアーナ!」

彼の姿が見えなくなってからまた別の声がかかった。
声の方を見れば、男子学生…ゲーム内にはやはりいなかったキャラクターだ。

「オリアーナ…!」
「……ええと」
「さっき学園に来たって聞いて」
「あぁそうでしたか」

初めてオリアーナに好意があるのがわかった。
それが恋愛要素かはわからないけど、少なくとも嫌ってはいない。
しかも探しに来てくれたということはだいぶ仲がいいんじゃないだろうか。
もしかして恋人とかじゃ…そうなると丁寧な言葉遣いをやめたほうがいい?
いやでもそれしたらキャラ崩壊してしまう。

「よかった、何もなかったみたいだね」

優しい…!
それよりも学園に来たらオリアーナなにかされるの?
もしかしてイジメ受けてるとかそういうやつ?

「しばらく来てなかったから心配してたんだ。顔色も良さそうで良かったよ」
「…!」

健気だ…彼も彼でイケメンなものだから効果二割増し。
可愛い系のイケメンて罪…素直で愛想いいとか完璧だろう天は二物を与えたんだ、うん神様ありがとう。

「大丈夫?少し休む?」
「…大丈夫、です」
「良かった!」

ハニーフェイスは罪だ。
きらっきらじゃないか…可愛いし格好いいし色々突き抜けてる。
その一番はオリアーナに対する好意があるからだろうけど、もう推しを目の前にしたファンはきっとこんな気持ちだろう。
こんなに歓待されたらファンやめられないってなってしまうファンサービス最高のトークショーに来てる、今はそういう状況だ。

「さっき聞いた話だとオリアーナがオリアーナじゃないみたいだったから不安だったんだ」
「……あぁ」

エステルとのくだりだろう。
いやあれは不可抗力に他ならない。
私を知ってるエステルとトットがいるなんて感動突き抜けるに決まってる。

「オリアーナ」
「ん?」

彼はとびきりの笑顔でこちらを見上げて来る。
オリアーナの方が背が高いから、自然と上目遣いで見つめられる。
つくづく罪だ…。

「僕はオリアーナの味方だよ!」
「おぉ…」
「なんでも言ってね!」
「おぉ…!」
「助けるから!」
「う、う…」
「?」
「うわあああ可愛いなー!!」
「え?!」

可愛いな、本当。
思わず頭よしよししてしまったわ。
可愛いは罪とはまさにこのこと、抱きしめるのを我慢できただけよくできた方だと思う。

「オリアーナ?!」
「可愛い!癒し!罪!」
「オリアーナ!」

頭を撫で回す手を払われ、驚きの形相で私を見ている。
何度か口を開いて閉じを繰り返していた。

「うんうん、驚いてても可愛いとは素晴らしい」
「!……違う」
「ん?」
「君はオリアーナじゃない!!」

半泣きになりながら走り去っていく彼を引き止められなかった。
というよりもまたクールキャラ出来てなかったことに少し落ち込む。
なんとかは一日にして成らずとはいうけど、その通りのようだ。

「チアキ」
「ん?」

その名前で私を呼ぶのは限りがある。
黒い犬が小走りにこちらに来て、もう一度私の名前を呼んだ。

「あ、オリアーナか!」
「ええ」
「よかった、わんことも上手い具合になったんだね」
「はい」

全く問題なかったようだ。
やっと色々きけると思うとほっとする…事前情報は大事。
今日のこの僅かな時間にあったことを考えるとしみじみそう思う。

「エドアルドの姿が見えましたが」
「あぁ、あのハニーフェイスくんはエドアルドって言うの」

わんこであるオリアーナは頷いて、そうだと言った。
家まで歩くかと思い、裏門からでることにする。
たぶん生徒のほとんどが講義にでてるけど、ここでまた生徒に遭遇すると奇異の目で見られかねない。
オリアーナは徒歩で帰る事に驚いて馬車はと言っていたけど、そこは適当に流して歩いて帰るのに付き合わせた。

「エドアルド・センプレ・ソッリエーヴォ。ソッリエーヴォ伯爵家の嫡男です」
「恋人なの?」
「いいえ、幼馴染です」

幼馴染とはなんて素敵な響きだろう。
設定としては実にいい…幼馴染同士で恋人同士になる漫画もよく読んだ。
ギャルゲーだと人気を他の子にもってかれたりしたり、結ばれなかったりする悲恋ルートもあるから、立ち位置は作品によるけど。
というかあの天使みたいな子・エドアルドがいるのに、オリアーナはどうして自殺志願に至ったのか。
心の支えになってくれそうなのに。

「あ、目つきが割と強くてオリアーナより背が高い面識のある男子生徒っている?」
「……心当たりがありません」
「うーん…あ、オルネッラと知り合い?みたいだったけど」
「…ああ、ディエゴ・ルチェ・ソラーレでしょうか。ソラーレ侯爵家嫡男になります」
「ふーん」

二人の男子生徒はオリアーナと同い年だという。
つまり授業で会う可能性がある…キャラ崩壊してた手前次はきちんと向き合おう。

「あ、そうだ。ディエゴがお姉さんのこと話してたけど、オルネッラっていうお姉さんがいるんだ?」
「……はい」

心なしか声が少し暗く落ちた気がした。
道中の爽やかな森林浴と正反対だ。
この顔で影が差したら美人がさらに美人になるな…うん、妄想楽しい。

「お姉さん、なにかあったの?」
「………」

いきなり家庭の事情に突っ込みすぎただろうか。
まだ私とオリアーナは出会ったばかりだ、ディエゴの言い方から察するに、姉であるオルネッラが大変なことになってるのはわかる。
眠りつづけて10年、それは植物状態ということだろう。

「まあ話したい時に話してくれるでいいよ」
「……いいえ」
「ん?」
「姉に…会って頂けますか?」

少し切羽詰まった声をして私を見上げる。
悲しそうに見えたのは気のせいじゃないだろう。
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