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2章 本編
60話 女装夫、正体がバレる
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「そ、その領主夫妻に会いたくて来た、ん、だけど」
ずんずん大股で近づき、目の前に立ちはだかる女装ウェズに元酔っ払いは腰を抜かしそうになる。
「何が目的だ……まさか領主の妻に婚姻の申し出をするのか?」
「?!」
(ウェズったら、そんなことまで知ってるの?)
建国祭で吐き気止めを与えた結果求婚されたあれは単なるノリだと思っていたウツィアだったけれど、女装ウェズの殺気ぶりを考えると、あの時夫の目には本気で婚姻の申し出をしているように見えたのかもと余計なことを考えてしまう。
一方、問われた当人は必至だ。
「いやただ領主に会いたくて来ただけなんだけど」
「婚姻している女性に申し出をするのか」
「いや違くて」
「領主に直談判するのか? 離縁しろと」
「いや違くて」
「いくらなんでもお前のような男では駄目だ」
腰にある剣を抜こうと手をかけた。聞く耳もたない女装ウェズの姿に男装ウツィアも焦る。
「ま、待ってくれ」
「そうだよ! ウェズ待って!」
急いでかけより横からウェズの腕を掴む。さすがにウツィアが危ないから剣にかける手を離した。
ウツィアは足を震わせながらなんとか立つ男に「下がってて」と言い、次に女装ウェズを見上げて「落ち着いて」と叫ぶ。それだけでウェズの沸点は簡単に超えた。
「こんな男を庇うのか!」
「せ、せめて話を聞い」
「貴方は下がってって!」
「何故そいつを庇う!」
「だから落ち着いてよ!」
完全に間に張ったウツィアにウェズが近寄る。
「お、俺はただ本当、領主に会えればってだけで」
ギンッとウェズの目が殺気で光る。そのまま手を伸ばし男を掴もうとするのをウツィアは飛びついて止めにかかった。
「黙っててください! ウェズも落ち着いてください!」
「え? あ、ちょ」
「わぷ」
「!」
(ウツィアが転んでしまう!)
背伸びをしてウェズを止めようとしたウツィアがバランスを崩し男にぶつかり、ウェズの殺気で足腰が立たない男はあっさり尻もちをついた。
その時に何かにつかまろうと手にしたのは、ウツィアを助けようと屈んで近づくウェズの髪だった。
ウツィアは助けようとしたウェズの首に腕を回してなんとか転ばずに済む。
「ぐえ」
「っ」
「あ、だいじょ、ぶ、でえ?」
尻もちをつくと同時に頭も打った男は目を回していた。ウツィアはその手に持つアイスブルーの髪の毛に意識が集中する。
(え、髪? え?)
回していた腕の力を緩め、ばっと抱き着いていた先に顔を向けると、そこには見慣れた赤毛があった。
「くっ……え?」
今まで見たことない驚愕の表情をした男装ウツィアを見て、ウェズはなにか嫌な予感を感じる。ウツィアの向こうにアイスブルーの髪が見えた。抱きしめ合っている事実なんてどこかへ飛んで行ってしまうぐらい、焦りの感情がぐっと湧き上がる。
「あいたたた、なんだよもう」
「まったあああああああ!」
ウツィアが近くにあったカウンターの瓶をとって男の目に向かってかけた。
「ひええええ! なんだよこれええええ?!」
「ごめんなさい! 唐辛子だからかなり沁みますって、じゃなくてウェズ!」
「!」
「今の内に! 早く! 行って!」
「え」
「人に見られるわけにはいかないでしょ! 早く行って!」
男を跨がせ先に屋敷に帰ってと叫ぶ男装ウツィアに戸惑うばかりの女装ウェズ。
なにがなんでも人目に晒しちゃいけないという思いしかウツィアにはなかった。
「行って!」
「分かった」
男の手からウイッグをとり、雑に頭につけていつもの馬車を隠している場所まで走る。
それを見届けてウツィアはすぐにたらいに水をはったものとタオルを男に渡した。
「毒じゃないから安心して下さい。水でゆすげば割とすぐに戻ります。あ、領主には正面から屋敷に入ればきちんと受け入れてくれますので! お店は閉店しているのでたらいとかはその辺に置いといてくださいね!」
「はああ?! なんなんだよおおお?!」
店の鍵を閉めて男を残してさよならと去っていく。
男にはなにがなんだか分からない状況だったけれど、ウツィアもウツィアで全くよく分からない状況だった。
ずんずん大股で近づき、目の前に立ちはだかる女装ウェズに元酔っ払いは腰を抜かしそうになる。
「何が目的だ……まさか領主の妻に婚姻の申し出をするのか?」
「?!」
(ウェズったら、そんなことまで知ってるの?)
建国祭で吐き気止めを与えた結果求婚されたあれは単なるノリだと思っていたウツィアだったけれど、女装ウェズの殺気ぶりを考えると、あの時夫の目には本気で婚姻の申し出をしているように見えたのかもと余計なことを考えてしまう。
一方、問われた当人は必至だ。
「いやただ領主に会いたくて来ただけなんだけど」
「婚姻している女性に申し出をするのか」
「いや違くて」
「領主に直談判するのか? 離縁しろと」
「いや違くて」
「いくらなんでもお前のような男では駄目だ」
腰にある剣を抜こうと手をかけた。聞く耳もたない女装ウェズの姿に男装ウツィアも焦る。
「ま、待ってくれ」
「そうだよ! ウェズ待って!」
急いでかけより横からウェズの腕を掴む。さすがにウツィアが危ないから剣にかける手を離した。
ウツィアは足を震わせながらなんとか立つ男に「下がってて」と言い、次に女装ウェズを見上げて「落ち着いて」と叫ぶ。それだけでウェズの沸点は簡単に超えた。
「こんな男を庇うのか!」
「せ、せめて話を聞い」
「貴方は下がってって!」
「何故そいつを庇う!」
「だから落ち着いてよ!」
完全に間に張ったウツィアにウェズが近寄る。
「お、俺はただ本当、領主に会えればってだけで」
ギンッとウェズの目が殺気で光る。そのまま手を伸ばし男を掴もうとするのをウツィアは飛びついて止めにかかった。
「黙っててください! ウェズも落ち着いてください!」
「え? あ、ちょ」
「わぷ」
「!」
(ウツィアが転んでしまう!)
背伸びをしてウェズを止めようとしたウツィアがバランスを崩し男にぶつかり、ウェズの殺気で足腰が立たない男はあっさり尻もちをついた。
その時に何かにつかまろうと手にしたのは、ウツィアを助けようと屈んで近づくウェズの髪だった。
ウツィアは助けようとしたウェズの首に腕を回してなんとか転ばずに済む。
「ぐえ」
「っ」
「あ、だいじょ、ぶ、でえ?」
尻もちをつくと同時に頭も打った男は目を回していた。ウツィアはその手に持つアイスブルーの髪の毛に意識が集中する。
(え、髪? え?)
回していた腕の力を緩め、ばっと抱き着いていた先に顔を向けると、そこには見慣れた赤毛があった。
「くっ……え?」
今まで見たことない驚愕の表情をした男装ウツィアを見て、ウェズはなにか嫌な予感を感じる。ウツィアの向こうにアイスブルーの髪が見えた。抱きしめ合っている事実なんてどこかへ飛んで行ってしまうぐらい、焦りの感情がぐっと湧き上がる。
「あいたたた、なんだよもう」
「まったあああああああ!」
ウツィアが近くにあったカウンターの瓶をとって男の目に向かってかけた。
「ひええええ! なんだよこれええええ?!」
「ごめんなさい! 唐辛子だからかなり沁みますって、じゃなくてウェズ!」
「!」
「今の内に! 早く! 行って!」
「え」
「人に見られるわけにはいかないでしょ! 早く行って!」
男を跨がせ先に屋敷に帰ってと叫ぶ男装ウツィアに戸惑うばかりの女装ウェズ。
なにがなんでも人目に晒しちゃいけないという思いしかウツィアにはなかった。
「行って!」
「分かった」
男の手からウイッグをとり、雑に頭につけていつもの馬車を隠している場所まで走る。
それを見届けてウツィアはすぐにたらいに水をはったものとタオルを男に渡した。
「毒じゃないから安心して下さい。水でゆすげば割とすぐに戻ります。あ、領主には正面から屋敷に入ればきちんと受け入れてくれますので! お店は閉店しているのでたらいとかはその辺に置いといてくださいね!」
「はああ?! なんなんだよおおお?!」
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