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2章 本編
最終話 貴方のこと、教えてください
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あの日と同じぐらい晴れた日だった。僅かに吹く風が心地いい。
「ウツィア」
望んでいて叶わなかったあの日、いてほしい場所にウツィアが背を向けて座っていた。
いつも話をし、占いをしていた場所。
息を整えていると、ウツィアがゆっくり立ち上がった。
迷わずに振り向く。
(この日をずっと待ち望んでいた)
向かい合える日を。
「ウツィア」
ウェズはゆっくり近づいた。
目の前で止まり、ウツィアがしっかり見上げてくる。
ウェズは両手をあげ、掌を差し出した。
「君が触れなくてもみえるのは知っている。それでも……触れて欲しい。感じて欲しい。見て欲しい……だめだろうか?」
ウツィアはゆっくり視線を下げウェズの両掌を見る。
華奢で小さな手がウェズの掌に重なった。
「……」
「ウツィア」
「……」
「……ウツィア」
ぽろぽろ涙を流すウツィアにウェズは困ったように眉尻を下げた。
ウェズの想いも感情も過去も全てがよくみえる。
「ウェズ」
「ああ」
「言葉で、言って、ほしいです」
涙で声を震わせて願われる。
当然ウェズは言葉でも伝える気でいた。
「ウツィア」
「はい」
「愛してる」
「……私も、愛してます」
たった一言、こんなありふれた言葉でも充分満たされる。
ウェズの瞳からも涙が一筋こぼれた。ウツィアが涙そのまま笑う。
「……私たち、随分遠回りしてましたね」
「そうだな」
「もう一度やり直しましょう」
「え?」
「お互いの知っていることも知らないことも、初めから教えてください」
その言葉は魔法の言葉だ。
「教えてください。貴方のこと、もっと知りたいです」
END
おまけ
お互い涙を拭いて少し落ち着きを見せたところで、ウツィアは仮面をとってほしいとウェズに願い出た。
今の二人なら大丈夫だと分かっていても怖さに動けなくなる。
「大丈夫です」
しっかり見つめるウツィアに震える手で仮面をとった。
白日の下に晒された大怪我の跡を見てウツィアは目を細める。
「少し屈んでくれますか」
「……ああ」
ウツィアが手を伸ばし、ウェズの傷跡に触れた。優しく柔く、細められた瞳はあたたかく輝いている。
「跡、もうほとんどないじゃないですか」
「……そう、だろうか」
「ええ。私の渡した薬と基礎化粧品は優秀でしょう?」
含みのある笑顔を向けられ、ウェズは肩の力が抜けた。
「……はは、そうだな。ああ、確かに君の作る商品は最高だ」
「いつもご利用ありがとうございます」
定期的に売れる常連ユーザーの中に自分の夫がいるなんて考えてもみなかった。
「実は……ウェズの手に渡る分は特別だったんです」
「え?」
「王子殿下経由なのはウェズだけだったので……傷を癒す呪(まじな)いをかけてました」
素性が知れない買い手の中で庭のあの人に渡るのは王子経由だった。話していた時に気にしていたようだったから祈って商品を送り出していたけれど、効果はきちんとあったようだ。
「それがウェズに届いてて本当に良かった」
再び切なさに泣きそうになるのを堪え、ウェズはやっとの思いで小さな箱を取り出した。
「これを」
「え?」
「ずっと間に合わせだったから、きちんと選んだ。ウツィアのことだけ考えて選んだ」
本当は建国祭の時にネックレスと一緒に渡したかった指輪をやっとの思いで渡せる。
ウツィアの細い指に通すと、ウツィアは指輪を撫でながら微笑んだ。
「……綺麗です」
「気に入ったか」
「はい、とても」
「……」
(感無量)
またしても泣きそうになるのをウェズは堪えた。
「嬉しいです。私もウェズの指にはめていいですか」
「ああ」
細い指先が触れるだけでにドキドキするウェズは次のウツィアの台詞にいつものように掴まされる。
「ふふ」
「?」
「私たちやっと夫婦になれました」
「……」
(きゅん)
ウェズがキュン死という古文書用語を覚えるのは少し先の話だ。
「ウツィア」
望んでいて叶わなかったあの日、いてほしい場所にウツィアが背を向けて座っていた。
いつも話をし、占いをしていた場所。
息を整えていると、ウツィアがゆっくり立ち上がった。
迷わずに振り向く。
(この日をずっと待ち望んでいた)
向かい合える日を。
「ウツィア」
ウェズはゆっくり近づいた。
目の前で止まり、ウツィアがしっかり見上げてくる。
ウェズは両手をあげ、掌を差し出した。
「君が触れなくてもみえるのは知っている。それでも……触れて欲しい。感じて欲しい。見て欲しい……だめだろうか?」
ウツィアはゆっくり視線を下げウェズの両掌を見る。
華奢で小さな手がウェズの掌に重なった。
「……」
「ウツィア」
「……」
「……ウツィア」
ぽろぽろ涙を流すウツィアにウェズは困ったように眉尻を下げた。
ウェズの想いも感情も過去も全てがよくみえる。
「ウェズ」
「ああ」
「言葉で、言って、ほしいです」
涙で声を震わせて願われる。
当然ウェズは言葉でも伝える気でいた。
「ウツィア」
「はい」
「愛してる」
「……私も、愛してます」
たった一言、こんなありふれた言葉でも充分満たされる。
ウェズの瞳からも涙が一筋こぼれた。ウツィアが涙そのまま笑う。
「……私たち、随分遠回りしてましたね」
「そうだな」
「もう一度やり直しましょう」
「え?」
「お互いの知っていることも知らないことも、初めから教えてください」
その言葉は魔法の言葉だ。
「教えてください。貴方のこと、もっと知りたいです」
END
おまけ
お互い涙を拭いて少し落ち着きを見せたところで、ウツィアは仮面をとってほしいとウェズに願い出た。
今の二人なら大丈夫だと分かっていても怖さに動けなくなる。
「大丈夫です」
しっかり見つめるウツィアに震える手で仮面をとった。
白日の下に晒された大怪我の跡を見てウツィアは目を細める。
「少し屈んでくれますか」
「……ああ」
ウツィアが手を伸ばし、ウェズの傷跡に触れた。優しく柔く、細められた瞳はあたたかく輝いている。
「跡、もうほとんどないじゃないですか」
「……そう、だろうか」
「ええ。私の渡した薬と基礎化粧品は優秀でしょう?」
含みのある笑顔を向けられ、ウェズは肩の力が抜けた。
「……はは、そうだな。ああ、確かに君の作る商品は最高だ」
「いつもご利用ありがとうございます」
定期的に売れる常連ユーザーの中に自分の夫がいるなんて考えてもみなかった。
「実は……ウェズの手に渡る分は特別だったんです」
「え?」
「王子殿下経由なのはウェズだけだったので……傷を癒す呪(まじな)いをかけてました」
素性が知れない買い手の中で庭のあの人に渡るのは王子経由だった。話していた時に気にしていたようだったから祈って商品を送り出していたけれど、効果はきちんとあったようだ。
「それがウェズに届いてて本当に良かった」
再び切なさに泣きそうになるのを堪え、ウェズはやっとの思いで小さな箱を取り出した。
「これを」
「え?」
「ずっと間に合わせだったから、きちんと選んだ。ウツィアのことだけ考えて選んだ」
本当は建国祭の時にネックレスと一緒に渡したかった指輪をやっとの思いで渡せる。
ウツィアの細い指に通すと、ウツィアは指輪を撫でながら微笑んだ。
「……綺麗です」
「気に入ったか」
「はい、とても」
「……」
(感無量)
またしても泣きそうになるのをウェズは堪えた。
「嬉しいです。私もウェズの指にはめていいですか」
「ああ」
細い指先が触れるだけでにドキドキするウェズは次のウツィアの台詞にいつものように掴まされる。
「ふふ」
「?」
「私たちやっと夫婦になれました」
「……」
(きゅん)
ウェズがキュン死という古文書用語を覚えるのは少し先の話だ。
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