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2章 本編
36話 夫婦揃ってなにしてんの
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限界が来てヤクブとシモンの二人が倒れ込んだ時、鈴の鳴るような可愛いらしい声が響き、ウェズの手が止まった。
「旦那様」
「……どうして、ここに」
侍女のマヤを連れて鍛錬場の見学に来たと言う。今まで乗馬で朝しか来なかった主の妻の姿に騎士たちの視線が刺さった。
「乗馬ではここに来てましたけど、騎士たちの鍛錬場としては一度も来たことがなかったので、その、妻としてどういった感じなのかなと見に来たんです」
事前に言わずにごめんなさいと謝るウツィアに謝らなくていいと焦るウェズを見て、なんとか立ち上がったヤクブとシモンは不思議そうに眺めていた。
自分たちに向けられていた殺気がどこにもない。先程までの戦場を知らないウツィアはヤクブとシモンを指して話をしてもいいかと夫に許可をとってきた。一瞬空気が固くなるも、ウェズは頷き了承する。
微笑みそのまま、ちょこちょこやってくるウツィア。ずっとウェズの機嫌をとってればいいのにとヤクブとシモンは思った。
「えっと、名前は」
「あ、俺がヤクブで、こっちがシモンす」
「そう……ちょっといい?」
急に声を潜めた。ウェズは側近と話をしていて聞いていなさそう。
「私達の出会いなんだけど」
「出会い?」
「夫に問われたら偶然買い物に来てた私に偶然会ったことにするようにね! 男装してることは絶対言わないでね!」
「隠してるんすか」
「そうなの。女主人の仕事もしないで店開いて稼いでるとかよくないでしょ?」
「あーまー」
「分かりましたわ」
「ありがとう!」
言うだけ言って安心したように夫の元へ戻る妻の姿に、ヤクブとシモンは首を傾げた。
「夫婦揃ってなにしてんの?」
「わけ分かんねえけど?」
「御二方」
「ひょ!」
カツペルがさり気なく二人の背後をとった。ウェズはウツィアと話しててそれどころじゃないようだ。
「ご夫婦の現状ですが」
ざっくり男装と女装のことを話すと二人は呆れて息を吐いた。
「よく分かんねえすよ」
「なんでそうなった?」
「お気持ちは分かりますが、まあその内解決すると思います」
「まあ領主様、奥様すげえ好きみたいだしなあ」
「ええ、暫く見守ってあげてください」
一方、突然訪れたウツィアにウェズは戸惑うばかりだった。
「お仕事お疲れ様です」
「ああ」
「どうですか? あの二人、やれそうですか?」
「……筋は悪くない。ただ素人なので時間はかかる」
「そうですか……あの、たまにここに来てもいいですか?」
「え?」
そんなにあの二人が気になるのだろうかともやっとする。
「剣を使うウェズを見ることがないから、どんな姿なのか見たくて」
「え?」
(私を見に?)
ヤクブとシモンを理由にして、夫と親睦を深める手段をもっと持とうと思ってウツィアは言ったのだけれど、その言葉だけでウェズには効果が高い。
「戦争でしか剣を振るう姿を見られないかと思ってたんですけど、ここでなら見られるかなって」
「……怖くないのか」
「いいえ、格好良いです」
「ぐっ……」
(嬉しい)
ウェズが言葉を失ったのはウツィアの言葉に心を鷲掴みにされたからだったけれど、彼女は急に押しかけて困っているのだろうかという思いが頭をよぎった。
「あ、御迷惑かかるようでしたら遠慮します」
「いや」
「?」
「………好きに来ていい。これからこの時間はここにいるから」
「いいんですか?」
「ああ」
「ありがとうございます!」
「いや……」
(可愛い)
朝は乗馬、昼は店、業後に剣の稽古で、屋敷に戻ってからの夕餉までの時間を鍛錬場で会う。いつの間にかほぼ一日一緒にいることになっているけれど、当人たちはそれに気づかない。あまつさえ、これからこの流れで夕餉を一緒にすることになるのも当人たちは知る由もなかった。
「そういえば、あの店」
夫の突然の言葉にやばいバレるとウツィアは震えあがる。
「いえ! たまたま偶然に偶然であの二人とは出会ったんです」
「あの店、」
「あー! あの! 私がよく行く店でして!」
「よく行く」
間違いではない。働きによく行っている。
「化粧品を買ってます! じょ、常連みたいなもんです!」
間違いではない。自分で作った化粧品はウツィア自身も使っている。
「……そうか」
「はい」
それ以上ウェズからの追及はなかった。慌てるウツィアが可愛くて和んでしまったからとは気づいていないけれど、外野はきちんと気づいていた。ヤクブとシモン、そしていつものことだと分かっている側近のカツペルだ。
「めっちゃ奥様好きなんじゃん」
「そうなんですよ。分かりやすいでしょう?」
「あれで奥様気づいてなさそうだけど? 本っ当よくわからねえす」
「誰しもがそう思っています」
「旦那様」
「……どうして、ここに」
侍女のマヤを連れて鍛錬場の見学に来たと言う。今まで乗馬で朝しか来なかった主の妻の姿に騎士たちの視線が刺さった。
「乗馬ではここに来てましたけど、騎士たちの鍛錬場としては一度も来たことがなかったので、その、妻としてどういった感じなのかなと見に来たんです」
事前に言わずにごめんなさいと謝るウツィアに謝らなくていいと焦るウェズを見て、なんとか立ち上がったヤクブとシモンは不思議そうに眺めていた。
自分たちに向けられていた殺気がどこにもない。先程までの戦場を知らないウツィアはヤクブとシモンを指して話をしてもいいかと夫に許可をとってきた。一瞬空気が固くなるも、ウェズは頷き了承する。
微笑みそのまま、ちょこちょこやってくるウツィア。ずっとウェズの機嫌をとってればいいのにとヤクブとシモンは思った。
「えっと、名前は」
「あ、俺がヤクブで、こっちがシモンす」
「そう……ちょっといい?」
急に声を潜めた。ウェズは側近と話をしていて聞いていなさそう。
「私達の出会いなんだけど」
「出会い?」
「夫に問われたら偶然買い物に来てた私に偶然会ったことにするようにね! 男装してることは絶対言わないでね!」
「隠してるんすか」
「そうなの。女主人の仕事もしないで店開いて稼いでるとかよくないでしょ?」
「あーまー」
「分かりましたわ」
「ありがとう!」
言うだけ言って安心したように夫の元へ戻る妻の姿に、ヤクブとシモンは首を傾げた。
「夫婦揃ってなにしてんの?」
「わけ分かんねえけど?」
「御二方」
「ひょ!」
カツペルがさり気なく二人の背後をとった。ウェズはウツィアと話しててそれどころじゃないようだ。
「ご夫婦の現状ですが」
ざっくり男装と女装のことを話すと二人は呆れて息を吐いた。
「よく分かんねえすよ」
「なんでそうなった?」
「お気持ちは分かりますが、まあその内解決すると思います」
「まあ領主様、奥様すげえ好きみたいだしなあ」
「ええ、暫く見守ってあげてください」
一方、突然訪れたウツィアにウェズは戸惑うばかりだった。
「お仕事お疲れ様です」
「ああ」
「どうですか? あの二人、やれそうですか?」
「……筋は悪くない。ただ素人なので時間はかかる」
「そうですか……あの、たまにここに来てもいいですか?」
「え?」
そんなにあの二人が気になるのだろうかともやっとする。
「剣を使うウェズを見ることがないから、どんな姿なのか見たくて」
「え?」
(私を見に?)
ヤクブとシモンを理由にして、夫と親睦を深める手段をもっと持とうと思ってウツィアは言ったのだけれど、その言葉だけでウェズには効果が高い。
「戦争でしか剣を振るう姿を見られないかと思ってたんですけど、ここでなら見られるかなって」
「……怖くないのか」
「いいえ、格好良いです」
「ぐっ……」
(嬉しい)
ウェズが言葉を失ったのはウツィアの言葉に心を鷲掴みにされたからだったけれど、彼女は急に押しかけて困っているのだろうかという思いが頭をよぎった。
「あ、御迷惑かかるようでしたら遠慮します」
「いや」
「?」
「………好きに来ていい。これからこの時間はここにいるから」
「いいんですか?」
「ああ」
「ありがとうございます!」
「いや……」
(可愛い)
朝は乗馬、昼は店、業後に剣の稽古で、屋敷に戻ってからの夕餉までの時間を鍛錬場で会う。いつの間にかほぼ一日一緒にいることになっているけれど、当人たちはそれに気づかない。あまつさえ、これからこの流れで夕餉を一緒にすることになるのも当人たちは知る由もなかった。
「そういえば、あの店」
夫の突然の言葉にやばいバレるとウツィアは震えあがる。
「いえ! たまたま偶然に偶然であの二人とは出会ったんです」
「あの店、」
「あー! あの! 私がよく行く店でして!」
「よく行く」
間違いではない。働きによく行っている。
「化粧品を買ってます! じょ、常連みたいなもんです!」
間違いではない。自分で作った化粧品はウツィア自身も使っている。
「……そうか」
「はい」
それ以上ウェズからの追及はなかった。慌てるウツィアが可愛くて和んでしまったからとは気づいていないけれど、外野はきちんと気づいていた。ヤクブとシモン、そしていつものことだと分かっている側近のカツペルだ。
「めっちゃ奥様好きなんじゃん」
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「あれで奥様気づいてなさそうだけど? 本っ当よくわからねえす」
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