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2章 本編

38話 妻以外で婚姻を考えたことはない

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「ではカードとかどうでしょう? あとは星読みとか」
「ああ、頼む」

 この店から早く出てもらって他を回るよう誘導していかないといけない。仕事はするけど手早く終わらせようとウツィアは決意を固くした。

「ではカードを……何を占いますか?」
「……」
「本日は奥様と御一緒のようですが、夫婦仲は良好ですか?」
「ああ……今日初めて一緒に出たから少し緊張している」

 ウツィアは意外な夫の言葉に驚いた。

(緊張してるんだ)

 緊張している素振りはなかったけれど、彼なりに領地回りを夫婦で行うことは思う所があるらしい。

「もっと一緒にいて仲を深めた方がいいのでは?」
「もっと?」
(離れ難くなってしまう……いやもう充分離れ難いが)

 戸惑う夫を見て、この際だから恋愛系で攻めようと占いを進めた。

「折角なので相性診断もしちゃいましょうか!」
「え?」

 カードはウツィアにとって喜ばしい結果が出た。

「妊娠のカード……」
「え?」
「子を成してもよろしいのでは?」
「しかし……」
「話すことを増やした方がいいカードも出ましたし、一度奥様と話されては?」

 孤児院に行った時に話をと促したものの、それからあまり深く話をしていない。会話も一緒にいる時間も増えたけれど、深いところの話が出来ないでいた。ウツィアとしてはこれを機に子作り拒否の根本について確認したかった。
 孤児院ではあんなに子供が懐いていたし、ウェズ自身も嫌そうではなかった。むしろ積極的に面倒をみていたあたり、子供好きだと思ったぐらいだ。
 仲を深めることを優先していたけれどチャンスかもしれない。けれどウェズは当惑したままだった。

「……しかし」
「奥様は子をお求めではないのですか?」
「ああ」
「では旦那様が子供をお嫌いなのですか?」
「子供は好きだと思う……だが妻の為を想うと私が手を出してはいけない」

 なにそれと肩の力が抜けた。結婚している夫婦に手を出してはいけないなんて、どういうルール? ウェズの考えがさっぱり分からない。けれど話し合いが必要なことはよくわかった。

「少しは奥様の主張に応えてあげてください。話し合いもね」
「……」

 妊娠のカードに話した方がいいカード、加えて秘密を示すカードまで出ている。ウェズはまだウツィアに話していない何かが深い所にあるということだ。

「こちら、秘密の意味合いがございます」
「え?」
「何か奥様に対して話していないことでもあるのでしょうか?」

 責められているような気がしてウェズは急いで弁明した。

「浮気はしていない。するつもりもない」
(好きなのはウツィアだけ)
「そうですね……こちらのカードがそれを示しています。領主様はとても公平な心をお持ちだと」
「私には妻だけだ」
「ええ。この秘密のカードは貴方自身の中身のことを示しているので浮気でないことは明白です」
「え……中身?」
「はい。自分のことについてよく考えてください」
「自分の、こと」
「ええ、ご自身の気持ちを特に」

 そして気持ちがまとまったら妻に話すようにと伝える。カードはここで終わりだ。
 次は星読みで夫のことをみていく。
 どこかでみたような気がしたけれど、深くは考えずに先に進むことにした。
 話す内容も以前したような気さえするぐらい。

「星読みでも家庭を大事にする方と出てます。今は夫婦仲が少し掛け違ってるだけですね」

 当たり障りない範囲で伝えた。
 共々まとめに入る。

「奥様は喜んで話を聞いてくださいます」
「……」
「後は星の配置をみる限り、領主様がもう少し愛想よければモテますね」
「愛想?」

 元々渋面が基本ベースで世間の噂と顔の怪我があり、令嬢たちの間であまり良い印象がなかった。本当はとても優しいし、渋面でなければ愛嬌があって可愛い。それがもっと広まれば引く手あまただ。

(でも他の令嬢にモテても嫌かなあ……ウェズは浮気はしないタイプだけど、妻として一番がほしいというか)

 自分以外に笑顔を向けモテる夫の姿を想像してウツィアは胸焼けする思いだった。

「奥様にだけ愛想よくしてください」
「え?」
「あ、しまっ……」
(心の声出てた!)

 もう遅い。うまく取り繕わないと。

「い、いえ、そのま、まずは夫婦仲からですよね、ということで」

 愛想がよくなってモテて早々に離縁がきても困るしと心の中で言い訳しながらウツィアは慌てて自分の発言をフォローした。

「他意はありません。それに今回占っているのが夫婦のお話だからこそであって、最悪の事態を防ぐ為にですね」
「分かった」

 終始濁し気味の口調だった夫が急にしっかり断言したのでウツィアはちらりとローブ越しに夫を覗き見た。こちらを真っ直ぐ見ていたのですぐに視線を下げて見えないようにする。

「妻との関係について良くなるよう改める。それに……私は妻以外で婚姻を考えたことはない」
「え?」
「ありがとう。有意義な時間だった」

 何を納得したのか、言うだけ言って占い部屋を出ていくウェズを見て、ウツィアも急いで控室を経由して店に戻った。

(え? 今なんて言ってた?)

「ウツィア」
「あ、すみません。トイレでした」
「そうか」
「えっと、占い終わったんですね」
「ああ」

 その後もお茶を飲みながら領地回りの話をする。この領地は街だけではなく広大な森も川も所有していた。思っていた以上に占いに時間がかかったこともあり、数日かけてそういった部分も回ろうとウェズが提案し、ウツィアは喜んでと頷く。
 帰りの馬車の中、夫を見つめながらウツィアは占いの時の言葉が頭から離れなかった。

(私以外で結婚を考えたことがない……もしかして愛されてる? 妻として認めてくれてる?)

 そんな素振り今までどこにもなかったはず。自分の存在に慣れてきたかな程度に思っていたところに想像のつかない言葉に動揺し、ウツィアはどぎまぎしながら屋敷に戻った。
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